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第34話:近未来のMー1G そのななっ

「くそぅ…、琴音のやつ、思いっきりぶん投げやがって…」


まだ痛みの残る顔を押さえながら俺は通路をとぼどぼと一人、歩いていた。


…さようなら、か。


西園寺が去り際に呟いたその一言が妙に頭の中に引っ掛かる。


その全てを察したかのような、そして失望したかのようなその表情もだ。


「だから…ガキなんだよ」


別に俺は間違った事を言ったつもりは無い、それは今、こんな状況になってもその考えは変わらなかった。


単純に空気を読んでれば良いだけの話しだ、あの場で西園寺と琴音が知り合い同士だと知られるのは西園寺に影響が出るのは事実なんだし。


だから単純に、そこら辺は割り切って二人で仲良くすれば良いのだ、時と場所さえ考えればどんだけ百合百合してても誰も文句は無いだろうに。


つまり…、俺は悪くない、うん、そう考えるともやもやとした気持ちも晴れてくるものだ。


「………」


…もやもや?なぜ俺はこうももやもやしてるのだろう?


「…タバコ吸いてぇな」


そうだ、さっきから歩けど歩けど一向に喫煙スペースらしき場所が見付からない。


部屋で吸えればなんの問題も無かったんだが…、部屋を追い出されたのでタバコが吸えない、まさか通路で吸うわけにはいかんし。


おいおい、建物全部禁煙とか言うんじゃないだろうな…、これだけ歩いて喫煙スペースが見付からないって事はそれも有り得るぞ。


「つーか…」


これ、もしかして迷ってる?ここどこだ?


