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オタクと美少女はバンドでギャルゲーソングを知らしめたい?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章!僕らのギャルゲーソングを紡ぐ物語は終わらない!ネクストステップ編
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第百五十五話「秘めたる可能性を疑うのは性」

 打ち上げの後、MARINAさんと別れ際にも奇妙なことを言っていた。


「少年。君らはギャルゲーソングを歌うバンドとしてやっていくのもいいんじゃないか?」


「……それって、MARINAさんみたいになれと?」


「まあ、わたしくらいのところに来るには相当な年数が必要だけどね」


「ぬぐっ! まっ、まあ……まだそこまで考えていないですし、なろうとまではみんなは望んでないんじゃないですかねえ」


「普通なら学生は大学に進学するのが当たり前の進路だもんね。けど、君たちはもったいないけどなあ……特に少年と芹沢さんは」


 MARINAさんはそう僕と芹沢さんの顔を見ながら、なにか考えるような表情でそんなことを口にする。


 ギャルゲーの主題歌などを歌うプロのバンドになれという彼女の言葉に、僕は正直ピンと来ない。僕らがプロのバンドとは想像がつかないし、そこまでの実力はない。


 ――けど、そうなれたなら……きっとすごいだろうな。


 もしもの話に、僕は少し思いをはせてしまう。


「けど、少年らと演奏は本当に楽しかったよ。また、機会があったら一緒にやろう」


「いいですけど、その時は自分のマイクスタンドとギターは用意してくださいね。あと、もうサプライズ登場とかは勘弁です」


 わっはっはと僕の言葉を聞いたMARINAさんは大笑いをする。いや、本当にそうである。


 その後、MARINAさんのマネージャーさんがどこからか現れて、スケジュールを確認する形で去っていった。


 そこまでまともな別れ方はできなかったが、彼女は感謝の言葉しかないだろう。


「あーあ。もっと話せたらよかったねー」


「そうだね。わたし、MARINAさんに言いたいことがいろいろあったなあ」


「そっ、そうですよね……芹沢先輩は」


 他のみんなも口惜しそうに言いながら、MARINAさんの後ろ姿を見ている。それぞれが、言いたいことなどがあるのだろうけど仕方がない。


 それこそ、またどこかで一緒にライブができる時があることを願うばかりだ。


「ところで、キョウちゃんは最後になにを話していたのー?」


「え? いや、まあ……」


「あやしー! 芹ちゃん! この男ににらみつける攻撃してよー!」


「こらこら……」


 茶化してくる響子に僕は冷静に対処をする。芹沢さんのにらみはなぜか怖いし、全力で避けたい。


 プロになればという話は、後日の笑い話にすればいいだろう。僕は適当に響子たちを誤魔化す。


 ――ドドドドドドドドドッ!


