─第14話 演者と芝居─
「サフィラス、ヴィオラ!おかえり!」
「ただいま」
「リベラちゃーん!会いたかったわー!」
サフィラスが軽く返答をする一方、ヴィオラは駆け寄りリベラに抱きつく。
「わっ、手冷たい」
「あらっ!御免なさい、アタシったら───」
「これ、良かったら使って?」
咄嗟に離れるヴィオラに差し出されたのは、黒色の手袋だった。手首の辺りには紫色の刺繍が施されており、所々に手作りならではの味が醸し出されている。
「リベラちゃんが編んだの?」
「うん!ヴィオラに似合うような色を選んだよ。大きめに作ったから、サイズも多分大丈夫」
「なんてこと···!アタシ、感動のあまり泣きそうだわ···!」
隅々まで眺めて堪能した後、ヴィオラはいそいそと手に着ける。
「どう?似合ってる?」
「そうだね。服と色合いのバランスもとれていて素敵だよ」
サフィラスが肯定すると、ヴィオラの表情は一層輝いた。
「ですって!大切にするわ、本当に有難う!」
「どういたしまして!···あのね、これ···サフィラスの分も編んだの」
するとリベラは躊躇いながら、テーブルの上からマフラーを手に取り、サフィラスに差し出す。
「···一番最初に編んだから、なかなか上手くいかなくて。でもチルアに教えてもらいながら、頑張って───」
弱々しく話すリベラから紺碧の作品を持ち上げると、サフィラスは自身の首に巻いて微笑む。
「うん、温かい。···きっと、リベラの真心が込められているからだろうね」
「···っ」
しかしリベラは顔を背けてしまい、サフィラスは首を傾げる。
「どうかしたのかい?」
「う、ううん。何でもないよ。···それより、フレイアとアルディは?」
「二人は私とヴィオラとは別の仕事を任されていてね。それが思いの外厳しかったらしく、今は寝室で休んでいるよ」
「そうなんだ···」
寂しげに眉を下げるリベラに、ヴィオラは朗らかに笑う。
「大丈夫よ、別に大怪我したーとかじゃないから!少ししたら、二人の方から顔を見せてくれるわよ」
「···うん」
明らかに落ち込んでいるリベラに、ヴィオラは一層明るく話題を持ち掛ける。
「そうそう!アタシ、お留守番してた時のお話とか聞きたいわ〜?チルアちゃんとした女子トークとか!」
リベラは暫し考え込む仕草を見せると、軈て思い出した記憶を零す。
「うーんと···チルアとヴァイドのデートのお話とか?」
「えっ、何それものすごく気になる!」
ヴィオラが食い気味に反応すると、リベラの表情も次第ににこやかになる。
「話しても良いか聞いて来てもいい?」
「アタシもついてくわ!」
ヴィオラはサフィラスに目配せをすると、リベラの後を追って部屋から出ていった。
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───これは、ヴァイドとサフィラスが、二人だけの空間で対面していた時のこと。
『···何故、俺がお前らにやたらと干渉するのかだと?』
『今更だけれど、真意を問いたくてね。どうして二人に利点が無いのにも関わらず、食事や寝室の提供をしてくれるのか。いくら先程の依頼があったとはいえ、まるで見返りがないのでは?』
『···そうだな』
『過干渉とも思える言動は、今まで出逢ってきた仲間を除く、誰よりも多くて。そして、誰よりも親身だった。···まるで何かの罪滅ぼしをしているようにすら、感じられる』
『···』
『だから、別れる前に聞いておきたいんだ。貴方の本心を』
サフィラスの問い掛けにヴァイドは暫しの沈黙を置き、その重い口を開く。
『···昔の話になる。俺とチルアは、国の研究者だった』
『なっ───』
『···そう、“人体実験”だ。内容は、お前の想像通りのソレで間違いない。···ここまで聞けば解るだろ?俺は···俺とチルアは、被験者のお前に贖罪がしたかった。無論、今後もお前の手助けは行う。何せまだ、碌な償いも出来ていないからな』
『───何故最初に言わなかったんだ!』
『···激昂するのが目に見えていたからだ。あの場には“無関係”な人間が多く居たからな。暴走し、術を唱えた場合のリスク回避だとでも言えば、お前も納得するだろ』
『っ···』
『負傷し帰還したあの二人。···言葉にはしていないが、瞳に恐怖の色があった。···余程術の脅威にさらされてきたんだろうな。“あれ”と同等···いや、凌駕するオリジナルのお前が正気を失ったらどうなるか。今でこそ話せるが───』
『もういいよ。ところで、あの鉱山に“彼”が現れるのも計算済みだったのかい?』
『いや、予想外だった。···そもそも、生きていた事すら知らなかった。俺とチルアは、最後まで見届ける事なく離れたからな。···お前もそうなんだろ?』
『···思い出したくもないよ』
『···そうか。それなら最後に一つ、お前に確認しておきたい事がある』
『何だい?』
『───まだ“芝居”は必要か?』
『···そうだね』
サフィラスは乾いた笑いを浮かべた。




