第百二十話「すべての望みたたれるも、希望の芹沢さん」
僕の発言は小さな騒動となって、同好会のみんなからチクチクと言われる。
「今回の岩崎先輩の発言はどう責任を取るんですか? あたしのクラスでも、ウワサになってて気まずいんですが」
「いや、そのだなあ……」
「らしくないですね、岩崎先輩。打つ上げの時に滝沢さんが全国大会に出るのに対しての対抗ですか?」
「そういうわけではないんだがなあ」
「あほ! まぬけ! 当てずっぽう!」
「響子! お前は黙っていろ!」
瑠奈たちからあれよこれよと言われている横で、響子が面白おかしく横やりを入れてくる。みんなの言いたいこともわかるし、それだけ僕が浅はかであった。
重大なイベントに出るとは、一体なんぞやという話だ。
「まっ、まあまあ。言ったことは仕方ないとして、これからどうするかをみんなで決めていこうよ」
そう芹沢さんがフォローをするように、みんなをなだめながら話す。
――重大イベントとなりえる、なにかよいアイデアを出す!
というようなお題でこの日は、部室に集まってみんなで考える。
「「まったく思い付きませーん!」」
誰もがそう声を大にして、案がないことを強調する。そして、視線は僕に向く。
責任を取って、おまえが考えろという意思がダイレクトに伝わる。
「金本先輩たちに相談をしてみるのはどうかな? 大型イベントでも助けてくれたし、今回もなにか助けてくれるかも」
「うっ、うん……それなんだけど」
芹沢さんがそんな話を持ちかけるも、僕は言いずらそうに言葉をつまらせる。
というのも、今回ばかりは金本たちにワラでもすがりたい気持ちだったので、数日前に彼らへ尋ねていた。
そこで僕が頼み込むと、金本は奇声を上げる。
「きえええええい! 自分でまいた種は、自分で育てるのだよ! 岩崎君ならできる!」
「ええ……そこは起死回生の一手とかないんですか?」
「なーい! ステージで君の言葉を聞いたとき、ついにギャルゲーソングも世界に行くか……と思ったが、貴様の顔を見てそれがウソだとすぐにわかったのだ! だまされた!」
「あれは不可抗力ってやつなんですよぅ」
なぜか裏切られたかのような口ぶりで話す金本に、僕はそう情けなく答える。けれど、意地悪をしているわけでもなく、本当になにも助ける案がないように見えた。
「まあ、時期的なタイミングが悪かったのかな? ほとんど一般的なイベントや大きなライブをやる予定はどこもなさそうだしさ」
「そこは和田財閥的な力でどうにかなりませんかねえ」
「ならないねぇー」
金本だけでなく他のみんなもなにか力になれればという感じだが、和田の言うようにどこのイベントもないような時期で、そこに同好会が乗っかるということはできそうにない。
今回ばかりは金本たちでも打つ手がないといったことであった。
という内容を僕は芹沢さんたちに話すと、みんなは肩をガクリと落とした。
頼みの綱である金本たちですらお手上げであるならば、僕らはさらにお手上げである。
「ここはあれですよ! 正直に話して、実はウソでしたって言っちゃいましょうよ! 今、チャラにしたほうが楽ですって」
「あ、ああ……そうなんだけど」
瑠偉は僕の発言が誤魔化しであったと正直に話すべきだと思ってそう言ったのだろうが、本当の問題はここからであった。
金本たちに相談した後に、ここは正直に話して全校生徒の誤解を解こうと考えた。そこで、まずは山本先生に話すために職員室へ向かった。
ノックをし、職員室の中へ恐る恐る入ると他の先生たちからいろいろと言われる。
「おお、岩崎か。聞いたぞ? 市長にも気に入りられ、大型イベントでも大成功をして、我が校の知名度を上げた貢献度はでかいなあ」
「はっ、はあ……」
「校長も今回は特に上機嫌でな! 市からもお褒めの言葉をもらったらしくて、おまえが言った重大イベントの参加を学校が全面的に協力をすると朝の会議で決まったんだぞ」
「……え?」
先生の言葉に僕は一時的に思考が止まる。
まったく予想もしておらず、こんな学校が友好的かつ協力的な対応をするとは思わなかったからなおさらだ。
「やあ、岩崎君。大きなイベントで素晴らしい成績を残して、校長としても鼻が高い。聞いての通りだが、来年度の受験者数の増加……いや、君の同好会がさらに活躍するために重大なイベントやらのために頑張りたまえ」
「校長……」
校長のありがたい言葉の後に、職員室にいる先生方から謎に拍手を送られてしまう。それは、もうすでに詰みであるということを僕は悟る。
ということもみんなに説明をすると、阿鼻叫喚だ。
「どうするんですかああああ! これはもうやらざるおえない展開じゃあないですかあ」
「存在しない重大イベントが決まったら、連絡くださーい」
「おっ、おい! こらこら、勝手に帰ろうとするんじゃあない」
荷物をまとめて出ていこうとする瑠偉たちに声をかけるも、後輩組は足早に去っていく。
そして、響子もまでも立ち去ろうとしていた。
「まー、なにかしら案が決まったら教えてねー! さあ、新作の乙女ゲーを買いにいかなきゃー」
そう言い残し、響子も部室を去る。
残されたのは僕と芹沢さんのみ。もしかすると、彼女まで呆れて去ってしまうのではないかと冷や汗が出てくる。
しばらく沈黙が続き、微妙な空気が部室を漂う。
なにか話さなければと思い僕は口を開こうとすると、芹沢さんが先に言う。
「大丈夫、岩崎君! 必ず、それらしいライブができるよ! 頑張っていいアイデアを見つけよう」
「……芹沢さぁぁぁん」
芹沢さんは帰ることもせず、僕にそう言うと部室にあるパソコンを使って調べようと行動をし始めた。
そんな彼女の姿を見て、なんとも頼りになる存在だろうと感動する。
――そうだ。ここでメンバーが去ろうとも……覆せない学校の策略に屈してはいけない。僕はこの状況をチャンスとしなければならない。
そう思い奮起をすると、僕もスマホを取り出していいアイデアになるようなものを検索をし始めた。
存在しないを存在させるために、僕らは立ち向かうのだ。