嵐と先生
先生は見たことがあるって言っていたけど、本当かどうか分からない。
そんなものがあるなんて私が読んできた本には書いてあったことがなかったから、半信半疑のまま目の前を歩く先生について行く。
「先生、まだ着かないんですか」
「あともう少しで見えるはずだ」
興奮気味に、先生はけもの道をまっすぐ進んでいく。私はこんな山道を歩くことになるなんて思ってなくて、スカートで来てしまっていた。晒された私の脛は木々の棘が刺さって、ちくちくと痛む。
「先生」
もう何度目かわからないが、私は先生を呼んだ。
その時、突然ざあっと雨が降り始める。あまりに急なことで私は驚いて、反射的に空を見上げた。
「これだよ、君に見せたかったのは!」
先生は嬉しそうに私を振り返って、半ば叫ぶように言った。
いつの間にかけもの道は開けていたようで、あたりには小さく、白色の美しい花々が咲き誇っていた。嵐は花々を散らし、雨を降らせる。雨が降っているのにも関わらず、空は晴れわたっていて、太陽の光が雨露と花弁を照らしている。
きらきらと光る世界に、私と先生はいた。
「どうだい、僕は嘘をつかないんだ」
綺麗な嵐というものはほんとうにあるんだよ、と自慢げに言って先生は大きく笑った。