第十三話「理由はどうあれ、新しきギャルゲーソングを発見だ!」
貸しスタジオの床に座り込み、僕らはなぜか輪になっていた。
「えー。では第一回、僕らはなにを弾くのか会議を始めまーす」
「い……いえーい?」
本来ならばみんなで演奏をする目的なのだが、肝心の弾く曲が決まっていない。
僕の変な言葉に、みんなどう反応していいかわからない様子で気まずそうに答えた。
「それで、なにを弾くのかなんだけど……」
瑠奈兄妹の実力は以前の聴いて、理解している。僕らもそれなりに弾きこなしてきたから、どんな曲でも多分いける。
「わたし……もしかして、役に立てないのかな?」
「そっ、そんなことないよ芹沢さん! 君にもできる曲があるはずだ」
まだ、ギターを弾くにも苦労している芹沢さん。
ギャルゲーソングは数多くあるけれど、彼女にとっては難易度は高い。そんな芹沢さんに合わせるように、弾く曲を考えなければならなかった。
「初心者……しかもギターの経験がない人が弾けるギャルゲーソングなんてあります?」
「……うぐっ」
琉偉がそう鋭い指摘をすると、僕は言葉を詰まらせる。
ギャルゲーソングは様々な曲調がある。王道のロックからハードメタル。バラードだけでなく、テクノやダンスミュージックやらなんでもありだ。
そんな多種多様のジャンルから、芹沢さんにもできそうなものはあるだろうか。
「よく考えてみると、ギャルゲーソングってハードル高くないですか?」
「ああ。楽譜もないし、弾く人も少ないから覚えようにも参考にならないな」
瑠奈と琉偉はそう互いに話していた。ギャルゲーソングは基本的に耳コピで覚えるのが、当たり前になっている。
楽譜など楽器屋になければ、最近では弾いてみた動画すら上がらないくらい。
それだけ、ギャルゲーを弾くにはハードルが高いのだ。
「昔も今もそうだけどー。曲の質が良いから、なかなかレベル高いのばかりだよねー」
「……わたし、それを聞いて自信がなくなっていくような」
みんなの話しを聞いた芹沢さんは、不安そうな表情をしてうつむく。
「そんなことはない! 僕だって、去年まではギャルゲーソング初心者だったんだ。けど、コツコツとやれば弾けるようになるさ!」
最初から曲を弾けるやつはいない。きちんと練習をすれば誰だってできる。
「けど……岩崎君」
「大丈夫! 僕が芹沢さんをギャルゲーソングを弾けるギタリストにしてみせる!」
僕はそう芹沢さんに向かって、熱く言い放つ。
「あっ、ありがとう。岩崎君」
僕の言葉に彼女の表情が変わる。その目には、やってやるぞという意気込みを感じた。
すると、しばらく考えていた琉偉が口を開く。
「そういえば、前に俺たちが先輩たちに弾いてみせたア・カーポの曲って覚えてます?」
「え? ああ、確か王道のラブコメゲームだっけか」
「そうです。あの曲は主題歌ではあるんですけど、アニメ版の曲なら芹沢先輩でも弾けると思うんですよ」
「あー! アニメとかあったね。作画がひどいとかで、当時はネットが炎上してだっけ?」
思い出すように響子は話すと、スマホを取り出して操作する。
「なにしてんだ? 今は、スマホなんかいじってる場合じゃないだろう」
「あったあった! これじゃない? この曲」
僕の話しを聞かず、響子は曲を見つけると、僕らに見せる。
「……桜夢しキミを想わず?」
スマホの画面には、曲のタイトルがそう書かれていた。
「これ、僕は知らんのだけれど……」
「うん。あたしも、初めて聞いた」
聞き覚えのないタイトルに、僕と芹沢さんは首を傾げながら口にする。すると、響子たちは驚いた顔をして僕らを見つめる。
「マジで言ってんの? 作画崩壊アニメだけど、ギャルゲーが原作なんだよ?」
「たしかに原作のストーリーを改変しまくってたけど、悪くないアニメですよ」
「岩崎先輩……ギャルゲーやっていて、知らないんですか?」
怒涛のごとく、僕に響子たちはギャルゲーとアニメの話をしまくる。
ーーいや、ギャルゲーはたくさんありすぎて、金本先輩たちみたいにすべてを網羅しているわけではないんだよ。
僕は信じられないというような顔で詰め寄る響子たちに、若干引きつつある。
「せめて原作はやりなさいよ! 分割ゲーだろうけど、シナリオはいいから! 芹ちゃんもね!」
「わかったわかった! それより、曲を流せよ! それが、芹沢さんにも弾けるかチェックだ」
一向に会話ばかりで、肝心の曲がどんなものかわからないまま。僕はしびれを切らして、響子を急かす。
「たしかに言われてみれば、これなら芹ちゃんでもできそー」
「大丈夫かなあ……」
「いいから! さっさと曲を流せ!」
僕がそう言うと、響子はスマホの画面にある再生ボタンをタップする。みんなは黙って、スマホに耳を傾けた。
すると、いきなりギターのリフが流れ始めた。
「ほう……」
軽い歪んだ音のギターが鳴り、そのフレーズはシンプル。
そこへドラムやベースが加わり、女性のボーカルが入ってくる。
ギャルゲーらしいオタク臭い歌詞ではなく、どちらかといえば良い歌詞だ。
バンド構成を意識した曲調にロックが組み込まれている。
ーーいや、本当にアニソンなのか?
そう思ってしまうくらい、普通に良曲。
僕は曲に好感を持ちながら、聴き続けていた。
難しいテクニックは少なく、おそらくはコードを弾けばいい。これならば、芹沢さんも練習すればできそうだ。
僕のギターは芹沢さんを導くように、同じように弾けばいいだろう。
一音ずつ音を聴き、コードを確かめる。
「大丈夫そうだ! 芹沢さん! 必ず上手く弾けるよ。僕が教えてあげられそうな曲調だし」
「岩崎君、ありがとう」
芹沢さんは僕の自信たっぷりな言葉に、安堵する。
その時、スマホから流れている曲のギターが変わり始める。
ーージャカジャカ……ギャワワァァン!
先ほどの爽やかなギターのフレーズから、しびれるようなギターソロが鳴り出す。
歪みが少ないギターソロなのに、流れるようにかっこいいメロディが目立ち始めた。
そのソロを聴いた僕は、かっこよさに驚く。そして、芹沢さんは僕に口を開いた。
「あの……岩崎君。このギャワワンとしたのも、わたしが弾くのかな?」
「え? あ、ああ。これ……聴いた感じはギターボーカルのパートじゃないから、ギター担当が弾かなきゃかな?」
僕の答えを聴いた芹沢さんは、無言になる。
「とりあえず、この曲をみんなでやろっかー!」
曲を聴き終えた後、響子はそうみんなに話す。瑠奈と琉偉も、響子の提案に賛成するようにうなずいた。
僕もこの曲はいいと思うし、バンドのレパートリーに入れてもいいと思った。
ただ不安そうなメンバーが一人。
ギターソロを弾かなければならない芹沢さんが、先ほどと同じに不安そうな顔をしていた。




