1.おとぎ話と魔法使い
統一国家アンタルク王国。この国には数百年前、魔法使いという存在がいた。
でもそれは数百年前の話で、今となっては眉唾だ、おとぎ話にすぎない、そう思っている人が大半だ。
だって実際に魔法使いは今現在存在しない。魔法使いの詳しい伝承を知っている人だってごくごく少数しかいない。
誰もがその存在を知らないし嘘っぱちだって言う。でも私はそうは思わない。
「魔法使いは、絶っっ対にいる!!」
「メルホント好きねその話・・・」
「当ったり前でしょ、魔法使いは絶対にいるんだもん」
友人であるリーンははぁ、と溜息をつくとこう言った。
「いい、メル。魔法使いは存在しないの。全部おとぎ話。しかも、皆小さい頃に聞くか聞かないかぐらいのマイナーなおとぎ話!」
「まっ、マイナーなの!?あの素敵な話が!?」
「そうよ。しかもほぼ口伝だからあやふやな所も多いって言うし。」
「っ、でもおとぎ話にしてはやけにリアルな描写とかもあったりするしぃ…!!」
「まぁ、諦めた方が賢明よ。どんなに探しても魔法使いなんかいないし」
「くそぅ…、いつか絶対見つけるんだから…!」
リーンとは出会って仲良くなってから、この魔法使い談義をしては否定されを繰り返している。
リーンはとっても良い子だ。男爵令嬢で貴族でありながら、特待生とは言え庶民出身の私と仲良くしてくれるのだから。
「でもなんだかんだ話聞いてくれるリーンが好きです…」
「えっ!?きゅっ、急にどうしたの」
「んー、リーン、優しいなぁって…」
「ま、まぁそうね。唯一の庶民出身で、気位の高い貴族は寄りつきにくいし、その上魔法使いはいる、なんて言ってるヤバイ奴だものね貴方」
「そんな風に思われてたの私!?」
どっちにしろヤバイ奴で鼻につく奴には変わりないのよ、あの人たちにとっては、と緑の髪を揺らしリーンが言う。
私は同級生の皆様にとってどうやらクレイジーな上に鼻につく奴らしい。どんな評価ですか。
「しかも貴方珍しい髪色と目だものね、庶民貴族関わらずその黒髪と茶色い瞳、見たことないわよ」
「そんなに珍しいの?これ」
「えぇ、少なくとも私は見たことないわ」
生まれ持ったこの黒髪と茶色い瞳はどうやら珍しいらしく、貴族であり顔の広いリーンにとっても見たことがないくらいのものらしい。
これは入学当初から度々リーンとの会話で話題に上がるモノだった。
「そういえば、次の授業は国史の授業だったわね。さ、そろそろ移動しましょう」
「うん!」
この国で最も歴史のある王立学園、ロイヤルアンタルクアカデミー。貴族の子女、果てには王族まで通うこの学園で唯一の庶民枠特待生を勝ち取った私。
今はもう亡きお母さんが言ったこと。今はどんなに否定されても良い。私は、必ずこの学園で”魔法使い”を見つけてみせるんだ。
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