ファーストコンタクト
俺の隣の席のイケメンはほとんどと言っていいほど寝ている。一番後ろのドセンターは、まあ、先生の教卓と被って見えにくいのは当たり前だろう。けれど、こいつの属性を今一度言おう。イケメン、だ。 イケメンはどこにいても目立つ、というのは この世の中の真理である。つまり寝ててもオミトオシなんだよ、ってこと。
ぎろりと睨みをきかせる教師とは打って変わって、隣の席のイケメンはご丁寧に寝息まで立てて熟睡中だ。
「竹本、お前、梅田を起こしてやれ」
「…はい」
うわ、まさか俺にそのお役目が回ってくるな んて。予想はしてたけど。だってイケメンく んの隣、俺とは反対側の子は思い切りヤンキ ーで、その彼も寝ているから。ヤンキーくん は起こさなくていいのかと突っ込みたいが、 じゃあお前ヤンキー君も起こせ、と言われた ら嫌なのでそこは口をつぐんでおく。
まあ、俺がイケメンを起こすことも微妙と言 えば微妙である。 正直隣の席のイケメンとは一度も話したこと がないからだ。
入学して早3か月とちょっと。季節は過ぎ去り 、梅雨も超えて暑い暑い夏真っ盛りである。 だが、俺は隣の席のイケメンとは話したこと がなかった。それは俺が根暗だとか引きこも りだとか、そういうことではない。 いわば俺が平凡で、奴が非凡なだけなのであ る。 平凡な俺は必然的に平凡なグループのやつら とつるんでいたし、奴はそれこそ華やかなグ ループの男女とつるんでいた。そう、男女、 だ。ここ重要ね。 所詮イケメンは女の子に人気があって女友達 も彼女も選びたい放題なのだろう。俺には知 りえない世界なのだ
おっと本題が逸れた。決して俺が僻んでると かそういうことではない。俺は俺なりに楽し んでやってるし、ああいうイケメンにも悩み とかあるだろう。女の子に付きまとわれて大 変ーとか。うわ、贅沢な悩みだな、うらやま しい…とかちょっと思ってしまったあたり恥ず かしい。
先生の起こせ、という視線が俺を突き刺して やまないので、俺はゆっくりと彼を起こすことにした。