第十一話「双子演奏!そして始まる新たな同好会」
瑠奈はドラムセットに立って、指でトントンと叩く。琉偉は荒木のベースだろうか、部室に置いてあるベースを手に持つ。
「ふむふむ! 双子とはいえ、楽器は被らないか」
「というか……金本先輩。聞き耳立ててたならわかると思いますが、二人は一応弾ける人なんですよ?」
「岩崎君! 弾けるとはいえ、ギャルゲーソングを弾くレベルは見ておかなければならんぞ?」
「ある程度、弾けるなら問題ないと思うんだけどな」
二人は楽器は弾けるし、ギャルゲーソングを中心に弾いてきている。
それだけでかなりの戦力になるだろうし、無理に弾かせなくてもいいのではないかと僕は思う。
「それで、あたしたちはなにを弾いたらいいんですか?」
ドラムスティックをすでに握っている瑠奈は、そう金本に尋ねる。
「ふぅん! そうだな、君たちは古いギャルゲーも知っているだろうし……」
アゴに手を当てて、なにを弾かせかるか金本は考えている。そしつ、二人に曲名を告げる。
「では! 伝説の曲芸と名高い、ア・カーポの主題歌を弾いてもらおうか!」
金本はそう二人に話す。
「岩崎君。ア・カーポ……曲芸ってなに?」
よくわかっていない芹沢さんは、僕にそれがなにかと尋ねる。
「えっと、僕もよくわからないんだけど……たしか」
僕自身もそこまで詳しくないが、芹沢さんに答えようとすると響子が説明する。
「ア・カーポは元々人気のギャルゲーなんだけど、中身がほぼ同じで別バージョンの作品をいくつも販売しているのよ。とりあえず、売れればいい的な」
そう言ったやり口の売り方をするのが、曲芸商法と言われるらしい。
熱気的なユーザーが満足してくれればいいかもしれないが、このメーカーはあまりにもやり過ぎたために目立つと響子は話す。
「その通りだ! ファンディスクに小説やら、アニメ! さらにそれを逆移植して、またゲームを作っていると有名だ。ちなみに、僕はすべてのタイトルを購入しているのだ」
得意げに話す金本だが、とにかくその作品に使われた主題歌を二人に弾いてもらうつもりらしい。
「まあ、あたしたちもプレイ済みだから曲はわかるけど……ベースとドラムだけ?」
「そこは安心したまえ! 僕のスマホに曲はダウンロードしてある。スピーカーに繋いで、それに合わせて弾いてもらう」
そう言って金本はスピーカーとスマホを繋げる。
「というか、練習もなしに弾けるのー?」
「そうだな……曲はわかると言っても、いきなり弾くとなると難しいんじゃないか」
ほとんど即興に近い形で、二人は弾くことになる。そんな簡単な曲でもないし、大丈夫だろうか。
「けど、楽譜もないのに弾けるのはすごいと思う!」
芹沢さんは二人に感心しながら、目を輝かせて話す。
「まあ、大丈夫でしょう。あたしはいつでも構わないけど、琉偉は?」
「俺も大丈夫だよ。普段使ってるベースじゃないから、ちょっと慣れないけど」
ベースの感触を確かめてながら、琉偉は瑠奈に答えた。二人に金本はニヤニヤすると、スマホに手をかける。
「では、準備はできたようだな! 曲を流すぞ!」
金本がそうさけんでスマホの再生ボタンを押した後、曲が聴こえ始める。
ーージャカジャカ! ジャジャンー!
