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オタクと美少女はバンドでギャルゲーソングを知らしめたい?!  作者: 獅子尾ケイ
激闘!ライブバトルに参加して、勝ち上がれ!トーナメント大会編。
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第百十四話「もはや作戦はなし!僕らのギャルゲーソングをかき鳴らせ!」

 バンド編成の中で、三人がボーカルで参加をするようなライブはあっただろうか。


 芹沢さんの歌うリードボーカルが、響子と共鳴しているように聴こえてくる。


 まったく二人の声色は違う。けれど、この曲で歌うメロデイがうまい具合にかみ合っていた。


 楽器の音と重なるとさらにその良さが強調されていき、曲の雰囲気をガラリと変えていく。


 響子と芹沢さんはお互いに顔を見合わせながら、気持ちが良さそうに歌っている。その姿は、本当に楽しんでいるように見えた。


 僕はそこに加わるように、ハモリとコーラスで対抗するように歌う。


 メインは僕であるのだから、二人より目立つ必要があるのだから。けれど、それ以上に二人のボーカルがさらに加速していく。


 ――このボーカルには負けてしまうな。


 そう思ってしまうくらいツインボーカルが演奏を良くしてくれている。原曲のギャルゲーソングなど、すでに跡形もない。


 曲の急な変更に加え、おのおのが自由にやれとも僕はみんなに話した。


 芹沢さんのボーカルが入るのも計画的ではなく、単に彼女が歌いたがっているように見えたからやらせた。もはや、アドリブを通り越して場の雰囲気に身をまかせているようなもの。


 けれど、どうだろう。


 こんな一つ間違えれば、ライブが大失敗をするかもしれないものを僕らは決勝の場でやってのけている。


 滝沢エマに対抗できるライブとは思えないが、彼女のライブで見えたものがあった。それは、勝負であるものの自分のライブを全力で楽しんでいるように感じた。


 心から観客に自身のライブを届けたい思いを。


 そうであるならば、僕らも全力でそれに応えなければらない。お互いにベストを尽くし、観客に曲を聴いてもらいたい気持ちを僕らもぶつける。


 滝沢エマはオリジナルを。そして、僕らはギャルゲーソングを。


 今、僕らは全力でギャルゲーソングを演奏している。それに、心から曲を楽しんでいた。


 その姿を見ている観客がどう思うだろうか。


 ――ワァァァ!


