彼らの仕事の一コマ1/3
暗い、暗い闇の中。
人工的な小さな光がひとつ、ふたつ、みっつ……。
よく見ると、それは数人のスーツ姿の男たちが持っているものが光をその場に提供しているようだと分かる。そこに、もうひとつ新たに光が近づいてくる。
数人の男の視線が全て集まっている、コートを着た一人の男に向かって。
「ボス」
走ってきたのはまたスーツの男性。おさえめの声ではあるが、投げ掛けた声は確かに中心の男へのものだ。そして呼び掛けられた男はというと。暗闇に、僅かな光。その色彩を浮かび上がらせていた。
音に反応しそちらを向き僅かに揺れるは、金色の髪。
「騒ぎが収束しました。辛うじて生け捕りに出来た奴が一人いますが……」
「持ってるのか」
その開かれる口から発されるは、感情の映されない声。
「いいえ。今のところ有益な情報は」
「なら、」
そしてその顔のパーツにおいて最も異質な存在感を示すは、その色彩に反して、
「消せ」
凍てつくような、目。
「分かりました」
◇◇◇
とある邸宅。
重い鉄柵門が開けられそこから黒い車が敷地内に入る。そのまま真っ直ぐ走った黒い車がやがて止まったのは邸宅の前。
車のドアが開かれ、そこから降りた男は邸宅内へと繋がる開けられた扉から中へと入る。
「お帰りなさいませ」
そこに広がる空間に待っていたのはただ一人の姿。多少デザインは異なるものの、男と色は同じく黒いスーツ姿の男性だ。
「セルジュそっちは片付いたか」
「はい全て」
男が肩にかけているファーの襟つきのコートを取りながらセルジュ、と呼ばれた男性は隙のない笑みを浮かべながら答える。
「恐れながら、ボスの方は」
「片付けた」
「そうですか」
コートの下から現れた男の服装は、黒いスーツ。同じく黒のネクタイ。そしてその下にはグレーのワイシャツ。といったものだ。
その手で軽くネクタイを緩めながら男は少しも止まらずに歩く。その靴音が響く、広い邸宅内は不自然なほど静かだ。
男が歩く通路に付けられた窓は暗い色のカーテンで覆われている。
男の後ろからはコートを腕にかけているセルジュが一定の距離で続く。
「明日に取引並びに検分がひとつ入っているとお聞きしました」
「……ああ、二週間前に持ちかけられたものだろう。小さなものだ」
やがてひとつの部屋に入った二人。
部屋に入るとテーブルとそれを挟んでソファが備え付けられている。
ドアから離れた方のソファに座った男にセルジュはコートをかけながら話を振る。その指されている件を思い出していたのか少し間を空けて男が応じる。
「ボスは」
「行くつもりだ」
元々用意していたのか、ワゴンに乗せたティーポットを取り上げティーカップに透き通った茶色の液体を注ぎ、カップを男の前の低いテーブルに音を立てずに置くセルジュ。
その言葉に繋げるようにして答える男は置かれたカップを持ち上げる。
「ボスが出向くことではないのでは?」
男の傍らに立ちながら、元から話題に挙げられている内容については把握しているセルジュが尋ねる。
「予定だ」
そんなセルジュに仕草で座るように促した男は、前のソファにセルジュが座るのを見ながらカップを置く。
コートを預かり、紅茶を入れるなどしているセルジュだが彼は使用人ではない。使用人は他に居り、また彼より年下である者などもいるが後で人払いをするならばこちらの方が効率がいい……という理由で今回のようになることが多い。もちろんセルジュが男といつも一緒にいるというわけではないのだが。
「明日の状態による。書類が片付かなければ行かない」
「そのときはテオに全て任せて行かせる」と脚を組みながら淡々と言葉を補足する男。
「『表』をお前だけに任せるわけにはいかないからな」
「それは恐縮です」
言葉を受けたセルジュの顔には隙のない笑み。対する男には表情といえるものはない。
「明日外に出られるのであれば、コートを厚めのものにしておきます。明日は寒くなるようですから」
セルジュが向き合う男の目が光に照らされて一瞬だけ鮮やかにその色を見せた。