「…建物広すぎなんだよ」


もしくは立て看板とか標識と用意しておけよ、【喫煙スペース、この先】みたいな。


吸えないイライラからいい加減口元が寂しくなってくる、そういえば、と琴音が投げつけて来た鞄を開けた。


中には家の商品である駄菓子が詰め込んである、よくまぁ…、わざわざ持ってきたものだ。


「まっ…、無いよかマシか」


ゴゾゴゾとこの口寂しさをなんとか出来そうな駄菓子屋を探してみる、飴とかあればいいけど。


「…む」


見つけたのは【ホイッスルラムネ】という歯が強調されたウサギだがリスだかのキャラクターがパッケージの物だ。


「ホイッスル…、笛?」


少し興味が湧いたので早速袋を開けて口に入れて食べてみる。


パリポリポリ、普通のラムネだった。


「ふむ…?普通のラムネじゃないのか?」


ここで琴音でも入ればホイッスルラムネの所載でも聞いとく所だけど…、たまには自分で考えてみるか。


ホイッスルラムネは丸い形の中央に五円玉のような穴が空いてるラムネだ、恐らくこの真ん中の穴を使うのだろう。


笛っぽくラムネを口にクワエテ丸穴の所を吹いてみる。


~~~♪


予想通り、ホイッスルっぽい音色が通路に響いた。


「おぉ!?」


予想の適中にもテンションが上がりそのままホイッスルラムネを吹きながらテクテクと再び喫煙スペースを探すべく、歩いていく。


ピッピッ


テクテク…


ピッピッ


テクテク


…ふと我に変えってみると物凄く馬鹿なんじゃないか、この姿。


でもまぁ…、こうして笛鳴らして歩いてたら誰かに会えるだろうし、その人に喫煙スペースの場所も聞けるしな。


ピーッ、ピッ


『やい、そこのお前』


ほら来た、またしても俺の予想通りだ。


どや顔でその声のした方を見ると俺の予想はある意味で裏切られた。


「………」


『お前だ、お前に話しかけてんだから無視すんなよコノヤロー』


そこに居たのは…少女だった、それも歳でいえば日向と同じくらいの幼女だ。


当然、喫煙スペースの場所なんて知らないだろうが…、それよりも気になるのはその少女の容姿だ。


その顔は俺がついさっきまで考えていた少女、西園寺と、そしてその姉とよく似ていた。


姉の西園寺 彩がビック西園寺ならばこちらはミニマム西園寺だ。


だが…まぁ、そんな事はこの際大した問題じゃない。


『なんだ?さっきから星の顔ジロジロ見て、ロリコンかテメー』


問題はこの少女、さっきから一言も言葉を発して居ないのだ。


ならばこの声、誰が発して居るのかと問われれば俺の目の前の少女である。


ん?何を言ってるんだって?いや、俺も何言ってんだろうって思ってんだけどさ、この少女、両手に人形を付けてるのだ。


右手に男の子、左手に女の子のパペットを付けている。


それを腹話術というのか、さっきから喋っている口の悪いのはその少女の右手の男の子の人形だった。


「………」


は、反応にすげぇ困るな…、これ。


『星はお前に聞きたい事があるんだぞ、ちゃんと答えろ』


『ヘンゼル、この人困ってるよ、ちゃんと説明しないと』


騒がしい右手の男の子を左手の女の子の人形が宥める、その後も俺の目の前で男の子と女の子の会話が繰り広げられている。


んで、肝心の持ち主である真ん中の少女だが…、両手の人形に喋らせるだけ喋らせているが本人は一切喋らない。


そもそも、感情豊かに見える両手の人形に対して、少女の表情は完全に無表情で一切変わらない。


はっきり言って変な少女だ、少女だからまだ絵になるがこれがおっさんなら確実に変質者だろう。


「えと…、迷子、か?」


そんな少女がこの通路のど真ん中に居るのだ、まず最初に出てくる疑問はそこだろう。


この大会に参加してるどこぞの金持ちの子供だろうか…、無用心だな。


『自分家で迷子になるかよ、馬鹿じゃねーの』


「…は?自分家?」


って事はこのガキ、この建物の研究者の子供だったりするのだろうか。


「…迷子じゃないなら心配いらねーな、知らない人に無闇に声をかけちゃいけないって親に教わらなかったのか?」


だったら心配する必要は無さそうだ、ならこんな変なガキには関わらない方が良いだろうし。


「んじゃ、ロリコンに気を付けろよ~」


手を振ってテクテクと歩きながら再びホイッスルラムネをピーッと吹いた。


『おい、待てよ、コラッ!!』


「!?」


急に首根っこを掴まれると物凄い力で引っ張られる。


「え?え?」


慌てて後ろを振り向くと俺の首根っこを男の子の人形が掴んでいる。


ただ、その持ち主である少女はその場から動いて居ない、右手の男の子の人形が俺の首根っこまで伸びているのだ。


何この謎技術!?


『何逃げようとしてんだ?コラッ!?』


「…知らないガキに無闇に声をかけちゃいけないって親に教わってるんで」


あと警察にも。


『ヘンゼルが迷惑をかけてすみません、少し質問に答えて欲しいだけなんです』


俺が男の子の人形を睨んでいると女の子の人形が声をかけてくる。


男の子と違って女の子の方の人形は穏やかな性格のようだ、と言っても今だ喋らない真ん中の少女の腹話術なんだが。


「質問…?」


『はい、どうして笛も無いのに笛の音が鳴らせるのか、星が気になったようで』


あぁ…、ホイッスルラムネの事か?こんな物に興味を持つとか変なガキだが、年相応だな。


「えと…、ほれ、この駄菓子屋だ」


鞄からホイッスルラムネを取り出すと少女に渡…そうと思ったんだけど、両手に人形を付けた少女にどうやって渡そうか…。


とか考えてると少女は口を大きくあんと開けた。


「…?」


手も伸ばさず、ただ口だけ開ける少女に俺は首を傾げる。


『おい、星が待ってんだろー、さっさと食べさせろよなー』


俺のその疑問に答えたのは目の前の少女ではなく、彼女の右手の男の子だ。


何?食べさせろとか言うの?本当に変なガキだ。


俺はホイッスルラムネの袋を開くとホイッスルラムネを取り出す、それを少女に向けて。


「ほれ」


ひょいっと放り投げた。


「!?」


慌てて口を動かして放り投げたホイッスルラムネを食べようとする少女だが、ホイッスルラムネは少女の額にペチリと当たる。


