唐突な告白と彼
「う、うわああああ!?た、竹本!?」
「お、おう、竹本だけど…お、おはよう梅田」
「あ、ああ、ごめ…おはよう」
久しぶりに朝早くに目覚めてしまったので、ちょっと早めに家を出てみた。普段より30分も早い通学路は少しばかり人通りが違って、いつもと違う道のように感じたのも、早起きは三文の徳ってやつかな~と、呑気に俺は教室の扉を開けると。
驚いた。
先客がいたということよりも、その声に驚いた。
その先客は、俺の隣の席のイケメン、梅田真である。
そう、俺となぜか昨日初めて会話をし、さらには一緒に下校、という謎の友好を深めたイケメンな彼だ。
昨日から梅田の印象は、俺の中で「イケメン」から「ちょっと変わったイケメン」に昇格?した。修飾語がついただけ変化はあると思う。
絶対誰も教室にいないだろ、一番のりじゃん~とか思っていた俺は、思いっきりドアを音をたたて開けてしまったために、イケメンかつちょっと変わった彼を驚かせてしまったんだろう。申し訳ないことをした。
昨日に引き続き、若干挙動不審なイケメンの隣の席が俺の席なので、広い教室で横同士に座ることになる。
別に大して気にもしないのだが…無言もなんだかアレなので、とりあえずさっきのことを謝っておくことにした。
「なあ、」
「へ?!な、なに?」
「さっきごめんな、でかい音だしちゃって。びっくりした?」
「え、いや、全然!大丈夫だし」
「え、でもめっちゃおっきい声出してたのは…音にびっくりしたからだろ?」
「いや…ちが…わないな、そうだな!」
「…」
やっぱこいつ相当変わってるかも。
俺が急に話しかけるたびにびくびくしているような気がする。しかも言ってることちょっと分かんないぞ?イケメン語とかそういう系なのか?
でもきっとイイ奴なんだろうな。なんとなーくだけど、そう思う。
「そっか。それならいいけど」
「あ、ああ…あ!あのさ、」
「ん?」
「!ちょ、やっ、…」
「や?」
梅田は何かを言いかけたみたいなので、次にどんなことを言うのかじっと彼を見つめて待っていると、単語みたいなことを言って…なぜか顔を赤くして慌てだした。
こいつ、本格的に大丈夫だろうか。ちょっと心配になってくる。
「梅田、大丈夫か?」
イケメンな梅田の顔を覗き込んで、顔色をうかがう。体調が悪いのか?
昨日の帰りだって、今日ほど喋ってはいなかった。だから、普段と違うー、とかが分からないので、今の彼を観察することしかできない。
彼は俺が下から覗き込むと、思いっきり顔を逸らしてOKサインだけ俺の方に向けてきた。きっと大丈夫なんだろう…たぶん。
「お、おう、大丈夫…ただ、竹本が…っ」
「俺が、何?」
「あ、…あー…その、やばいってこと」
「は?」
はあ?俺の何がどうやばいんだよ。
むしろさっきから不審度120%振り切れているお前の方がやばいよ。と忠告してあげたいが、そこまではさすがに昨日今日のクラスメイトに言われたくはないだろう。俺は口をチャックしておく。
「あ! いや、今のは褒めてる!褒めてるから!」
「…ぶっ、なんでそんな焦ってるんだよ、お前面白いなぁ」
「え、…そうだよな、俺落ち着けって話だよな…!ごめん!」
驚くほど自然に話せている俺に、ちょっと驚いた。梅田はなんだかもっとクールで、さわやかなイケメンなんだと思ったけれど、結構話しやすいし、話せば普通に面白い。ただし超イケメンであることには変わりないけど。そして俺が平凡であることには変わりないけど、当たり前だな。
「もー、謝るなって。お前俺に謝るようなことしてねーじゃん」
「そ、そうか…ごめ…いや、何でもない」
「ぶっ!あっはっはっ!!梅田まじやばいって!面白い!」
また謝罪を繰り返そうとした彼を見て、俺は思い切り笑ってしまった。あまりに面白くて、涙を浮かべて笑っていた。
ひとしきり笑った後、梅田を見てみると、机に突っ伏していた。あれ、これ昨日も見た光景かな、気のせいだろうか。
てかさすがに笑いすぎたかも。ちょっと悪い気になった。
「梅田…?気悪くしたならごめん…ちょっと笑いすぎたよな」
「い、いや、そんなことない!」
梅田はバッと飛び起きると、なぜか俺の手を握って全力で否定した。そうか、ならよかったけど。けど、…
「なんで、手握ってんの…」
「え?!あ!!!!!」
なんと。無意識だったのだろうか。これもイケメンスキルなんだろうなーと俺は感心してしまう。梅田みたいな男に手を握られれば女の子は何言われても頷くだろう。
梅田は俺の指摘に顔を紅くした。…けれど、なぜか手を離そうとはしない。
…なんで?
「…梅田?」
この手はなんだ、と若干の視線を送ってみるも、俯いて何かを呟いている梅田には届かないらしい。
「あのー…?」
応答がない。ただのしかばねのようだ。
…じゃなくて! ちょっと、なんか俺手汗とかかいちゃうから早く離してほしいなーとかちょっと思ったり。
そんなことを考えていると、急に梅田がその綺麗な顔をあげてとんでも発言をした。
「お友達から、お願いします!」
「…はぁぁ?!」