─第6話 少女の血─
百合の描かれた、汚れ一つない純白の扉をフレイアは勢いよく蹴り飛ばす。その先には、全身真っ赤な衣服に身を包んだ中年の男がいた。
「な、なに事ざんす!?」
「布と鎮痛薬はどこにある!」
ぐったりとした少女と、それを抱える女。それを見た男は、胸元から鍵を取り出した。
「...ふむふむ、状況が把握できたざんすよ。ここにあるざんす。好きなだけ使うがいいざんすよ」
「助かる!」
男は鍵を棚に差し込む。すると、中から大量の布や薬草が現れた。早速その一部を手に取り、フレイアはリベラのもとへ駆け寄る。
「う、うう...」
「リベラさん、これを。あとはワンピースを少し捲らせてもらいます」
男に見えないよう配慮をしつつ、迅速に清潔な布をあてがう。そして、薬草をリベラの口に含ませた。
「...よし、これでひとまずは大丈夫でしょう。王よ、礼を言います」
「困った時はお互いさまざんす。ささ、早くお嬢さんをそこの暖かいベッドに寝かせてあげるざんす」
フレイアは頷くと、そっとリベラを持ち上げベッドに寝かせる。すると、男は次いで質問を投げかけてきた。
「───して、お嬢さん方。ボクちんに何か用があるらしいざんすね?兵からは既に聞いてるざんすよ」
「はい、実は───」
フレイアはここに来た理由を説明する。すると、男は手紙に書かれていた通りだと頷いた。
「なるほどなるほど。お易い御用ざんす。きちんと“交渉材料”も持ってきてくれてることだし、すぐにでも同盟を結ぶざんすよ」
「...?交渉材料と呼べる物は今手元にありませんが...」
「いやいや、何を言ってるざんす?もう“そこ”にあるざんしょ?」
「っ───!?」
男が指を指した方向。それは、リベラの眠るベッドだった。そしてようやくフレイアは思い出す。先程のおぞましい部屋と、ニーエ達とのやり取りを。
「貴様!あの子に何をするつもりだ!!」
「危害は加えないざんす。ただ───」
両手を合わせ、満面の笑みで男は言い放った。
「お嬢さんから“紅月の血”を貰うだけざんす」
「なっ───」
ニコニコと目を細める男に、フレイアは激昂する。
「ふざけるな!あの子に触れてみろ、この手で貴様を殺すぞ!」
「そんなことしていいざんす?不利になるのはお嬢さん方ざんすよ?」
「くっ...」
男はフレイアにゆっくりと歩み寄る。
「考えてもごらんなさい。あのお嬢さんの血で、お嬢さん方の望みは果たされるのざんすよ?ボクちんは、自然に流れ出たものを得る。お嬢さん方は、我が国の後ろ盾が得られる。まさにwin-winざんす!」
「だが───」
「ボクちんを殺しても、トツの王の承認が得られれば...。とかは考えても無駄ざんすよ?オウとトツは二人で一人の王。片方だけの意思で国の印は押せないざんす」
男はくるくると指で髭を触る。
「っ...」
「フレイア。私は、大丈夫だよ」
すると、リベラが起き上がった。浅い息をする彼女に、フレイアは眉を下げる。
「ですが───」
「王様。私の血、あげるね。...けど、約束は守ってね」
少女はその身を差し出した。




