─第8話 白銀の雷霆─
賊の掃討を請け負った二人は、状況把握と対策を練るために坑道を進んでいた。互いに目を合わせる事もなく、フレイアは黙々と思案する。
『⋯発破した割には角礫が落ちていない。ヴァイドさんから発破音の情報も聞いていない。───それに、一切無駄がない穿たれた跡』
空間ごと切り抜かれたような不自然な窪みに触れる。その表面は硝子が如く滑らかさを誇り、ランタンの灯火を反射させる。
『直径はおよそ10cm⋯必要最低限しか開けていない。今の技術では困難なのに、いとも容易く成し遂げる賊は一体───』
「少し良いか?」
「⋯何でしょう」
アルディに声を掛けられ、フレイアは手を止めて振り返る。
「不届き者についてなのだが。⋯奴らは相当な手練かもしれん。貴様も気が付いているだろうが、単なる賊にしては技術力が凄まじい。武力こそ不明だが、心してかかる必要がありそうだ」
「⋯そうですね」
「それで、作戦なのだが」
アルディは身振り手振りを交えて説明をする。
「───という流れを想定しているが、貴様の忌憚のない意見を聞かせてほしい」
「在り来りではありますが、磐石で良いかと」
「⋯それだけか?他に言うことは?」
「いえ、特には」
「そ、そうか」
毒の一つや二つ吐かれるかと身構えていたアルディは拍子抜けする。続けて声を掛けようかと一考するが、手頃な話題が見付からず、再び足音だけが坑道に響く。
「では、私は物資を調達してきます。先に作戦の為の準備をしておいて下さい」
空へ伸ばした行き場のない手で、アルディは頭を搔き上げる。
「身勝手な奴だ⋯まあいい。さっさと罠を───」
刹那、寒気が背後に顕れる。
「っ、何奴!」
咄嗟に振り向き背負っていた大剣を一閃させる。斬った空の先には、嘲笑をする青年の姿があった。
「⋯貴様、この鉱山を荒らす賊の一味か?」
「兄さんがご執心の人間がどの程度のモンか気になって見てみれば⋯クソザコじゃねえか。期待して損したぜ」
フードを被った青年は、欠伸をしながらアルディを見定める。
「質問に答えろ。貴様は誰だ!」
「───黙れ」
「ぐっ⋯!」
青年の右腕が瞬いたかと思うと、雷鳴と共に現れた青白い刃がアルディの喉元を捉えた。
「誰がテメーに口聞いていいって言った?⋯あーダルい。さっさと殺して帰るかな。───じゃあな、オッサン」
滑り落ちた大剣を拾う術もなく、アルディは身構える。───青年が大きく腕を振りかぶったその時、彼の頭部に衝撃が走った。
「───その人から離れて下さい」
「っ、テメェ⋯!」
フレイアの足技により晒された青年の風貌。それは見覚えのある青みを帯びた白銀の髪と、尖った耳だった。
「貴様、その姿───」
「⋯貴方は一体何者ですか?」
二人が浮かべる驚愕の表情に、青年は紅の瞳を細めて嗤う。
「教えてやるぜ?オレに勝てたら───なあ!」
拳から繰り出される雷霆。フレイアは間一髪のところで回避する。
「へえ、今の避けられるんだな?大した反射神経じゃねえか。なら、コイツはどうだ?」
息付く間もなく迫り来る光弾。青年に接近することも出来ず、次第にフレイアの動きが鈍り始める。
「イイねぇ!昂ってきた!もっと楽しませてくれ!」
「くっ───」
このままでは、全滅するのも時間の問題。呼吸もままならない状況下で、打開の一手を模索する。
『背後にも回れない。不意をつく隙もない』
心臓を穿こうと走る雷撃を躱そうと爪先に力を入れる。
「あ───」
石の滑りに足をとられ、体勢を崩す。視界の端に閃光が映るが、身体が強ばって動かない。
「───フレイア!」
「⋯おいオッサン、良いところだったのに邪魔すんじゃねえよ」
フレイアを受け止め立ち塞がるアルディに、青年は舌打ちをする。
「げほ⋯っ、貴様の方こそ、油断が過ぎたのではないか?」
青年が目線を動かすと、自身の手には短剣が突き刺さっていた。
「テメー、オレの血を無駄に流させやがって⋯!」
一層激昂する青年だったが、やがて拳からは雷鳴が止む。
「⋯まあいいや。疲れちまったし、引き下がってやるよ」
フードを被りなおすと、青年は振り向きざまに言い放つ。
「⋯次に会う時は殺す。覚悟しとけ」
一線の閃光とともに、青年の姿は消えた。静まり返った坑道により我に返ったフレイアは、抱き留められている腕を解く。
「⋯助かりました。有難うございます」
立ち上がり際によろめくフレイアに、アルディは咄嗟に彼女の肩を支える。
「む、脚を捻ったか。⋯奴の件も報告せねばならんし、一旦下りてサフィラスらと合流する必要があるな」
アルディは軽く手で衣服の埃を払うと、フレイアの腰に手を当てそのまま持ち上げる。
「⋯何故横抱きなのですか」
「背中には大剣があるからな。致し方あるまい」
「なるほど。では迅速に、サフィラス様の所までお願いします」
アルディは眉間に皺を寄せつつ、早馬の如く坑道を駆け抜けた。




