─第5話 縮まる距離─
「...というのが、私の昔話さ。二人とも、聞いてくれてありがとう」
ぎこちない笑みを浮かべてみる。こういう時、どういう顔をしたらいいのか分からない。何か気の利いたジョークの一つでも言うべきなのだろうか。
「...サフィラス」
先に口を開いたのは、リベラだった。
「───っ!?」
勢いよく抱きつかれ、椅子と共に音を立てて倒れる。
「なんて言ったらいいか、分からないけど...!泣かないで...!」
「え───」
顔に手をあてると、一筋の滴が頬をなぞっていた。
「サフィラスちゃん。話してくれてありがとう。辛い思いをしてきたのね...」
ヴィオラがしゃがみこみ、頭を優しく撫でてくる。
「...二人は、私のことを忌み嫌わないのかい?」
「そんなこと、あるはずないわ!サフィラスちゃんが良い子だって知ってるもの!」
「うんうん!」
想定外の反応に戸惑っていると、二人は笑顔で私にこう言った。
「これからもよろしくね!」
...ああ、心を閉ざして逃げていたのは、私の方だったのか。青年は、二人の手をとる。
「...ありがとう」
その手はとても、温かかった。
──────────
こそばゆい気持ちで迎えた翌朝。朝食の支度をしていると、ドア越しに声が聞こえてきた。
「サフィラスちゃん、おはよー!ちょっといいかしら?相談があるの」
「なんだい?」
トントンと軽いノック音が聞こえた後、ヴィオラが姿を見せる。
「あら、いい香り。今日の朝食は何かしら?」
「野菜のスープと、海で釣った魚はムニエルに。あとは主食のパンを焼いて、といった簡単なものさ」
「ステキ!充分すぎるくらいよ!お腹が空いてきちゃったわ」
「それはなにより。ところで、相談内容を聞かせてくれないかな?」
一旦手を止め、青年はヴィオラに向き直る。
「そうだったわ。あのね、もうすぐ目的地“エレウス”に着くんだけど、波が荒れてきたの。途中に村があるみたいだから、そこに一旦船を停めてもいいかしら?」
「いいとも。リベラも船旅で疲れているだろうからね」
「決まりね。よし、早速舵を切ってくるわ!」
それだけ言うと、ヴィオラは駆け足で行ってしまった。朝からテンションが高いなと思いながら、小皿にスープをひと口うつす。
「...誰かのために料理をすることになるだなんて、思ってもみなかったな」
スープはほんのり甘かった。