─第7話 消費されるモノ─
場面はサフィラス達へと切り替わる。軽く腹ごしらえを済ませた後、三人は村の外れにある店屋へと赴いていた。道路の両側には、村で採れた鉱石のみを扱う店、個性豊かな鋳型を売りにしている店。鋳造に必要な道具を取り揃えた店と、物作りに特化した店が連なっている。
「あら?ここには普通に女性もいるのね」
「ああ。⋯この区画は工芸家が買い付けに来る場所だからな。女が出歩いているのも珍しくはない」
両腕に溢れんばかりに袋を抱えて店の扉を通り抜ける人。陳列窓に展示された商品を真剣な表情を浮かべ唸る人。それぞれの人生を謳歌する人々を横目で見ながら、サフィラスはヴァイドに問う。
「先程の飲食店から気になっていたのだけれど。この村は鉱山区画以外有毒ガスは届かないのかい?」
「そうだ。⋯鉱山の区画のみ対流が発生していてな。外部には漏れ出ずにいるから他は安全という訳だ」
「なるほど。では合わせて聞きたいのだけれど、性質や危険性は───」
「きゃあああ!!」
突如女の悲鳴が響き渡る。振り返ると、肌が黒ずんだ男が身体を震わせ倒れ込んでいた。ヴィオラは思わず両手で口を覆う。
「“発症者”が現れた!おい、“遣獄使”!こいつを直ちにラナケー村へ送り込め!」
するとそれを目撃していた一人の中年の男が、声を荒らげながら笛を鳴らす。直後、全身白衣に身を包んだ人物が物陰から現れた。顔面は防具を着けており、その表情は窺えない。“遣獄使”は倒れ込んだ男の方を向くと、なんの躊躇もなく棍棒を手に取り歩み寄る。
「対象、視認。捕縛体勢移行」
「⋯や、やめろ!オレはまだやれる⋯!は、離せ───」
鈍い音とともに、男の声が消えた。
「対象、沈黙。周囲消毒後、輸送開始」
遣獄使は男を布で包み、肩に担ぐ。そして白い粉を散布すると、足早に姿を消した。最後まで見届けた傍観者は、何事も無かったかのように品定めを再開する。
「⋯あれが答えだ。防具を身に着けず長期に渡り採掘作業をしていると、呼吸障害や手足に麻痺が生じる。次第に身体は赤黒く変色し、最終的には死に至る。⋯アイツはもう長くはないだろうな」
「なるほど。ちなみに、彼は何処へ連れていかれるんだい?」
淡々と語るヴァイドに、サフィラスの語気が僅かに強まる。
「ここと隣接したもう一つの村だ。⋯隔離施設という表現の方が適切だろうな」
「そこで適当な治療は⋯しそうにないわね。あんな乱暴な行動をとるんだもの」
ヴィオラは眉を顰める。つい先刻までそこにいた人影はなく、ただありふれた日常風景だけが瞳に映る。
「ああ。“生かすより殺す方が安くつく”からな」
「⋯随分と軽い生命のようだね」
サフィラスは買い物客らを一瞥し、帽子を深く被る。
「サフィラスちゃん⋯」
「そうだな。とはいえお前らには関係の無い事だ。⋯本来の目的に戻るぞ」
ヴァイドは数歩歩いた先の扉をノックする。すると解錠の音が聞こえ、扉は重音をたて内部を露わにした。
「おう、来たか」
進んで行った先には、眼帯を着けた隻眼の老人が、一人椅子に腰掛けていた。室内はさほど広くなく、壁際一面に木製の収納箱が所狭しと設けられている。
「⋯材料を取りに来た」
ヴァイドの言葉に老人は頷くと、眼前の机に一枚の書類を置く。ヴァイドは卓上のペンを手に取り、空欄に自身の名を筆記した。
「ん、確かに。好きなだけ持っていけ」
老人は書類に目を通すと彼に鍵を手渡し、読書を再開する。
「⋯必要な素材を取り出していく。お前らはこの袋に片っ端から詰めていけ」
ヴァイドは持参した袋を二人に渡すと、梯子を組み立てる。
「結構大きいわね⋯。どれくらい入れるつもりなのかしら」
子供一人包める程の大きさの袋に、ヴィオラは苦笑する。
「安心しろ、一人頭精々20kgだ」
「ちょっと!重すぎない!?」
「馬車で来たことだし、そこまでの辛抱さ」
既にサフィラスは作業に着手しており、落下してくるものを器用に左手で受け取っている。
「明日は筋肉痛待ったナシね⋯」
ヴィオラも嫌々金属塊や鍛造道具を手に取る。しかしその手つきは慣れたもので、隙間なく詰め込んでいた。
10分ほど経ち、最後の素材がサフィラスの手により袋に収まる。すると老人は徐に本を閉じた。
「毎度。荷物持ちが二人も居るってことは、暫くここには立ち寄らねぇんだな」
「ああ」
「⋯ちょいとこっちに来な」
袋を抱え、立ち去らんとしているヴァイドを老人は呼び止める。そして彼の袖口を捲り上げると、眉間に皺を寄せて別れの言葉を添えた。
「───あの小さい嫁さんを泣かせんなよ」
ヴァイドは無言のまま頷くと、二人を連れて踵を返した。




