第二章 二話
放課後を告げるチャイムが鳴り、ホームルームが終わる。それを合図に教室中の生徒たちは各々のグループで集まったり、足早に変える生徒に分かれる。私はいつものメンツで集まり、放課後どうするかの相談を始める。
「今日は放課後どうする?」
「ん~、最近できたタピオカでも飲みに行くか?」
私の質問に健斗君が提案する。最近できたインスタ映えのするタピオカ屋だ。人気も高いし私自身もすごく気になる。
「いいね、私は王道のミルクティーね。健斗のおごりで」
「え、俺なんかした!?」
いの一番で賛成した陽菜ちゃんはいたずらな笑顔でそう言うと、健斗君は若干おびえたようにそういう。
そんないつも通りの二人を見て私は笑っていると、智樹が両手を合わして申し訳なさそうな顔をする。
「すまね、今日これから演劇部の練習があるんだ」
「おー、もう練習始めるんだな。はえーな」
「そうなんだよ。大会までにやること多いのと、今日は顔合わせだしな」
健斗君の返答に智樹は若干嬉しそうに話す。きっとこれから始まる夢が近づくのがうれしいのだろう。こういう子供っぽいとこが時々見えるのがかわいいのだ。
そんな智樹を見て陽菜ちゃんはあきれた顔をする。
「あんたコミ障なんだからちゃんとうまくやりなさいよー」
「ひどいな!お前は俺の母さんかよ!」
二人のやり取りをくすりと笑ってから質問する。
「これから毎日練習あるの?」
「いや、基本水曜日と金曜日は休みだよ」
その返答に部活に智樹君を取られてしまわないとわかり、内心ほっとしてしまう。
「じゃあその時にタピオカ行こうね!智樹!」
「悪いな、ありがとう!」
そういうと足早に智樹は教室を出ていく。その姿を見送って私は残りのメンバーで何をするかを話そうと思い、二人のほうを向くと健斗君はにやにやとした顔をしており、陽菜ちゃんは少し怪訝そうな顔をしていた。
「え、何々?どういうこと?智樹との間に何かあったの?聞かせなさいよ~!」
「これは一大事のにおいがプンプンするぜ!聞くしかほかないな!」
なぜか反射的にまずかった、と思ってしまう。別に隠すつもりもなかったのだが、この二人に知られてしまうとやっぱりこうなるのか。
「あー、智樹って呼んでること?」
「それ以外ないでしょ!」
健斗君が食い気味に言う。ここは正直に話すしかない。ただ、振られたことはまだ内緒にしておこう。まだやっぱりいきなりは言いにくい。後で陽菜ちゃんに聞いてもらうまでは言う気にはなれない。
なので今は今朝あったことのみを話すことでこの場を切り抜けることにする。
「あはは、それは私だけ智樹のこと君付けだったから距離遠くていやだなって思って朝呼び捨てでもいい?って聞いてオッケーもらっただけだよ?」
「またまた~、絶対ほかにもなんかあったでしょ?」
さすがというか、鋭い。こういう時の健斗君は陽菜ちゃんと同じで鋭いものだ。
「いや、ほんとにそれだけだよ?」
「涼香ちゃん、友達に隠し事はなしだぜ~?」
ごまかしきれるか心配になってきたところで思わぬところから鶴の一声がかかる。
「……健斗、今日涼香とこの後約束してたから先帰ってて」
「え、でもこの一大事だぜ?」
普段なら健斗君と同様に乗っているはずの陽菜ちゃんのテンションが低い。何か真剣な表情になっている。
その様子を察してなのだろう、健斗君は彼女の表情を見るとおとなしく引き下がる。
「わかったよ、先帰ってる。タピオカ、今度おごりな」
「ありがと、健斗」
そう短くやり取りを交わすと健斗君は教室を出る。いつの間にか教室の中には私たち二人だけとなっており、その空間には不自然なほどの静寂が満ちていた。
その静寂に耐えきれずに、私は口を開く。
「どうしたの?なんか……変だよ?」
「変、ではないんだ」
そう彼女は重く口を開くと机に腰を下ろす。
「ずっと言わなきゃと思ってたことがあったの。でもずっと言ってはいけないこと、とも思ってた」
「それって……私に?」
「そうだよ。でも、私が答えを出す前に、涼香が答えを出したのなら……。私も今、答えを出さないといけないと思うの」
重く、そして辛そうに話す彼女を見ていると、私は何もしゃべれなくなってしまった。彼女の話をさえぎってはいけない、そんな気がしたからだ。
「智樹に、告白したんだね……」
その言葉に、私の心臓はドクりと脈打った。彼女の口から出ると思っていなかった言葉。それは自ら言おうと思っていたのにもかかわらず、不意打ち的に聞いたせいか心臓の音がうるさく耳を駆け巡った。




