─第9話 サバキ─
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この短時間に、何人飲まれただろうか。怪物は大きく膨らんだ腹を気にすることもなく、尚も生命を貪っている。悲鳴もほとんど聞こえなくなってしまった。
「───こちらを向きなさい」
青年は、恐れることなく真っ向から怪物を見据える。
「シュウゥゥゥ...」
その気配を察知し、怪物も青年を睨みつける。
「これ以上、キミを好き勝手させる訳にはいかない。...喰われた魂を救うためにも、キミには息絶えてもらうよ」
「シャアアアア!!」
全身の鱗を逆立たせ、怪物は凄まじい速さで迫ってくる。
「殺気は充分だね」
青年は剣を構えると、紫電一閃切りかかる。
「ギャアア!?」
鱗が数枚剥がれ、怪物からは血が滴る。
「うん、やはり剣ではあまり効果はないみたいだ。なら、これはどうかな?」
飛びかかって来た怪物の攻撃を躱し、青年は術を唱える。
「───oremot,onerak,wouykok」
すると青年の周りに、無数の泡が浮かびあがった。そしてそれらは、怪物のエラに一斉に飛び込んで行った。
「...ギャア!?ギュイイイイ!!」
「流石にこれは効くみたいだね」
奇声を発し身体をくねらせる怪物に、青年はトン、と飛び乗る。
「念には念を。じきに事切れるとは思うけれど、止めを刺しておくね」
剣を真っ直ぐ振りかざし、怪物の脳天に突き刺した。
「ギィ...、ア...」
間もなく怪物は動かなくなった。
「...キミの魂も、私が責任をとってあげるからね」
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「スイリュウが、死んだ...?あの化け物を、ひとりで倒したっていうのか...?」
「というか、アイツは何者なんだ!?水の上を歩いてたぞ!?」
怪物が動かなくなったことにより、固唾を飲んで見守っていた村人たちがざわつき始める。
『 マズいわね...。流石にこれだけ派手にやらかせば、見ない人はいないわ』
彼を“神”と呼ぶか、“悪魔”と呼ぶか。前者を祈りながら、ヴィオラは事の顛末を見届ける。