 会場に広がる声は大きいものだった。それは、もう答えであった。


 僕らのライブが観客に届いているように、曲を奏でる音に合わせて観客は歓声を上げ、盛り上がっている姿が目の前にある。


 ギャルゲーソングを弾いているのに、それでもお構いなしにみんなはライブを見入っていた。


 こんな光景はいつぶりだろうか。


 これほどの大人数を前に、ギャルゲーソングを弾く機会は多くはない。このメンバーでやるライブの中で、一番の盛り上がりを見せれるライブだ。


 金本たちとやった時のような、あの最高なライブと同等。もしくはそれ以上だと思いつつある。


 躍動する演奏。駆け抜けるように流れる曲の音色。そのすべてが、観客に伝わっている。


 ギャルゲーソングでここまで人を惹きつけることができるということは、それだけ魅力があり、他のジャンルに引けを取らない存在。


 ――やっぱり、ギャルゲーソングはすげえ。


 僕はギャルゲーソングの魅力を再度思い知らされる。


 曲はサビへと入り、この曲がさらにいいものだと思わせるところまできている。


 足元のエフェクターのスイッチを足で踏み、さらにエレキの音色を際立たせる。歪み系と空間系をさらに追加させたことにより、より曲のサウンドを強化させていく。


 イントロから出していた音は大きく変わって、よりロックなサウンドへと変わった。


 ギターの音がサビの形を作り、瑠偉たちのベースやドラムもそれにうまく重なって一体感を完成させる。


 これが、僕らが観客に聴かせたいギャルゲーソング。


 ――さあ、聴いてくれ。ギャルゲーソングはこんなにもいいものなんだ。


 そう心の中にあふれる感情を、サビを通じて会場にいる観客と審査員へぶつける。楽器の音と僕らの歌声。それがスピーカーから伝わっていった。


 聴く観客の高いテンションを肌で感じながら、僕らは演奏を続ける。


 いろいろな曲をやってきたが、戦略的な楽曲よりもみんなが楽しんで奏でる曲が一番だ。


 弾くみんなの顔に不安や焦りはない。誰もが、心からこの曲を楽しみながらやっている。それが、きちんと聴く人に伝わっていると確信できる。


 サビからBメロ。そして、もうすぐギターソロと曲が進んでいく。熱気が冷めることなく、ライブはさらにヒートアップする。


 残りはギターソロを残すのみ。


 いままでは僕のソロだけだったが、おそらく芹沢さんも入ってくるだろう。


 事前の打ち合わせはない。どんなソロを弾くかは、その時になってみないとわからない。


 本番の一発勝負。この雰囲気の中でミスは許されないだろう。けれど、僕は不思議と不安はなかった。


 芹沢さんとならば、どんなギターソロもうまく嚙合わせることができると信じているからだ。


 僕らの歌うパートがあと少しで切れる。それと同時にソロがスタートだ。


 ギターの弾く左手が徐々に下へと向かい、僕は歌いながらソロを弾く構えと変える。


 少し離れたところで芹沢さんもギターのフレーズを変えつつあり、それが僕の耳で聴こえていた。


 ――芹沢さんがどう出るかはわからない。すべては彼女の弾くギターに集中しよう。


 原曲のソロであるのは変わらない。けれど、僕もそこはアドリブを取り入れて弾くつもりだ。それに芹沢さんがどの音で入ってくるか。どんなソロのフレーズを弾くかは、博打である。


 そして、ついにギターソロが始まろうとした瞬間。観客席のほうから、誰よりも大きい奇声が聴こえてきた。


「きええええええええい!」


 その声はまぎれもなく金本。僕は突然の奇声におどろき、ソロを弾かずにその前のリフを繰り返してしまった。


 それにつられたみんなも、僕のギターに合わせるようにフレーズをリピートしてしまう。


 ――おいおい、ここまできて金本かよ。まさか、会場に来ているなんて聞いてないぞ。


 決勝の舞台に金本だけでなく、他のみんなも金本の近くに集まっていた。本当なら感動をするところだが、ライブでの見せ場で奇声は上げないで欲しかった。


 こんなことで曲が変に終わることだけは絶対にあってはならないのだ。


 すると、金本はさけびながらなにかに向けて指をさしている。


 なにを伝えようとしているのかわからず、僕が眉間にしわを寄せていると観客の視線が僕らではなく、その後ろに集中をしている。


 そして、僕は後ろを振り返る。


 そこには、後ろからなぜか巨大なプロジェクタースクリーンがゆっくりと降りてくる。


 まったく予定にない演出で、そんなものを用意させるようにスタッフに頼んだ覚えはない。


 予想もしていないものが現れ僕がとまどうと、スクリーンに映像が映り始めた。


 それは、この曲が使われているギャルゲーのOP映像。おまけに、なぜか意図的な編集をされたものであった。


 思わずハッとして金本のほうに振り返すと彼は満足そうな顔でピースサインをしている。


 ――あのおかっぱ野郎……やりやがったな。


 こんなことをしでかすのは金本しかいない。こういう演出をかますのは、以前にもあった。


 だが映像に映るギャルゲーのムービーは、今まさに僕らのライブと合う。


「……岩崎君!」


 同じくスクリーンを見ていた芹沢さんが、僕の名を呼ぶ。映像はまさにソロが似合う名場面といえるタイミング。


 ――そうか……ここか!


 僕は再びソロのフレーズを弾く指の位置まで左手をスライドさせる。


 そして、映像のいいところで完璧にギターソロを弾き出した。


 ――ギュイィィィン!


 ギターの高音が鳴り響き、流れるようなソロが始まる。それに芹沢さんが同じくソロを弾いて僕の音に合わさっていく。


 サプライズ演出の中、僕らの音色が会場に響き渡っていった。

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