─第7話 代償─
「こちらに王がいらっしゃいます。くれぐれも粗相のないように」
側近に通されたのは、王の寝室だった。ベッドには、苦しそうに唸る老人が横たわっている。
「これは...。かなり進行してしまっているね」
頭部から下は、苔むした木へと化していた。辛うじて人型を保っているものの、もはや人間と言える状態ではない。
「そ、そなたは...?」
「そうだね、説明したいところだけれど。まずは病の治療からさせてほしい」
リベラ達が遠巻きに見守る中、サフィラスは王の額に手をあてる。
「げほっ、げほっ!...本当に、治せるのか...?」
眉間にシワを寄せながらも、か細い声で王は藁にもすがる思いで尋ねた。
「大丈夫、私を信じて。さあ、肩の力を抜いて瞼を閉じるんだ」
王は言われた通りに瞼を閉じる。そして彼の深呼吸が聞こえた後、サフィラスは術を紡ぎ始めた。
「───Erodom,erodom,inatagus.Ikebura───」
暖かな光が、王の身体を包み込む。すると、みるみるうちに枝が指になり、幹が胴体へと変化していった。
「───よし、もういいよ。指は動かせるかい?」
恐る恐る、王は指に力を入れる。そして目を見開くと、歓喜の声を上げた。
「...動く!ああ、紛うことなきワシの皮膚じゃ...!本当に、治ったというのか...!」
「───っ、げほっ」
ぽたり。絨毯に数滴の赤い液体が滴る。
「サフィラス!?」
「平気、だよ。これくらい、なんてこと───」
押さえた手の隙間から、生暖かい血が絶えず零れ落ちる。
「ちょっと、どう見ても大丈夫じゃないわよ!?」
「サフィラス様!」
駆け寄ってきた仲間の声が届かぬうちに、サフィラスは意識を失った。
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“サフィラス。術を安易に使ってはいけないよ”
父親が生きていた頃、耳にタコができるくらい聞かされた警告。あの頃の私は、その言葉の重さを理解できていなかった。
“我々は長寿だ。天命を全うすれば、千年は生きられるだろう。けれど、術を濫用した者はそうはいかない。術を行使した分だけ、生命が削られるんだ。お前にはその末路を辿ってほしくない”
...私は、今までに何度術を使ってきただろうか。現時点で、どのくらい生命が削られているのだろうか───。