そのままポロリと落ちようとするホイッスルラムネを少女の右手の人形が伸びてキャッチした、便利だなー、それ。


『テメー、何すんだ!!』


『イジワルです…』


両手の人形と共に少女もジッと恨むように俺を見ている、おー、やっと表情変えたな。


「良いから、こいつをこうやって口に加えてみ」


俺は少女と人形の抗議を無視して先程と同じように口に加える。


少女も同じように口に加えたのを確認してピーッと笛を鳴らした。


「!?」


少女は驚いた顔をし、彼女も直ぐにホイッスルラムネを鳴らした。


ピーーーーーーーーーーーッ!!


思いっきり吹いたお陰でめっちゃ煩い…。


ピーーーーーーーーーーーーーッ!!


「あぁ…、もういい、わかったから、ほれ、そんなに気に入ったんならやるよ」


俺は上機嫌にホイッスルラムネを吹き続ける少女に鞄の中のホイッスルラムネを渡す。


「だからもう吹くなよ、うるさいから」


さっきまで自分も吹いてたのを棚に上げておいて、少女に注意した。


ピーッ。


少女はホイッスルラムネのわかった、とでも言うように短く吹く、いや、わかってねーだろ。


さて…、どうしたもんかなと考えてると前方に一人の男がこちらに向けて歩いているのが見えた。


「…おや、こちらに居ましたか?星様」


その人物こそ、先程、開会式にて挨拶をしていた爽やかなイケメンだけどおっぱい魔神であろう、東雲 道哉だ。


「どこからか笛の音が聞こえて来てみれば…、また勝手に抜け出したのですか?」


話しを聞くにどうやらこのおっぱい魔神もホイッスルラムネの音に釣られたらしい、目の前の少女と良い、ホイッスルラムネの連鎖すげーな。


『うるせー東雲、退屈なんだよー』


「過激派ロボコンのテロリストの情報がありますので、これくらい我慢して下さい」


文句を言う男の子の人形に対しても東雲は馴れた対応だ、このおっぱい魔神は新形メイドロボの開発者らしいし、少女がこの建物に住んでるのは間違い無さそうだな。


しかし…過激派ロボコンテロリストね、ここでもその話しが出てくるとは。


「おや、あなたは…?」


おっぱい魔神が俺に気付いて声をかけてくる、不味いなー、誤解されんじゃないか、これ?


「えと…、怪しい者じゃ無いんだが」


はい、どう見ても怪しいですよねー、こんな通路で少さいガキと二人切りでホイッスルラムネピーピーやってたんだもん。


『この人は悪い人ではありません、ちょっと星と遊んで貰っただけです』


なんか上手い言い訳でも無いかと考えてたら少女の左手の女の子の人形がそう答えてくれた。


しかし何だな…、知り合いの前でも会話はあの人形を使うのか、本当におかしなガキだ。


「…そうですか、星様がご迷惑をかけたようで」


ペコリと軽く頭を下げるとおっぱい魔神は爽やかに微笑む。


「…いや、まぁ」


もう少し大事になるかとも思っていたので何だか肩透かしをくらった気分だ、まぁいいけど。


『やい、お前、名前はなんだー?俺様はヘンゼルだー』


『私はグレーテルです、よろしくお願いします』


少女は無言のまま両手の人形を俺に向けてつき出してくる。


「よ、よろしく、高屋敷 翼だ」


…何故俺は人形相手に挨拶を交わしてるのだろう、つーか人形の前に自分の名を名乗れよ。


『よし、翼!この礼は後でちゃんとしてやっかんなー、有り難く思えよな』


少女はヘンゼルと自己紹介をした男の子の人形を器用に動かし、テクテクと歩いて言った。


「………」


「驚かれましたか?」


何だかどっと疲れた…、呆然としていると東雲が声をかけてくる。


「驚いた…つーか、何?あのガキ、変わり者過ぎるだろ」


「彼女は…、おっと、すいません、私の立場上詳しく話す訳にはいきませんので」


「はぁ…」


なんだろうか…、どうにも納得はいかんが、西園寺コンツェルンにも色々あるのだろう、深くは関わらん事にする。


「ところで、あなたは確か大会の参加者でしたね、どうしてこんな所に?」


「ん?あ、そうだった…、タバコ吸える所探してたら迷い混んだ」


あまりの妙な出合いに当初の予定を忘れる所だった、俺はおっぱい魔神にタバコの吸える所を聞いてみる。


「あぁ、それなら…」


おっぱい魔神東雲から喫煙スペースの場所を聞く、ふぅ…、ようやく一息つける。


お礼ねぇ…、まぁ、もう会うことも無さそうだけど。
























ーーー


ーー



「ふぅ…」


ようやっとたどり着いた喫煙スペースでタバコに火を灯して一息入れる。


ニコチンをしっかり脳にまで巡回させ、多少は気持ちも落ち着いた。


さて…、どうしたもんかな。


現状、琴音と西園寺の関係はかなり危うい。


俺達からすれば一応は西園寺の為を考えての行動だったのだが、西園寺からすれば琴音から無関係と宣言されたようなものだ。


もしこのまま西園寺がうちの駄菓子屋に来なくなってでもしたら…、もともと、俺達庶民から西園寺に出会う手段は持ち合わせていない。


西園寺本人がうちの駄菓子屋に来なくなれば…自然消滅も充分に考えられるのだ。


「俺が余計な事言わなければ良かったのか…?」


そこまで悪い事だとは思っていなあ、が、この状況を作ったのは誰だと問われれば俺になる。


「はぁ…」


タバコ吸いながら考えをまとめていると喫煙スペースに一人の女が入ってきた。


「邪魔するよ、あぁ…、そこの人、何か火を貸してくれ」


「あん?」


考え事をしていてイライラしていたのもあり、普段の俺なら絶対に火なんぞ貸さなかっただろうが、その人物を見るなり、素直にライターを差し出した。


「すまないね」


シュボッとライターでタバコに火を灯すと女は俺にライターを返してくる。


「…少し無用心じゃないか?お供も連れずに」


「そりゃ連れてなんかられんさ、逃げて来たからね」


俺のその問いにその女…、西園寺 彩はニヤリと微笑んで答える。


「少し、話しをしてみたかったのだよ、君、高屋敷 翼とね」


本当に…今日は妙な出合いが多い日だ。

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