最初に聴こえてきたのは、ギターのリフ。イントロの頭はギターのみ。
それを耳で聴く二人。初めに動きを見せたのは瑠奈だった。
リフに合わせるように、ドラムを勢いよく叩き始める。
ーーダダンッ! ダッダ! シャラーン。
スピーカーから流れる音よりも大きく迫力があるドラム。リズムは正確で、乱れていなかった。
「ドラムパターンが音源と同じだ……そっくりそのままだな」
「だねー! ドラムだけを聴くと、こんなリズムなんだねー」
瑠奈が叩くドラムに、僕と響子はそう感想を述べる。岡山というバンドのドラマーよりは、パワフルさはない。けれど、正確さはピカイチで勝るに劣らない。
僕らの横で金本は腕を組み、黙って聴いている。そこに琉偉のベースが入ってきた。
使い慣れたベースではないものの、左手をめいっぱいに広げて指を動かしていく。
右手はピックを使わず、二本の指を手際よくはじいている。
生ドラムと、スピーカーから流れる音源に上手い具合に重低音のベースラインを弾く。
「ベース? って、あんなに低い音が鳴るんだね」
「見ればわかるけれど、弦が太いでしょう? だから、ギターよりも低くく重い音が鳴るんだよ」
芹沢さんの疑問に答えるように、僕は口にする。
曲全体の要は、ドラムとベースによるリズムによって成り立っている。
どちらもギターやボーカルに比べて意識されにくいが、バンドにとっては重要なパート。
まだバンドというものをあまり理解していない芹沢さんへ、僕は話しながら説明をしていく。
ーーそれにしても、二人ともきちんと弾きこなせているじゃないか。
バンド経験はないにしても、金本たち同様に普段からギャルゲーソングを弾いていたのだろう。
想像以上に演奏は上手く、ライブでも通用するレベル。
下手したら、軽音楽部の連中よりも魅せることができるのではないかと僕は思った。
瑠奈と琉偉。この兄妹と僕らがバンドで演奏したら、どうなるだろう。
僕は久しぶりに高揚する。
きっと今までよりも、すごいバンドになるんじゃないかと想いを馳せる。
その後も二人は曲を最後まで弾き切ってみせた。
ーーパチパチ!
僕らは二人に、拍手を送る。
「いやあ、上手いじゃないか二人共」
僕はそう声をかけると、二人はまんざらでもない顔で答える。
「ありがとうございます。けど、後半のハイハットがちょっと乱れて悔しかったな」
「ぐだぐたにならないだけマシだったな。やっぱり、あまり聴きなれない曲だと安定しない」
自身らの演奏を自慢するでもなく、逆に悪かったところを互いに話していた。
それは僕がギターを弾くうえでやっているのと、同じだった。
「けどー、よかったじゃん? 全然バンドマンっぽくてかっこよかったよー」
「そうだね。わたしはギターがまだ全然だから、二人がうらやましい」
芹沢さんたちも瑠奈たちに近づいて、そう話しかけている。
そして、一人まだ黙っている金本。
「金本先輩。これだけ弾ければ、二人は同好会に入っても大丈夫ですよね?」
「……」
僕の言葉に返事をしないままの金本は、しばらくして口を開いた。
「認めたくないものだな……若さゆえの過ちは」
「……はあ?」
よくわからない台詞を口にする金本に、僕はそう返した。
「だが、たしかに二人はよく弾いていた! 作品に対するリスペクトも演奏から感じたのだよ!」
「そうですよね……まあたしかに」
金本の言わんとすることは理解できる。
それは二人の演奏を聴いて、最初に感じた印象だったからだ。
ギャルゲーに対する熱意が誰よりも高い金本がそう言うのだから、間違いないのだろう。
「完敗だあ、岩崎君。認めざるおえないだろう」
「ということ……は?」
「うむ! 二人の入会を認めよう!」
金本の言葉に、僕らは謎の歓声を上げる。
「なんか変なことに巻き込んだけど……二人とも、これからよろしくね」
「はい! ギャルゲーの良さをもっと広めていきましょう」
「だがしかーし! まだまだ鍛えねばなるまい。二人がまだ知らぬギャルゲーを僕が、逐一伝授してあげよう!」
受験が控えているのに、金本はまたもや同好会に関わろうとしている。
そんな金本に呆れてしまう僕だが、無事に瑠奈と琉偉が僕らの同好会に入ることになった。
こうして、新たに集まった同好会員たちによるギャルゲーソングを広める活動が始まる。