─第9話 暗躍する影─
村の入口に程近い場所へ留めた馬車に、三人は辿り着く。袋を荷台に納めたヴィオラは、漸く解放された腕と腰を目一杯伸ばした。
「ふーっ⋯なんとか運べたわね」
「これでお前らの仕事は終わりだ。後は好きにするといい」
すると、サフィラスは徐に立ち上がり踵を返す。
「私は少し寄りたい所があるから、そこに行ってくるよ」
「⋯止めておけ。あの村は治安が悪すぎる。特にお前は、いつ殺されてもおかしくない」
ヴァイドは険しい眼差しを送るも、サフィラスは飄々と躱し防具を装着する。
「護身の心得はあるつもりだよ。大丈夫、生死に関わる事態になる前に撤退するから」
ヴァイドは溜息を漏らすと、紙に簡単な地図とメモを記載し、彼へ手渡した。
「⋯この村を出て西へ進め。有刺鉄線が張り巡らされている塀が目印だ」
「サフィラスちゃん。⋯くれぐれも無理しちゃダメよ」
「うん、ありがとう」
サフィラスは頷き、すぐ戻るよと二人に手を振って行った。
「⋯アイツはひとりで背負い込む癖があるな」
「ええ。───けど、それが彼の個性なの。アタシ達にアレコレ言う権利はないわ。勿論、意見とかはするけれど⋯最終的にどう決断するのかは本人次第よ」
「ふっ、まるで父親だな」
「そこまで歳とってないわよ!⋯って、あら?あれって───」
荒い呼吸が耳に入った二人は、会話を止め音のする方を向く。そこには力なく萎れるフレイアと、それを抱くアルディの姿があった。ヴィオラは血相を変えて駆け寄る。
「ちょっと、二人ともボロボロじゃない!何があったの!?」
「報告は後回しだ。今は彼女の手当を頼む」
アルディの申言に、ヴァイドは馬車を茂みで囲った後再び村へと手招く。
「⋯村に俺の別宅がある。着いてこい」
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周囲に怪しい人影が居ないことを確認し、四人は席に着く。真っ先に口火を切ったのはアルディだった。彼は坑道内部での経緯を、自身の衣類の焼き切れた跡を見せながら、事細かに語る。
「───という事が起こったのだ。幸いにも、奴は我々に止めを刺していくことはなかったがな」
フレイアの足首に包帯を巻きながら、ヴィオラは二人に尋ねる。
「それで?相手はどんなヤツだったの?」
「それは⋯」
「サフィラス様と似た風貌をしていました。⋯言動は酷いものでしたが」
言い淀むアルディの代わりに、フレイアが答える。その青年が、白銀の髪を靡かせていたこと。同じ耳を有していたこと。唯一異なる、紅の瞳についても。ただ、彼女もそれ以上は言わずに目を伏せた。
「⋯本人に問いただそうにも、ここに居ないしな。ともかく、大体の事は把握した。一先ずお前らは休養しろ」
「うむ。そうさせてもらう」
「⋯失礼します」
二人が階段を上がっていく音を聞き届けた後、ヴィオラが愁いを帯びた声を漏らす。
「紅の瞳、ねぇ⋯」
「それが生まれつきのものだとすれば、連れの娘と同じルベール出身ということになるな」
「けど、サフィラスちゃんから仲間はもう居ないって聞いたわよ?⋯そもそも、両方の特徴を持ってるなんてどういう事なのかしら」
ヴィオラは腕を組んで天井を見上げる。すると考えたくもない嫌な予想が脳裏を掠め、慌てて首を振った。
「⋯この話は、連れの娘にはするなよ。間違いなく拗れた案件だ」
「そうね。まだ何も分かってないし、リベラちゃんに変なストレス与えたくないもの」
徐々に迫りくる暗躍の影を危惧しながら、彼らはまた今日を終えた。




