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オタクと美少女はバンドでギャルゲーソングを知らしめたい?!  作者: 獅子尾ケイ
最終章!僕らのギャルゲーソングを紡ぐ物語が終わらない!ミニコンサート準備編
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第百三十二話「これが僕らが頑張った練習の成果だっ……」

 金本との練習をした翌日。僕は芹沢さんたちに、その成果を披露しようと部室に集める。


「ということで、みんなにも是非聴いてもらいたい」


「いや……それはいいんだけどさー。なんで、そんなに顔色が悪いのー?」


「うっ、うん。岩崎君、大丈夫? それに、金本先輩も……」


 芹沢さんが僕と金本の顔を見て、心配そうに声をかけてくる。


 まあ、それは無理もない話だ。昨日から、学校に行くギリギリの時間まで貸しスタジオで歌っていたし、眠ることすらしていなかった。


 それであるがゆえか、顔は死んだような感じで喉も良い状態ともいえない。


 けれど、そんな悪いコンディションの中でもみんなにすぐ聴かせたいのだ。


「大丈夫! それより、すぐに歌うから待ってて」


 僕はそう芹沢さんに答えて、マイクスタンドを用意する。


 ふらふらになりながらも、マイクを取り付けてスピーカーに繋げて音出しのチェックも忘れずにチェックをしていく。


 その横で今にも眠りそうな顔をしている金本が、パソコンを立ち上げて楽曲の準備を手伝う。


「金本先輩、大丈夫ですか?」


「うむ! 問題はないが、君のギターが間に合わなかったのは実にくやしいところだ」


「ギターも同時に練習をしたかったんですけどね……いつの間にか歌だけになってしまったからなあ」


「それは認めるが、やむを得ない。ギターは後で徹底的に覚えさせるから、今はボーカルだけでやろうではないか」


 普段はそういうところをこだわる金本であったが、今回はそうさせないくらい疲労感がすごいのだろう。まあ僕も金本もそれだけ必死になって、この曲を僕が完璧に歌えるように努力をしたのである。


 その努力をここで試せることは、いいきっかけになるだろう。


「よし! いつでも音出しはオーケーだ! さあ、岩崎君。僕らの、練習の成果を見せびらかせてみせーい!」


「おおー!」


「……知らない間に、あの二人がさらに親密になっている気がするー!」


 金本からの激励に僕が答えると、引いた顔で響子が茶化す。けれど、そんなことは構わずに、僕はマイクスタンドの前に立って、マイクを握る。


 そして、金本がタイミングよくパソコンで曲を再生させた。


 ――ジャラララーン!


 曲のイントロが流れ始め、僕はその音を目を閉じて聴く。


 バンドをやってていると、CDの音源でも頭の中でそれぞれの音を分離して聴くことができる。


 ドラムのリズム。ベースだけの低音。それ以外の音色もすべてだ。


 それぞれの音を聴き、僕のボーカルを組み合わせるベストな位置を把握できる。そして、僕は楽曲のリズムを崩すことなく、自然に声を乗せる。


 歌が曲と重なり、この瞬間にこの曲が僕のものへとなる。いや、そうさせていく。


「うむ! まずは歌いだしは良しとしよう」


 金本がそう小さく話す姿を見た僕は、そのまま歌い続けた。金本がそう言うのだから間違いないだろう。


 Aメロの入りは完璧。それと同時に僕が歌いだしてから、みんなの雰囲気がガラリと変わったのを感じる。


 あれだけ茶化していた響子ですら、黙って僕の歌を聴き込んでいた。少なくとも、これまでにないモノをみんなは耳で感じてるようであった。


 僕自身はいつもと変わらない歌い方だが、そこに様々な変化を加えている。ただ、アーティストの歌い方を真似ているわけではない。


 歌詞の言葉一つ一つの意味を頭に叩き込んでいた。それは金本様がギャルゲーの物語をすべて知り尽くしているからであり、歌うアーティストがどうこの歌詞を読んでなにを思って歌ったかもわかっているのだろう。


 まさにギャルゲーオタクがゆえの知識を叩き込めれた僕は、それを解き放つのみである。


 ――喉がすでにイカれはじめてきたけど……このまま、押し通るぜい!


