─第2話 決意─
“───しい──しい子よ───”
...声が、聞こえる。
“───ふふっ、よく寝てるわ───”
優しい、鈴の音のような声。柔らかく、温かな手。淡雪の如く美しい髪。...顔が思い出せない。誰だっただろうか、この人は。
“───この命を犠牲にしてでも、私は───”
紫色の瞳。...そうだ、思い出した。この人は私の。
“───やめて!この子には手を出さないで!ああ...!だめ、逃げて───”
私の、償うべき過去。
“───ごめんね。でも大丈夫よ。石になっても、あなたを守るから。...だから───”
何年前のことだろうか。母親を、この手で殺めてしまったのは。あの頃の自分は、まだ幼く。大人達に逆らうことなんて、できなかった。言いなりになるしかなかったのだ。───後悔、悲しみ、憎み。負の感情に支配された私は、その日から使えるようになっていた術で、檻から逃げた。...私をいいように利用した、全ての人間を殺してから。
「...私は」
人間が嫌いだ。...嫌いだった。けれど、今はその思いが揺らいでいる。
「...リベラを、助けるべきなのだろうか」
最初は、同情から始まるものだった。己の境遇と重ね、つい手をとってしまった。しかし、今日に至るまで寝食を共にしたためだろうか。気がつけば、親愛の情がわいていた。ヴィオラに対してもそうだ。利点が無いのにもかかわらず、親身になって接してくれている。
「...私は、今度こそ彼女達に真実を告げよう。信頼しよう。そのためにも...、助けるんだ」
───たとえ、この命を削る行為だとしても。