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オタクと美少女はバンドでギャルゲーソングを知らしめたい?!  作者: 獅子尾ケイ
激闘!ライブバトルに参加して、勝ち上がれ!トーナメント大会編。
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第百十六話「勝敗は決まるも、晴れやかに穏やかに?」

「今回のイベントで頂点に立ったのは……!」


 そうマイクで司会者の人が、優勝者の名を口にするとそれを見守る観客は大きな歓声と拍手を送る。


 その後に話す審査員たちの評価ポイントなどの言葉など、僕は記憶に残っていない。


 優勝のトロフィーを受け取るのは僕らではなかった。そう、勝ったのは滝沢エマだ。


 やはりイベント側からしたら、ギャルゲーソングということがマイナスだったのかはわからない。しかし、金本の予定にないギャルゲーの映像を流したことは間違いなくルール違反であろう。


 そういう大人の事情的なものと、勝手な行動をしたという理由が原因で僕らは負けた。けれど、不思議とそれに対して怒りや不満はなかった。


「え? あのオタクっぽい曲のほうがよくない?」


 という声が少なからず聞こえていたのだから。それはすなわち、観客の中で滝沢エマのオリジナルより僕らの弾いたギャルゲーソングに響いたことになる。


 それだけで僕は満足である。最優先であった目的のギャルゲーソングの良さを知らしめることができたから。


「けど、準優勝でもよくないー?」


「ですよね。たくさん出た参加校の中で二位ですよ! それだけでも快挙ってやつですし」


「そうそう! それそれ!」


 勝者である滝沢エマがステージで脚光を浴びている横で、響子たちがそう話している。その声から、僕と同じように不満や悔しさを感じない。


 みんなの中でも、自分が思うギャルゲーソングを知らしめたことができたからである。


「わたしはちょっとくやしいかな……」


「芹沢さん?」


「あそこまですごい演奏ができたのに、審査員の心までは動かせなかったのかなって」


「まあ……審査員に関しては、総合的に判断しないといけないからね。イベント的な立場もあるんだろうさ」


 みんなの中で芹沢さんだけが少し不満そうに話す。バンドの演奏に自信があり、それがきちんと審査員に響いていなかったのではと思ったのだろう。


 けれど、僕はそんな彼女に納得させるようなことを言えず、あくまで大人の事情があったように答えた。


「それでも、観客の誰かには届いたからいいじゃないか」


「うん……そうだね!」


 気持ちを切り替えたように、芹沢さんの表情が笑顔に変わる。


「ということは建前でー、芹ちゃん的にはキョウちゃんと二人だけの雰囲気をもっと見せびらかしたかったのでしたー」


「それに付け加え、先輩たちのいちゃつきを評価されたいと思うのでしたー」


 僕らが話していると、横から響子と瑠奈が茶化す。


「「そっ、そんなんじゃないんだからね!」」


 にひひと笑う響子たちに、僕らは同じタイミングで声を大きく出した。


「僕と芹沢さんはライブに集中をしていたんだ! そんな、邪なことを芹沢さんが考えるはずないだろ! ねえ、芹沢さん」


「うっ……うん! そうだよ! だから、あれだけすごいソロも歌もできたんだからね」


 僕の言葉になぜか一瞬考え込んで芹沢さんは答える。


「「あやしー」」


 それをさらに茶化す響子たち。ライブが終わった後だというのに、こいつらのおふざけは変わらない。


 ――少しはライブの余韻を感じて、感動でもすればいいのに。


 ということを考えるも、響子たちを見て僕は思わずため息をつく。


「あのー……」


 そんな僕らに向かって、司会者の人がマイクを手に近づいてきて気まずそうに声をかけてきた。


 周りを見ると、司会者だけでなく審査員。そして滝沢エマや観客の視線が僕らに集中をしているのに気がついた。


 どうやら、優勝を逃したがイベントで二位である僕らにもなにか一言をほしいみたいなインタビューしたいようで、司会者の人がマイクを僕に近づける。


 ――困ったな。なにを言えばいいんだ? 


 まさかここでインタビューを求められるとは思っていなかったので、僕はなにを言うか考えずにいる。


「えー。審査員の方々もあのように言ってましたが、相手の演奏を聴いて改めてどう思いましたか?」


「え? 審査員の言っていたこと? えっと……ですね」


 みんなとの会話に夢中で、審査員の話などなにひとつ聞いていない。相手の演奏ってことは滝沢エマについてとにかく話せばいいのだろうか。


「独特の世界観があって、歌も曲もすごいと思いました。同じ高校生なのに、あれだけのパフォーマンスをできるのは……純粋にうらやましいです」


 それは同じバンドマンとして滝沢エマのライブを観た素直な感想であった。実際にそう感じて、滝沢エマという一人のアーティストとして評価をする。


 ギャルゲーソングで立ち向かったのがすこし申し訳ないと思うけれど、あれだけのライブならば、どんな高校生バンドの曲でも勝てはしないだろう。


「ほう! まさかここで相手と同じことを言うとは! それだけ、お互いのライブがすごいものであったということですね。ねえ、観客のみなさん?」


 ――わああああああ!


 司会者の声に、観客が歓声で答える。


「……え?」


 僕は歓声よりも、滝沢エマが同じことを言っていたことにおどろく。


 向こうのほうで、彼女が僕のほうをじっと見つめている。まさか、滝沢エマも僕らのライブに同じような印象を持っていたと思わなかった。


 ギャルゲーソングが大型イベントで優勝するのは、運営的にまずいとしても純粋なライブバトルで考えたら、勝敗はどちらになるかはわからなかったかもしれない。


 仮に滝沢エマが負けるかもと思っていたのなら、それはバンドマンとして誇っていいだろう。


 ギャルゲーソングの良さが審査員のような大人な連中の事情を変えるほどのものではないという現実はある。けれど、同じバンドマンや、それを聴くオーディエンスの心を変えることはできるのだ。


 いろいろなことが僕の頭の中で駆け巡る。


「あっ! ちょっ、ちょっと!」


 僕は司会者からマイクを奪い、一歩前に出て観客席にむかってさけぶ。


「みなさん! これを機会にギャルゲーというものをさらに知りましょう! オタクっぽいなど、気にするな! ギャルゲーソングは……あなたが思う音楽の常識が変わるんです!」


 なにを言っているのか、僕にもわからない。けれど、ここで言わなければと思いっきりさけんだ。


 優勝をした滝沢エマよりも目立ってしまう形に、イベント関係者や司会者はあたふたとしている。


 横でそれを聞く響子たちが笑いを我慢するような声が聞こえてくるが、僕はひたすらギャルゲーソングについて熱くマイクで語ってしまう。


 こうして、僕らの参加した大型イベントは幕を閉じる。

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