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草案  作者: 禄星命
第5章
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─第13話 水面下の波紋─

───久しぶりに、夢を視た。サフィラスに出逢った日の夜に視た、断片の続きを。

『お母さんはどこ?』

『貴様が知る必要はない』

鉄格子の先に、上質な衣に身を包んだ男が佇んでいる。男は品定めをするように子供を凝視し、やがて口角を上げた。

『───母親が成せなかった場合の保険にはなるかもしれぬな』

錠を解き、手足の枷も外して男は強引に子供の腕を引き上げる。

『⋯嫌だ!離して!』

『抵抗すれば、母親の生命は無いと思え』

『⋯この、人でなし!』

『フッ。人在らざる貴様に言われるとはな』

『な───』

目を見開く子供の姿が檻の外へ消えたところで、刹那の邂逅は終わりを告げた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


カーテンを開け、身支度を済ませて階段を下りていく。その先のドアの向こうには、鼻歌を歌いながら窯の中の料理を取り出すチルアの姿があった。リベラの足音に振り向くと、笑顔で少女を出迎える。

「リベラちゃん、おはようございます〜!昨夜はよく眠れましたか?」

「おはよう。⋯少し嫌な夢を見ちゃったけど、ベッドが暖かくてすっかり寝坊しちゃった」

「ふむふむ?良ければお話を聞かせて欲しいのです」

食器を一式テーブルに揃え、二人は着席する。すると、リベラのポケットからネーヴェが顔を見せた。

「あらあら!可愛らしい子なのです!」

「ネーヴェっていう名前なの。サフィラスが私に預けてくれたんだ」

「いいですねぇ⋯毛並みもふわふわでお目目も輝いていて、とっても大切にされてるのが分かります!」

ネーヴェはリベラの身体を伝いテーブルの上にのぼると、ヒゲをひゅんひゅんと動かす。

「そっか、ご飯今日はまだあげてないんだった」

「ネーヴェさんはこの木の実とかは食べられます?」

「うん」

リベラは、赤い小さな木の実と野菜を少しちぎって、ネーヴェの目の前に置く。すると鼻を近づけた後、両手で器用に持って食べ始めた。

「んん〜!可愛らしい⋯!癒されますねぇ」

チルアが両手を頬にあて悶えていると、リベラからは笑声が洩れた。

「ふふっ、良かったら撫でてあげて?この子、触れられるのが好きみたいだから」

「良いのです?」

「うん!」

「では、失礼して⋯」

ゆっくりと両手で包むように持ち上げ、親指で優しく背中を撫でる。すると暫くしてネーヴェは大きく欠伸をひとつすると、やがて瞼を閉じた。

「はわわ⋯ど、どうしましょう」

「えっとね、このハンカチに寝かせてあげて」

リベラは自身のポケットから純白のハンカチを取り出すと、軽く形を整える。

「⋯ふう、これで良しなのです」

ネーヴェを手放したチルアは安堵の表情を浮かべ、リベラに微笑みかける。そして小声で礼を述べた。

『リベラちゃん。貴重な経験、ありがとうなのです!』

『うん!どういたしまして』

料理を温めなおして、二人は静かに食事を再開する。後に食器を片付けていると、ベルの鳴る音がした。

「あら?帰ってきたかもしれないのです!私が迎えに行くので、リベラちゃんはここで待っていてください〜」

チルアがすぐさま玄関へ向かうと、そこにはサフィラス達が大きな荷物を抱えていた。

「⋯戻ったぞ」

「おかえりなさい、なのです!それにしても、随分といっぱい荷物がありますねぇ」

チルアは棚から鍵を手に取り、奥の部屋へとサフィラス達を誘導する。

「聞いてよチルアちゃん!ヴァイドったら、一人につき30kgも持たせて使いっ走りにしたのよ?もうアタシ腕パンパンだわ⋯」

ヴィオラは荷物を置くと、両腕を弱々しく擦る。

「お陰で良い運動になったよ」

「細身な割には力持ちよねぇ」

顔色ひとつ変えないサフィラスに対して、彼は不思議そうに見つめる。

「ヴィオラの方が意外だったよ」

「アタシはこれでも元騎士なのよ〜?あれくらいは持てるわ」

「⋯お前ら、立ち話は止めてさっさとコートを脱いでこい」

駄べる二人にヴァイドは横槍を入れ、二階に上がる様促す。サフィラス達が階段を上がった後、今まで傍に居たチルアが耳打ちをする。

『あの、フレイアさんとアルディさんは?』

「⋯村で負傷してな。連れの娘は何処にいる?」

ヴァイドの言葉にチルアの表情が僅かに陰るが、声色を変えずに答える。

『リビングなのです』

「⋯そうか」

ヴァイドは一言だけ言葉にすると、再び外へと赴いた。

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