第十話「タダで入会できると思うな!金本審査が始まる?!」
突如として現れたのは、金本だった。いきなりの奇声にこの場にいる全員が驚いた。
「……誰ですか? このおかっぱ頭の人」
瑠奈はそう引きつった顔で、僕に尋ねてくる。
「え? あ、ああ。一応、この同好会を作った張本人で僕らの先輩」
「なんか、すごい典型的なオタクみたいな人ですね」
「まーねー。けど、あんな見た目でもギャルゲーソングを弾かせたらピカイチよー」
「さっきやった演奏のバックミュージックは、金本先輩たちが録音してくれたもの」
そう響子たちが説明すると、二人はさらに驚いた顔をする。
「なにやら失礼なことと、僕を褒めたたえる言葉が聞こえるが……そんなことはどうでもよいのだ!」
「金本先輩……それでなにをしに来たんですか?」
僕がそう金本に尋ねると、ふふんと鼻を鳴らしながら口を開く。
「岩崎君、まずはライブお疲れ様。ライブはお世辞にも良いとは言えないが、運良く新入会員をゲットできたようだね」
「……うっ。まずは、ダメ出しからですか」
要件を言わず、僕らがやったライブについてグチグチと言い始めた。芹沢さんに目をやると、しょんぼりしながら聞いている。
一年生の二人も、どうしたらいいかわからないように気まずそうに黙っていた。
「であるからー! このゲームをまだ理解していないようだから、それがギターに現れて……うんたらかんたら」
このままでは永遠と金の長話が続くだろう。変に誤解されて、二人が同好会に入るのをやめてしまうかもしれない。
僕はそう思って、途中で話を遮る。
「だから、金本先輩! 愚痴をわざわざ言いに来ただけですか? なにしに来てんだ、このおかっぱ野朗!」
「きええぇぇい! 岩崎君、僕の悪口はそこまでだ! 地味に髪型をディスられたら泣く……」
「じゃあ、早く要件を言ってくださいよ」
顔に手を当てショックを受けている金本は、しばらくしてから双子の兄妹を見る。
「僕が再び現れたのは、この二人がきちんと同好会でやれるか確認してきたのだ!」
「あれ? 金ちゃんって、二人が入るのを知ってたっけー?」
「それはだね、馬場さん。部室に向かう途中に二人が我が音楽研究同好会の部室に行くのが見えてだな……尾行しつつ、扉の前で聞き耳を立てていたのだ!」
「金本先輩……地味に気持ち悪いっすよ」
金本の高度に引きつつも、新入会員の二人を見極めたいという意志を感じる。
「ギャルゲーをやっていることは評価する! きちんと、その音楽も弾くとはあっぱれなり!」
段々とキャラがおかしくなる金本。
ーー勉強漬けで、頭がおかしくなったのかな?
僕がそう思っていると、瑠奈は金本に尋ねる。
「それで、あたしたちは……えっと、金本先輩だっけ? 具体的になにをしたらいいんですかね」
「うむ、一年の女子よ。君たちには、簡単なクイズに答えてもらう! まずは、どれだけの作品を知っているかだ」
「……それ、響子が同好会に入った時にやりましたよね」
ギャルゲーにまつわるクイズを、前に金本は響子に出題していた。
途中から同好会に入った響子がどれだけギャルゲーを知っているかを試す名目で。まさかそれを、新しく入ったこの二人に再びやろうとしていたとは。
「岩崎君。あの、わたしはそれをしてなかったんだけどいいのかな?」
「芹沢さんは、ギャルゲーを今まで知らなかったからね。これから知るだろうと、金本先輩が不問にしたと思うから大丈夫だよ」
僕は芹沢さんとそんなやりとりをしている中、金本は紙とペンを用意している。
ーーサラサラ。
「ではゆくぞ! 第一問……デデン!」
まるでクイズ番組みたいに、問題を書いた紙を二人に見せる。
ーー泣きゲーで有名なギャルゲーメーカーは次のうちどれ?
紙にはそう書かれており、四つの企業名がさらに書かれていた。
「鍵……葉っぱ。ギガマインに、不思議の国」
どれも有名というか、老舗メーカーである。
その中で泣きゲーを大量生産してきた企業は、一つしかないと僕は思っていた。
というか、二人が生まれる前から存在しているギャルゲーメーカーを果たして知っているのだろうか。
「さあさあ! どうかね? 答えたまえ、一年生よ」
「ふっ。こんな問題は悩む必要はないわね……ねえ、琉偉」
「そうだね。俺たちにとって、こんなの余裕だよ」
そう言って、二人は同時に答えを口にする。
「正解は……全部!」
すると、金本はなぜか悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「岩崎君、二人は正解?」
芹沢さんはトントンと僕の肩を叩いて、尋ねてくる。妙に密着してくるのは、なぜだろうか。
「えっと……多分だけど」
僕が口にしようとしたと同じタイミングで金本は口を開いた。
「正解だ! 答えはすべて。ぐぬぬ……引っかかると思ったんだが」
ーーやばい。鍵だけかと思っていた。
危うく芹沢さんに間違いを言ってしまうところだった僕は冷や汗をかく。
「鍵はもちろんだが、葉っぱも実はそうなんだ! 不思議の国は、ある意味プレイヤーが泣くという」
「ゲーム性がある作品が多いけど、プレイしてみるとイベントで泣きを見るところがありますからね」
「うむ! まさか、その歳でプレイ済みとはな!」
金本と和気あいあいに話す瑠奈と琉偉。
「よーし! では、次の問題だあああ!」
その後も、金本か問題を出題しても二人は正解を連発していった。
明らかに二人がギャルゲーの知識を身についているのは僕でも理解してしまう。
ちなみに僕は、出された問題をほとんど正解していない。
ーー僕も一からギャルゲーを学び直さないとな。
自分の知識のなさを自覚した僕は、真面目にそう考えてしまった。
「うぬぬ……知識レベルは、もしかすると僕と同じか」
「それなら、あたしたちは同好会に入っても問題ないですよね!」
「くうぅぅ! だがしかし、最後の審査を通らなければ……僕は認めないぞー!」
そう言って金本はなにやら楽器が置いてある場所に二人を誘導する。
「いったい……なにが始まるんです?」
僕らをほっといて、金本が勝手に仕切る。
「どんなギャルゲーだろうと、あたしたちに敵なし!」
いつのまにか、二人も謎にテンションが上がりながらそう答える。
「では……最終審査を発表する! それは、ギャルゲーソングを今、この場で弾いてもらおうか」
金本が審査をするのは、実際に楽器を使いギャルゲーソングを弾くことだった。