─第4話 忌─
私は、山奥の村で両親と共にひっそりと暮らしていた。村の住民は私と同じ種族のみ。少人数ではあったけれど、諍いもなく平和な日々を送っていた。...ところがある日、それは跡形もなく壊されてしまった。“人間”がやって来たんだ。大勢の武装している彼らに、私の仲間は、為す術もなく殺されていった。
...術をもって抵抗すれば良かったのではないか、だって?生憎、それはできなかったんだ。理由は至って簡単。“使えなかった”からだ。術は、誰にでも行使できるものではない。...運が悪く、あの場に“才ある者”は一人も居なかったんだ。そうして、武器を持たぬ村の人々は殲滅された。
その最中、動乱に乗じて行方をくらました者がいた。───それが私だ。厳密に言うと、両親と私の三人。逃げ出したは良いものの、両親にも才は無かった。結局見つかり、抵抗した父は無残に串刺しにされた。一方私は、幼い故に可能性を見込まれ、母を人質にとられ連行された。
...母と引き離され入れられたのは、窓一つない部屋だった。そこで私は、何人もの“実験体”を犠牲にした。術を使えるようになるまで、ろくに食事も与えられず。最低限の生命力を維持され、生殺与奪の権を握られたままね。
そうして実験体が尽きたある日。見覚えのある女性が私の前に現れた。...母だった。傍に立っていた男は、戸惑う私のことを殴り、ただ一言放った。“───やれ”と。当然、私は首を縦には振らなかった。けれど、母は“私のことは気にしないで。術を使って”と微笑んだ。...結論として、成功はした。してしまった。母の生命を、青い宝石へと変えることに。
冷たくなった母を嘲るように蹴り飛ばす男。───その光景を見て、私の枷は外れた。檻を破壊し、私や両親、村の人々を巻き込んだ全ての人間の息の根を止めた。
...そうして私は、独りになった。誰の目にも映らぬよう、山奥で息を潜めるように日々を過ごしていった。...この後のことは、リベラには話したよね。二十年も経てば、油断のひとつふたつはある。うっかり王に見つかって、逃亡して。そして今に至るという訳さ。