─第8話 誰が為の生命─
「...そう、私はホムンクルスを創ろうとしてきたわぁ。攫ってきた男の子から精液を、毎日欠かさず集めては実験を繰り返してねん」
結局成功することは一度もなかったけどねぇ、と彼女は自嘲する。
「それにしても、何故貴女はホムンクルスを創ろうとしたんだい?」
「...世継ぎが欲しかったのよぉ。何年経っても、子供を授かることができなかったからねん」
王は自身の下腹部をそっと撫でる。サフィラスはふむ、と頷くと王へ一つの提案をした。
「なるほど、では子を儲けられるように私が術を施してあげよう」
「...そんな夢物語のようなこと、貴方にできるのぉ?」
「うん、可能だよ」
「本当にぃ?」
サラッと言ってのけるサフィラスに、王は疑いの眼差しを向ける。一方で、ヴィオラは眉尻を下げて抗議の声を洩らした。
「サフィラスちゃん、また魔法を使うつもり?」
「それで同盟が組めるのなら安いものだよ。...それに、他に方法はないだろう?」
「けど───」
“自分を犠牲にするなんて、間違ってる”。彼の声は、届くことなく虚空に消えた。
「さて、王よ。早速だけれど、手枷を解いてほしい」
「わかったわぁ」
王が再び腕輪に手をかざすと、何事も無かったかのように両の手枷は外れた。サフィラスは自由になった左手を王の下腹部に当て、目蓋を閉じる。
「Eabemoyikubi───」
彼の声に呼応するように、徐々に王の身体が柔らかく光り輝く。その時、彼は王の身体に違和感を覚えた。
『術が通りにくい...。“アレ”を飲んでも効果がなかったのはそういうことだったのか...』
黒い靄の如く、全貌を捉えられない正体不明の“何か”。その一片を掴むように、サフィラスは左手に力を込める。
「───Oyes,akuoj」
術を唱え終わり目をひらくと、あっけらかんと自身の身体を眺める王の姿があった。
「...信じられないわぁ、身体の具合が良くなってる。上手く言えないけど、憑き物が落ちたような感じ...」
「これで、次の機会には子に恵まれるはずだよ」
「不思議。何の証拠もないけど、何故か本当に“次はできる”。そう思えるわぁ」
にっこりと微笑むと、王は机に向かう。そしてペンと羊皮紙を引き出し、何かを書き出した。最後に印を押し、それをそのままサフィラスへと手渡す。
「はい。貴方、これが欲しかったんでしょう?」
「ありがとう。...うん、きちんとサインも押印もしてある。あとはあちらの王から同盟書を貰うだけなんだけれど───」
次の瞬間、部屋に爆音が轟いた。
「なっ、壁が───」
「ちょっ、フレイアちゃん!?えっ、なにこれどうなってるの!?」
その場にいた全員が振り向いた先には、少女を抱えたまま脚を振りかざす一人の破壊神がいた。
「あちら側と、壁一枚で繋がっていたようだね」
「サフィラス様、そのお姿は...!?」
ボロボロの衣類でベッドの上に座っている彼の状況に、彼女はわなわなと肩を震わせる。
「あらあら、一体何があったのかしらぁ?」
「ダリア!その小娘をなんとかして欲しいざんす!」
するとフレイアの背後から、上気した面持ちで一人の男が走ってきた。
「...貴女、こっちにいらっしゃい。そうよぉ、そのままこの人達の後ろに」
王は手招きをし、フレイアをヴィオラとアルディの背後にまわるよう指示する。不信の念を抱きながらも、フレイアは頷く。王はそれを見届けると真っ直ぐ男に向かい、そして男に平手打ちをした。
「クローザ、冷静になりなさい」
「ひっ...!ち、違うざんす!ボクちんはただ、ダリアのためを思って───」
「その必要はもうなくなったわぁ。あの人が解決してくれたの」
頬に手を当て涙を浮かべる男に、王は静かになだめる。
「...ホントざんす?」
「ええ」
「ボクちん、もうあの娘達から血を貰わなくてもいいざんす?」
「そうよぉ。...私も実験は封印。永遠の若さも、偽りの世継ぎも要らない。これからは、二人で手を取り合っていきましょう?」
「ダリア...!」
男は王に飛びつき、良かった、良かったと咽び泣く。王も男の首に手をまわし、その身体を震わせていた。
「すっかりアタシ達置いてけぼりだけど...。一件落着、なのかしら?」
ぐったりとしているリベラに自身の上着をかけ、更にまごまごしているアルディの上着を剥ぎながらヴィオラは話す。
「そのようだね。とはいえ、彼らが行った非道の数々が正当化されるわけではない。これからどう贖うかも含めて、一度落ち着いて話し合おう」