 まだまだおどろくのはこれからだと、僕は喉の疲労を我慢してそのまま歌う。


 サビにかけて、最初に比べて明らかに進化したことを響子たちに知らしめてやると意気込むも、そこでトラブルが起きる。


 みんなの僕が歌う声に対する反応がいいと思って、サビの入りで声のボリュームを上げようとした時に声が出なくなっていく。


 というよりも、枯れたようなザラザラとしたような変な声に段々と変わっていった。


「んん……ぼわああああ!」


 しまいには、こんな意味のわからない言葉が出てくる。


「きええええい! きさまあああ、なぜそこで変になるのだあああ! せっかくいい感じであったのにぃ」


「ずみまぜん……やっぱり、のどが」


「これじゃあ、曲のアーティストに失礼だろう! 台無しであるし、なんてことをしてくれるんだあああ!」


 誰よりも先に金本が僕の異変に気付き、そして怒号を飛ばす。その様子を見ている響子たちは、苦笑いを浮かべて黙っている。


 結局、歌も途中で止まってしまい最後まで歌うことができなかった。


 せっかくみんなに僕の歌を聴かせそうとしたのに、金本の言うように台無しである。


「ごめん……みんな。金本先輩と猛特訓したのに、この有様さ」


 僕は聴いてくれていたみんなに頭を下げて謝った。すると、芹沢さんが僕に声をかける。


「岩崎君……のどは大丈夫なの? もし、痛みがあるなら病院に行こう?」


「へ? あっ、いや。大丈夫だけど、その……今回は歌を失敗したけれど、次こそは」


「今はのどのことを第一に考えよう? もしミニコンサートの時になにかあったら大変だもの」


「いや、芹沢さん。 僕の歌がどう変わったとか、これでいける! みたいなものをみんなが思ってくれないと、先に進めなくてで」


 心配をしてくれる芹沢さんに申し訳ないけれど、歌の評価がもっとも大事なことである。みんなからの言葉がなければ、今後の練習にも影響するはずだ。


 なにかしら爪あとを残すくらいのことをしなければ、金本と頑張ったことも無駄になってしまうと僕は考えてしまう。


 けれど、僕がそう口にするとみんなから意外な声が返ってきた。


「いやー! キョウちゃんー! あれでいいんだよー。Aメロのところから聴いただけで、あたしはザワザワとしたもんー」


「そうですね。岩崎先輩のボーカルは何回も聴いてますけど、さっき聴いたときに今までにないものを感じ取れましたよ」


「うん。純粋にライブとかですごいことが起きそうな……」


 そう響子や瑠偉たちが、目を輝かせながら話している。


 まだすべてを歌っていないにも関わらず、こんな反応を見せるとは思わなかった。


「わたしもみんなと同じことを思ったよ? だから、岩崎君ののどがとても心配になったんだ」


「芹沢さん……」


 芹沢さんは微笑みながら優しく僕に話している。その目は、歌った僕のことは信じ切っているように見えた。


 ――芹沢さん、もしかして歌う前から僕のことを信じていたのか? どんな歌い方をしても、味方でいてくれるように。


 僕は彼女を見ながら、そう思ってしまう。岩崎君ならば、ミニコンサートの本番でまた奇跡を起こしてくれるはずという意思を感じる。


「ふははははは! さすが、この金本様が熱烈に指導をしたからこそのたまものだな!」


「いや……金本先輩、最後に手柄をかっさらうのような言い方はやめてくださいよ。さっきはめちゃくちゃに悪く言ってたじゃないですか」



「終わりよければすべてよし! さあ、君は喉を休めたまえ。芹沢さんのギターを今度は熱血指導せねば……ぐふふふ」


「ははははは……」


 金本の気持ち悪い声に、芹沢さんが苦笑いを浮かべている。けれど、僕のボーカルがみんなになにかしら感じ取ってもらえたのはよかった。


 このボーカルでやっていくことが決まり、後はオケの練習だ。


 ギャルゲーソングをカバーする僕らのバンド練習が、本格的に始まる。

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