─第7話 天災─
宿に戻ったとほぼ同時に、雨が降り始めた。それは次第に強さを増し、ひと息つく頃には激しい雷雨となっていた。
「すごい雨ね...。流石に市場のお店は畳んでるでしょうね」
「そうだね。早めに行動しておいて正解だった」
縄で吊り下げた野菜や果物を眺める。ランプに照らされる姿は、まるで洒落たカーテンのようだ。
「どれくらいで雨止むのかなあ」
ベッドに横たわりながら、リベラはぽつりと呟く。
「そうね、長くて三日だと思うわ。早ければ、明日には天気は良くなるかもしれないけど...」
こればっかりは天の神様次第ねと、ヴィオラは困ったように笑った。
「焦っていてもしょうがないさ。落ち着くまで、船旅で疲れた心身を休めるとしよう」
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一縷の望みを抱いて迎えた翌朝も、空からは滝のような雨が絶えず降り注いでいた。
「暇だわ...」
「絵本もないし、お散歩もできないもんね...」
いただきます。と、三人は店主から貰った橙色の果実を一口食べる。身体は温まったが、気分は晴れないままだ。
「そうね、出来ることといえば恋バナくらいだわ...」
「こいばなって?」
首を傾げるリベラを見て、ヴィオラは微笑ましそうに話す。
「お泊まりした女子にありがちな、恋愛トークのことよ。“○○くんのことが好き〜”とか、“告白したけど振られちゃった〜”とか。そういう、甘酸っぱくてほろ苦いお話をするの」
「そうなんだ...。お姉さんもそういうお話するの?」
「うーん、アタシは専ら聞き手だったわ。仲良くしてた女の子たちが、アタシに相談しによく家に来てたの」
懐かしいわ、とヴィオラは遠くを見つめる。
「お姉さんは、好きな人っていたの?」
「ぶふっ!?」
リベラの質問に、ヴィオラは紅茶を吹き出し勢いよく噎せた。
「なるほど、それは興味深いね。恋慕とは一体どういうものなんだい?私にも教えてくれないかな」
「ちょっ、サフィラスちゃんまで───」
「気になるよね」
「うん」
二人は揃って無垢な目を向ける。
「...あ、アタシ急用を思い出したからちょっと席を外すわ!」
それだけ言うと、ヴィオラは逃げるようにどこかへ行ってしまった。
「行っちゃった...」
「申し訳ないことをしてしまったかな。頃合いを見て謝りに───」
「た、大変よ!外が!」
言いかけた矢先、息を荒くして戻ってきた。そのただならぬ様子に、リベラは不安げな表情を見せる。
「どうしたんだい?」
「村が、水没しかけてるわ...!」