王都に帰り着くまでが冒険です! ~王女様、涙を拭くのは『まだ早い』
お題「まだ早い」で書いてみました。
勇者の聖剣のひと突きは見事に魔王の心臓を捉えた!
「がはっ! …見事だ、勇者よ」
玉座の前にどうっと仰向けに倒れた魔王は、紫の炎に包まれていく。
「終わった…のか?」
勇者が息を整えながら一言つぶやく。
「勇者さま、お会いしとうございました!」
隠れて見守っていた王女が駆け寄り、勇者と互いに抱きあう。
「待たせてすまない。ずいぶん怖い思いをさせてしまったね。…さあ、帰ろう」
そうして勇者一行は、姫を伴って魔王の城を後にする。
「…帰ったか? よーし、やっと帰りおったか!」
魔王がむくりと体を起こす。その体は無傷。
紫の炎は回復の魔法だったのだ。
「ようやく肩の荷がおりましたな、魔王様」
陰から宰相が姿を現す。
「まったくだ。下手に仏心を出したせいで」
「魔王の仏心? はっは、これは愉快!」
「言うてる場合か! おかげで無駄に魔力を使ってしまったわ!」
「まあそうおっしゃらず。結局誰も死なずにすみました。感謝しております」
地上に現れた魔族たちは、すべて魔王が作り出した傀儡人形だ。
「そもそも魔界に迷い込んだ王女など放っておけばよかったのだ。忌々しい。
保護してやれば、やれもてなしが悪いだの、やかましく騒ぎ立ておって。おまけに手癖が悪いときている。面倒を見るわしの身にもなれ! 善人をやるにも限度があるわ!」
「まあまあ、魔王様がそのような善人だからこそ皆もついて来るのです」
怒るに怒れず魔王はため息をつく。
「しかし見るたびに代替わりする勇者どもの出来が悪くなっていくのも困りものよ。
黙って通り過ぎればよいものを、出城の壁に『勇者参上!』などと刻みつけおって! 低脳ここに極まれり! そんなことに使われる聖剣が不憫と思わんのか!」
「お察しします。魔王様…。ですが、後は城ごと魔界へ帰るのみ。さあ、悪夢は終わったのです!」
「そうだな…長かった」
魔王はそっと目元を拭った。
玉座に座った魔王は、城を転移させるべく魔力を籠める。
しかしそこに配下の魔物が飛び込んでくる。
「魔王さま、大変です!」
「一体何事だ!」
「その…勇者に愛想をつかされたと王女が戻って来ました」
「なっ! …悪夢だ」
※タイトル変更になります
『魔界に帰り着くまでが冒険です! ~魔王様、涙を拭くのはまだ早い』