 すると、どこからかイノシシが現れたような足音が近づいてくる。


「いわさきぃぃぃぃぃ! はあ、はあ……MARINAはどこだああああ?」


「金本先輩、なんでここに? 関係者以外は立ち入り禁止ですよ?」


「この金本様は関係者だろうがぃぃぃぃ! ここに来るのにどれほどの警備員を吹き飛ばしてきたか」


「けど、金本先輩は観客席側にいましたよね? どうでしたか? 僕らの演奏はよかったでしたか?」


「そんな感想はどうでもいい! 彼女に会わせてくれ! 一言お礼とこのギャルゲーについて熱く語らせてくれまいか」


 そう金本は見たこともない真剣で切羽詰まった顔で、僕にそう懇願してくる。けれど、時はすでに遅し。


 MARINAさんはマネージャーと一緒にこの場を後にしたし、すでにイベント会場の外へ出ただろう。


 いまさら追いかけたところで間に合うわけもない。


「えっとですねえ……」


 金本に事実を伝えたら、彼はどう反応するだろうか。そんなものは決まっているし、それを止めるだけの体力は残っていない。


 どうすれば穏便にできるか考えていると、金本が現れたことにみんなも気が付く。


 そして、こともあろうに響子が金本に話す。

「あー! 金ちゃん! 来るのが遅すぎじゃなーい? もう少し早く来れば、打ち上げとか参加できたのにー。金ちゃんの推しであるMARINAさんもいたんだよー」


 ――まてまて、響子。金本の来るタイミングが悪かったことを茶化すのはいいが、打ち上げのことまで言うんじゃない。そんなことを言ったら……。


 響子の言葉を聞いた金本は、ほんのわずかに硬直する。その数秒後にまるで鬼のごとくキレ始めた。


「きええええええい! 打ち上げだとぅ? ということは、あのMARINAと飲み食いをしたのか……この金本様を抜きにしてえええええ!」


「落ち着いてください! ここで奇声を上げるとみんなから白い目で見られますよ。金本先輩はただでさえ、不審者みたいな見た目ですし」


「岩崎ぃ! 貴様ぁ、この金本様をさらに侮辱をしてあざ笑うのかああああ! きえええええい!」


 もはや、こうなってしまった金本を止めることはできない。


 奇声を響かせ暴れ始める金本を、必死に押さえつけて逃げるように僕らもイベント会場を出ていった。


 外に出てもなお機嫌の悪い金本をなぐさめるため、すでにお腹はいっぱいだが僕らは金本を連れて近くにある喫茶店に入ることにした。


「まあ、今回のライブは伝説として語り継いでもいいくらいであろう」


「はっ、はあ?」


 喫茶店の席について早々に金本がそう僕らに向かって語り始める。先ほどの不機嫌はどこへいったのだろうか。


 だが、ギャルゲーソングを知り尽くし、MARINAさんのコアなファンの金本が言う総評は的確であった。もちろん演奏の良し悪しだけでなく、各パートのパフォーマンスに対しても詳しく話す。


 それでも話の中で一番語っていたのはMARINAと一緒にステージに立っていたこと。


「その中でもあれだけMARINAと渡り合うように自分の楽器で曲を弾けたのは、実にあっぱれだ。バンドマンとしても、そうできることではない」


「けど、キョウちゃんはステージに棒立ちしてただけー! なにしてんのかと思ったわー」


「あれはしょうがないだろう! ギターもマイクスタンドも取られたようなものだったし」


「うむ! 岩崎君など、もはや空気でしかなかったな! だが、それもそれで結果オーライだ」


 響子と金本は僕のステージでの出来事を笑いのネタのようにして話しながら盛り上がる。本人としては、それは記憶から消し去りたいとすら思うくらい恥ずかしいものだ。


 だが、会話の中で金本は面白いことを言う。


「観客席側で見ていたのだが、他のファンの人たちがいつの間にかスマホのカメラで動画を撮っていたのはおどろいたぞ」


「それって、ギャルゲーソングのライブとかでは普通なんですか?」


「まさか! 無断で撮るなどマナー違反の極みだろう! 真のファンとは言えぬ!」


「けどー、SNSとかでたまに流れてくるとつい見ちゃうよねー! んで、そこから興味が出てアーティストやらギャルゲーを調べたりさー」


 たしかに響子の言うことは一理ある。


 ギャルゲー関連だけとはいえず、いろいろな無断転載などの動画がネットに出回っている。けれど、その映像や写真を見た時に心奪われることもある。


 その音楽や映像を一瞬でハマってしまい、どうしても詳しく知りたい衝動にかられてしまう。僕ですらそんなことが起きたこともあった。


「この金本様の推測では、今回のミニコンサートを録画したのをネットにアップをしたならした、間違いなくバズると思うのだよ」


「いやあ……そうだとしても、MARINAさんのところを切り抜いたとこだけでしょうし、僕らはまで話題にはならんでしょう」


「はっはっは! たしかに! まあ、君らなんぞいらんからな! MARINAだけが見れれば他のファンも満足だろうさ」


「まあ、誰かが今回のミニコンサートをネットにアップしてるとは思わないですよ」


 僕はそんなことが起きるはずはないと、思いながら金本に答える。


 無名の高校生バンドがギャルゲーソングのアーティストと一緒にやったとしても、大した話題になるわけがない。


 この時は僕らはそう思っていた。

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