第百四十六話「壮行会!からのミニコンサート当日! けれど問題はありまして」
「それでは! わが校の希望である音楽同好会が成功を収めるために……盛大なエールをお送りしましょうぉぉぉぉぉ!」
「……なんぞ、これ?」
ミニコンサート前日。僕らの学校で盛大な壮行会が行われているのだが、校長含む先生方のテンションが異様に高い。
その逆に、体育館へ集めさせられた全校生徒は早く帰りたいという空気を漂わせていた。
「どうにも、あたしらが知らないところで大人たちが暗躍していたらしーよ?」
「イベント会社と僕らの学校で?」
「それも含め、MARINAさんの事務所ともなにかしらやりとりがあったってパパが言ってたー」
「……莫大な寄付でも要求したのではないかって、生徒の間ではウワサになっているみたいです」
体育館のステージに立たせられている僕らは、そんな話題を話している。ミニコンサートが明日だというのに、僕らへ遺恨を残すようなことはやめてほしいものだ。
まあ、僕が自信満々で大きなことをしてやると宣言したけれど、単なるイベントに出るくらいにしか生徒たちは思っていないのだろう。
特別、テレビに映るわけでもないし有名になるわけでもないのだからなおさらだ。
けれど、僕らにとってはそれに匹敵するくらいの重大なイベント。
「まあ、もし観客がSNSとかですごーい! とかつぶやいたら、一部界隈で有名になる可能性はあるんじゃなーい?」
「ギャルゲー好きの人たち限定って、ところでしょうけど……それでもそうなったらうれしいなあ」
「そうそう! 先輩たちはすでにそういう経験あるでしょうけど、あたしたちだってチヤホヤされてみたいんですよー!」
そう瑠偉と瑠奈は響子の話を聞いて、切なる願望を思わず口にしまっていた。
まあ、僕らは有名になるとか生徒や学校の期待なんて考える必要はそこまでない。やるべきことをやって、結果を残せばいい。
「校長先生が言ったことじゃないけど、ミニコンサートでは絶対に成功させよう。それだけは、確実にね」
「「もちろんです!」」
僕の言葉に、みんなは大きな声で答える。
「あのー、壮行会を無視して自分たちで盛り上がらないでくださーい」
わあわあとステージの上で騒いでいる僕らは、司会の生徒から冷ややかに注意をされてしまった。
騒がしくも壮行会が終わり、僕らはミニコンサート本番を迎えることとなった。
ミニコンサートの会場は、とあるビルの特設ステージだ。
ギャルゲーの販売促進もかねてのイベントでもあるためか、ジャスティンさんのメーカーは気合が入っている。
「おお……すごい人だかりだ」
「まあ、別にミニコンサートを観に来る人だけってわけじゃないからねー。ギャルゲーだけ買いに来る人もいれば、ギャルゲー会社の人と交流が目的って人もいるさー」
ミニコンサート本番までまだ数時間の余裕はある。僕らは、リハーサルと主催者側とのミーティングを待つ間、会場内を見て回ることにした。
それにしても、人の多さに僕はおどろく。
いろいろなメーカーが集まってのイベントではなく、ジャスティンさんのギャルゲー会社のみにも関わらず、たくさんの人が集まっている。
「ゲームだけでなく、なんか薄い本まで売っているのか……なかなかの商売上手だなあ」
「岩崎先輩……まだ、時間はありますよね? 俺たちも買い物とかしてきていいですか?」
「え? あっ、ああ。別にいいけど……」
目を輝かせながら他の買い物客をうらやましそうに見ている瑠偉たちに、僕はそう言うしかできなかった。
そのまま瑠偉と瑠奈はお財布を手にもって、物販コーナーの中へと消えていった。
「まったく。すぐにミニコンサートで演奏をするのに緊張感のないやつらだ」
「けど。だからこそ息抜きも必要なんじゃないかな?」
「芹沢さんはコンディションとかは大丈夫? 壮行会でも浮かない顔をしていたけど」
「大丈夫大丈夫! ただ……」
「やっぱり、ギターソロのこと? そこはみんなとも話し合ったし、MARINAさんも芹沢さんのギターでいくべきって言ってくれたから、自信を持っていいんだよ?」
「ありがとう。ソロを任せてもらえるのは納得しているんだけれど、岩崎君やMARINAさんのような、誰かに伝える気持ちがわたしには薄いんじゃないのかなって思っていたんだ」
ギャルゲーだけでなく、すべての曲に入っているギターソロはただのお飾りではない。特に、ギャルゲーの物語を歌ったような楽曲の場合はソロに強い意志みたいなものを感じるものが多い気がする。
僕はギャルゲーソングのソロを弾くときは、曲のイメージを強く抱くだけでなくギャルゲーの物語をすべて理解をしたうえで、その良さを知らしめたい気持ちを表している。
それがダイレクトに伝えていると、以前金本から言われたことを思い出す。MARINAさんにしても、自分の持ち曲であるし当然ゲームのすべてを知って作ったはず。思いは僕以上のものだろう。
芹沢さんはそういったものが自分にはないと思っているのだろうか。少なくとも、彼女のギターは人を惹きつけることができるものだと僕は思っている。それだけの才能が芹沢さんには秘めているのだから。
「大丈夫だよ。芹沢さんは誰かと同じような感じで弾くよりも、自分らしくギャルゲーソングをどう伝えたいかをはっきりさせれば」
「うーん。それが今回の演奏で出せるかな」
「そこは心配をしなくてもいいさ。仮に今日のミニコンサートでそれが出せなかったとしても、これから芹沢さん流でギャルゲーソングを知らしめていけばいい」
「岩崎君……」
たしかにミニコンサートは絶対に成功させたいし、なにかしらの結果を残す。けれど、芹沢さんやみんなにはそんなことなど考えず楽しくやればいいのだ。
「なにより僕らがこのギャルゲーソングを楽しくやれさえすればいいのさ!」
「うん!」
僕の言葉に芹沢さんの表情は変わる。そうだ。根本的な演奏のモチベーションはそれでいい。
そして、僕らは必ずミニコンサートで観客を盛り上げさせてやる。
「オー! 岩崎ボーイ! ここにいましたネー!」
「ジャスティンさん?」
僕らを見つけたジャスティンさんがどこからともなく現れる。その横には、イベントの関係者だろうか、見慣れない人が複数いる。
「今回のミニコンサートを計画したプロデューサーとMARINAのマネージャーさんなどなどのオトナたちデース」
「はっ、はあ……その紹介の仕方はともかく、今回はありがとうございます! あの、よろしくお願いします!」
「ははは! 最初はみんな難色を示していたけれど、ジャスティンさんから猛プッシュされたけれど、君たちの演奏の音源を聴かせてもらってこれはいける! と思ったんだ。こちらこそ今日は頼むよ」
「「ありがとうございます!」」
僕と芹沢さんはプロデューサーさんたちの言葉を聞いて深々と頭を下げた。
「それじゃあ、これから最終打ち合わせとリハについて話し合おうか。とりあえず、代表者も岩崎君だっけ? 君だけでいいから少し時間はいいかな?」
「はい。それは構わないですけれど」
こういうのはメンバー全員と思っていたが、今回は僕だけのようだ。プロデューサーさんたちに言われるまま、僕は彼らについて行くことにした。
僕は芹沢さんにそのことをみんなに伝えるように頼むと、すぐに芹沢さんは伝えに走っていった。
「しかし……問題は」
打ち合わせが行われる部屋について早々、MARINAさんのマネージャーがそう口にする。
まさに、それは今回のミニコンサートで起きることの最大の問題であった。