─第2話 幽世の宝石箱─
それは、存外傍にあった。
「わあ···っ!」
感嘆の声を漏らす一行の瞳に映し出されたのは、万華鏡が如く表情を変える、煌めく大粒の宝石達だった。それらはランタンの光を全身に受け止め、彼らを出迎えるかのように多様な色を放ち眩いている。
「ね?凄いでしょ?」
「確かに、想像以上の所だ。···これだけ異なる種類の宝石が共存しているとはね」
自慢げに笑うヴィオラに、サフィラスは辺りを見渡しながら答える。陽の光は一切射していないのにも関わらず、頭上から道の先まではっきりと視認可能で。凍えた肌を包む柔らかな風は、時折髪を擽り通り過ぎて行く。足元には草花が芽吹いていて、ふわりと蜜の甘い香りが漂う。まるで幽世のような不思議な空間に、リベラも瞳を輝かせる。
「きれい···絵本で見た魔法の国よりも、ずっとキラキラしてる···!」
「···眩しいくらいですね」
目を細めるフレイアも、常時より声色が僅かに明るい。サフィラスはその様子を背中から聞きながら、ふと立ち止まる。
「どうかしたのか?」
その先には、彼の胸元の高さくらいある石盤が佇んでいた。アルディが声を掛けるも、彼は無言のまま悲哀の表情を浮かべ、石盤にはめられている鉱石を見つめている。そしてその下部に描かれた模様を目で追った後、徐に口を開いた。
「───Ineok,esuok」
不意に紡がれるサフィラスの言葉に、一同は驚きながらも静かに見守る。すると彼の触れた鉱石が、カラリと音を立てて岩壁から零れ落ちた。
「今のは?」
「···手持ちの鉱石が尽きかけていたからね。折角だから、少し分けてもらったんだ」
サフィラスは鉱石を胸元に仕舞うと、軽く手をはたいた。その躊躇わない行為に、ヴィオラは眉を顰める。
「危なくないかしら?罠だったり、誰か持ち主が居たりするかも───」
「その点に関しては心配しなくていいよ」
「そうなの?」
「うん。だって此処は、未だ人の手には触れられていない場所。───魂晶師の祖先が遺した宝石箱なのだから」
「···どういう事だ?」
サフィラスは振り返ると、首を傾げる仲間達に視線を合わせる。そして、“少し長くなるけれど”、と前置きをした上で語り始めた。
「私の一族は、古くから宝石と共に生きてきた。君達人間にとっても身近なものかもしれないけれど、私達の場合は用途が少し異なるんだ」
すると彼は石盤を指す。
「これ、君達にはどう映るかな?」
「ふむ···鉱石を飾っていたように見えたが」
アルディは石盤に歩み寄り、刻まれた模様を凝視する。
「これは···随分規則正しく描かれているな。何か法則でもあるのか?」
ヴィオラも改めて確認する。そして、大きく目を見開き口元に手を当てた。
「もしかして───」
「そう。此処は、君達の言う魂晶師の“墓場”。道中見てきた宝石の数々。···あれは全て、その魂を入れたものなんだ」




