─第3話 ニーエ─
一方その頃、リベラとフレイアは教会で少女達に囲まれていた。
「どこからきたの?」
「なまえは?」
香しい花を身に着けた少女達は、興味津々に二人の顔を覗く。
「えっと、私はリベラ。遠い国から来たの」
「フレイアと言います。ラランジから来ました」
かがみ込んで、フレイアは少女一人ひとりに目を合わせ微笑む。
「“わたしたち”はニーエ。よろしくね!」
「うん!」
「...?“私達”、とはどういうことでしょう」
手を取り合う少女達の言葉が引っかかったフレイアは、傍にいる少女に尋ねる。
「そのままのいみだよ。わたしも、あのこも。みんな“ニーエ”ってなまえなの」
「───」
両手を大きく広げ、背伸びをする少女。その一点の曇りもない瞳に、思わずフレイアは口をつむぐ。
「...どうしました?リベラさん」
ふと視線を逸らすと、顔色の悪いリベラの姿があった。
「ううん、なんでも、ない...」
明らかな作り笑みを浮かべるリベラは、お腹を押さえていた。フレイアは次いで声をかけようとしたが、少女達に妨げられてしまう。
「そうだ、だいじなことききわすれてた!」
「リベラ、フレイア、このくににはどうしてきたの?」
「この国の王様に会いに来たの」
リベラが答えると、少女達が目を輝かせて飛び跳ねる。
「そうなんだ!じゃあ、わたしたちがあんないしてあげるね!」
「助かります」
すると、一人の少女がどこからともなくやって来て、純白の衣類を手渡してきた。
「そのまえに、このふくをきないといけないの。おおきさはあってるかな?」
二人は広げて確認する。それは、仕立てられたばかりのような輝きを放つワンピースだった。
「はい。私は」
「うん、私も平気だよ」
「よかった!じゃあ、きがえたらおしえて!」
少女達が離れた後、板で作られた即席の更衣室でリベラとフレイアは着替え始める。
『この衣類は、ここのしきたりなのでしょうか...。何事もなければいいのですが』
フレイアはワンピースに袖を通しながら、一人眉をひそめた。
──────────
教会の裏口にある階段を降りていったその先には、可憐な少女達とは真逆の、狂気そのものがあった。
「これ、は───」
壁に打ち付けられた手枷、傍に落ちている黒く細長い布。瓶に詰められた蠢く何か。鞭のようなもの。少女が五人横になってもなお余るであろう大きさのベッドが、部屋の片隅に無造作に置かれていた。
「なに、これ...」
「リベラさん、今すぐここから離れましょう」
震えるリベラの手を取り、フレイアは駆け出そうとする。しかし、リベラは首を横に振った。
「ううん、それは出来ない」
「ですが───」
「そうだよ、フレイア。この“ぎしき”をのりこえないと、おうさまにあうことはできないんだよ」
「っ...」
これから何がここで起きるのか。想像もしたくない。けれど、王に会わなければ目的は達成できない。少女達に危害を加える訳にも行かない。どうすれば、どうしたらこの窮地を───。
「えっとね、ふたりにききたいことがあるんだ!」
フレイアの思考を妨げるように、少女は質問を投げかける。
「リベラとフレイアは、もう“紅月”はきた?」
「紅月...?」
険しい表情となったフレイアの一方で、リベラは首を傾げる。次の瞬間、荒い息をしながらリベラが膝をついた。
「リベラさん、しっかり!」
「お腹、痛いの...。ギュッてする感じで、立ってられない」
近くにあった手すりを力強く握り、しゃがみこむリベラ。その表情は、教会にいた時よりも更に悪化していた。そして、最悪のタイミングで“それ”は訪れる。
「あ───」
ぽた、ぽたり。リベラの脚をつたって、紅い雫が垂れた。
「ふふっ、よかった。ちょうどいいタイミングできてくれたね」
ニーエ達はニッコリと笑った。




