第百二十三話「すなわちみな同じ!確定ではないが団結力は固まる」
「ちょっとー! そんな話はパパから聞いてなーい!」
僕がジャスティンさんの会社が企画したミニコンサートの内容を説明すると、響子が先に大きな声を上げる。
ジャスティンさんは響子の父であるが、そういった話題を家でしなかったことがうかがえる。
僕らがギャルゲーソングを歌うシンガーの代わりに出ることにもおどろいているが、なにも知らせていないことに響子は怒っているようだ。
「まあ、急に決まったことだからなあ……」
「そうだよ、響子ちゃん。急になんだから、それはしかたのないことだよ」
僕と芹沢さんは響子をなだめるようにそう話すも、まだ怒りが収まっていない。
そんな中、瑠奈が僕に尋ねる。
「ちなみになんですが、その主題歌を歌う人って誰なんですか?」
「えっと……たしか」
僕がその歌手の名前を言うと、瑠奈たちは度肝を抜いたような顔でおどろく。
正直、僕は聞いたことがない名前の歌手だからか、そのおどろく理由がわかからない。ギャルゲーソングを歌う人の芸名は、なぜか似たようなローマ字だったりするから。
「そんなにすごい歌なのか? ジャスティンさんの勤めているギャルゲーの会社って、大手でもないし……そのゲームの主題歌を歌う歌手も有名じゃないだろう?」
「なにを言っているんですか……岩崎先輩! その人って、数々のギャルゲーソングを歌っている知る人は知る有名な歌手ですよ!」
そう言って瑠奈はスマホを取り出して、僕に見せる。そこには、なんとその歌手の前がズラリと書かれているし、ネットの百科事典にも載っている。
これだけ多くの情報があるならば、ものすごい人だと僕でもわかるほどだ。
「声はいいのに……コンサートを気分でキャンセルするって、よほど性格が悪いんですかねえ」
「どうなんだろうな。まあ……有名人ならありえる話ではないか?」
瑠偉はその歌手の実態を知ったのか、かなりショックを受けているようだ。まあ、好きな歌手が裏ではろくでもなかったなんてことはよくある。
しかし、そんな有名な歌手を起用できたジャスティンさんはすごいと思いつつ、その歌手の代わりにやるのが僕らであるのが、大丈夫なのかと不安になる。
「けど、本当にあたしたちがやるんですか? その……ミニコンサートで」
「ああ。それは、僕と芹沢さんの中では決まっていることだ。ジャスティンさん側がどうかはわからないけど」
電話でああいう話はしたけれど、相手はきちんとした会社だろう。僕らが代わりを務めるなど反対意見が出るだろうし、そこはジャスティンさん次第だ。
もし、やっぱりダメでしたとなればまた当てのないイベント企画を探すはめになる。欲を言えば、ミニコンサートでできるならやりたいと思う。
それくらい、僕らには後がないのだ。
「ミニコンサートって、どれくらいの規模なんですか? どれくらいの観客が来るとか、会場がどこかとか」
「それは、まだわからないね。わたしたちも、今さっきジャスティンさんと話したばかりだから」
芹沢さんが瑠偉の疑問にそう答える。たしかに、今の時点で詳しい話など聞いていないし、それもジャスティンさん待ちである。
「まだどうなるかわからない未確定なイベントに、本当にあたしたちが出るのも……」
「コンサートを見に来る人だって、プロの演奏を聴きに来るわけだし……アマチュアでしかも高校生の俺らではブーイングが起きるよな」
「こわー!」
瑠偉たちや響子は、やはりそのことに気づいて消極的なことを口にし始める。それを聞いた芹沢さんが話す。
「でも……これまでいろいろな経験をしてきたわたしたちなら、どんなイベントでも成功できるはずだよ!」
「いやいや、芹沢先輩! 今回ばかりは無謀ってやつですよ? これまでやってきたライブとはわけが違いますし」
そう反論をする瑠偉に、芹沢さんは話を続ける。
「この前の大型イベントで、わたしは決勝のライブをやった時に感じたの……みんなと弾いているがなによりも楽しいし……それに」
「「それに?」」
「なんていうのかな? どんな困難でも打ち破れることができる無敵感があるというか……」
芹沢さんが意外な言葉を言うと、みんなの目が点になる。けれど、僕は彼女と同じようなものをあの時は感じていた。
おそらく、みんなもそうだろう。
「それで、今回もミニコンサートができた場合にその無敵感で会場を湧かせられると芹沢先輩は思っているんですか?」
「……うん!」
そう尋ねた後、瑠偉はしばらく考え込むように黙る。同じく、瑠奈や響子も。
無謀だとわかっていても、三人は芹沢さんの言う無敵感があるということに確信があるのだろう。
瑠偉は大きくため息をついて瑠奈と顔を見合わせる。そして、二人はうなずくと口を開いた。
「わかりました。俺らもそのミニコンサートってやつに参加をするのは賛成します」
「あたしら後輩があーだこーだと言っても、芹沢先輩の意思には逆らえないですし。それに、もしみんなで演奏をしたら奇跡を起こせるって気がしてきました」
「たしかに俺らなら、どんなライブのイベントだろうとやってのけそうですしね。正直、芹沢先輩の言葉を聞いてそうだなって思いましたから」
「瑠偉ちゃん……瑠奈ちゃん」
二人の言葉に、芹沢さんはほほえむ。
結局は瑠偉たちも本当は芹沢さんと同じ思いを抱いていたのだろうなと、僕は静かにそのやりとりを見守る。
こういう困難なライブほど、やりたいと思える感情はギャルゲーソングを好きだからだけではなく、バンドマンとしての性であろう。瑠偉たちも同じなのだ。
「響子はどうするんだ?」
残すは響子だ。僕は、そう尋ねると、響子は答える。
「まー! たしかに、これまでのあたしたちなら、意外とやれちゃうからねー! 金ちゃんたちとやってきた時もそうだったしー」
「ギャルゲーソングのCD制作に参加したり、でかい野外コンサートもやったなあ。それに、東京のライブハウスでも演奏しちゃったくらいだしな」
「そーそー! だから、まあー。今回も、大丈夫かなー? どうせパパの会社が主催なら、そこまで大きくないはずだしー」
「ということは?」
「しょーがない! ここは芹ちゃんの熱い思いに応えて、やっちゃいますかー! 無敵状態にまたなれば、どんな観客相手でもムーブメントを起こせるはずデース!」
「語尾にジャスティンさんのやつを真似るなよ……じゃあ、みんな。参加するってことでオーケーだな?」
「「オーケー!」」
覚悟を決めたようで、僕にみんなは大きい声で答える。これで再び、同好会メンバー全員と一つの目標に向かえる。
こうして僕らは、またライブに向けて動き出す。残すはジャスティンさんからの連絡が、今後を左右する。