第33話:近未来のMー1G そのろくっ
長編らしい怒濤の新キャララッシュ、皆さんがキチンと覚えてくれるか心配になったりします…。
さて、長ったらしい開会式もようやく終わって立食パーティーの始まりである。
正直俺からすれば大会なんてどうでも良いのだ、どーせうちのポンコツが他のメイドロボに勝てる訳無いだろうし。
そりゃメイドロボを手放すのは惜しいといえば惜しいが、そもそも俺には過ぎた物だ、さくらもうちよりもっと金持ちの家で漬け物つけてた方が幸せだろう、金持ちが漬け物つけるか知らんけど。
「そこの庶民」
そんな訳で俺からすればこのパーティーの料理がメインなのだ、普段食えない豪華な料理がテーブルに並んでいる、早速頂こうか。
「…聞こえなかったの?あなたよ、あなた」
「よし琴音、今日は腹いっぱいになるまで食うぞ」
「え?あ…、はい」
俺は困惑する琴音の手を引っ張ってテーブルに向かう、テーブルには豪華な料理だけでなく、普段は口にする事も出来ないような高価な酒が並んでいた。
「あ!ち、ちょっと…あなた!聞いてませんの?」
「…しまったな、酒があるなら車で来るんじゃなかったわ」
「これから大会なのにお酒飲むつもりですか?…っていうか店長、さっきからずっと声かけられてますけど」
琴音がジトーとした目を俺に向けてくる、はっはっは、何をいきなり、変な事言う子だな君は。
「気のせいだろ」
「気のせいではございませんわ!!」
「………」
俺の背後で見知らぬ金髪つり目のお嬢様が両手をぐっと強く握り、叫んでいた。
歳は琴音や西園寺と同じくらいだろうか、ずっと無視され続けていたせいか涙目である。
「さて、琴音、何から食べる?最初から飛ばしすぎるとすぐに満腹になっちまうぞ」
「この期に及んでまだスルー!?」
「店長…、さすがにちょっと可哀想じゃ」
えー…、だって金髪だぞ、つり目お嬢様だぞ、開口一番に人を庶民呼ばわりだぞ。
関わると絶対メンドクサイタイプだぞ。
「全く…、庶民の分際でこの私の呼び掛けに無視するなんて」
「いや…、俺達に声をかけて来てるとは思わんかった、この場に俺達の知り合いなんて居ないし、何?あんた俺達の知り合い?どっかで会ったっけ?」
「馬鹿にしないで下さる?この私が庶民風情と知り合いなんてある訳無いでしょう?」
「そうか、だったらこうやって話してる必要も無いよな?」
「え?えぇ…、確かにそうね…」
…納得しちゃうのかよ、こいつたぶんチョロいぞ。
「そんじゃ、もう行っていいか?庶民はここで空腹を満たさねば今後の生活にも関わるんだ」
「…なんだかよくわかりませんが庶民も大変なのですね、良いパーティーを」
しかも応援された、チョロい。
「…って、違いますわ!何故私が庶民を応援しなければならないのですの?」
「いや、そっちが勝手に応援してきたんだろ…、んで、何の用だ?」
これ以上付きまとわれても面倒なので用件があるならさっさと終わらせて欲しいものである。
「用も何も…、このパーティーはあなた達のような庶民の来ていい場所ではありませんわ、何故あなた達がここに居るの?」
「俺達だって大会に出るんだよ、ほら、そこにいる和風のメイドロボ、あれが俺達のだ、つーかよく俺達が庶民だってわかったな」
俺も琴音もさくらも色々とおかしな部分はあるが一応はパーティー用の正装だ、まぁ着なれてはいないが。
「あなた達の溢れる出る庶民オーラを見れば1発でわかりますわ」
「なんだよ…庶民オーラって」
「とにかく…、あなた達のような庶民が第三世代のメイドロボまで連れてこのパーティーに参加してるのはどう考えても不自然ですわ、過激派のロボコンのテロの噂もありますし、あなた達が怪しいんですの」
全く…、さっきの警備員といい、そんなに俺達が怪しいのかね、怪しいよね。
しかし…、さて、どう説明したものか。
こいつの誤解を解くのは簡単だ、西園寺との関係を素直に言えば良い。
だがそうすると必然的に西園寺の立場を危うくする可能性もある、なんたって目の前のこいつはそうとう庶民に偏見を持ってそうだ。
「誰か研究所に知り合いでも居ますの?まさかそのメイドロボ…盗んだんじゃ」
「ち、違いますよ…、私達は」
琴音が言いかかった言葉を慌てて引っ込めた、先程の俺の警告が効いているのか。
「盗んだ訳無いだろ…、だいたいこの大会は招待状が無きゃ参加出来ないだろうが」
「とすればやはり誰かに招待されたのですね…、しかし、あなた達のような庶民を招待する物好きが居るとは思えないのですが」
それが居るんですよねぇ…、しかも運営側の最高責任者の一人に。
「…知り合いなんて、居ませんよ」
琴音が苦虫を踏みつけたかのような辛い表情を見せる。
「そんなはずは…」
『お嬢様、こんな所に居たのですか?』
「メイ?」
俺達のこの問答は周りの注目も集めており、気付けば一人、いや、一体のメイドロボが俺達に声をかけていた。
「…お前は?」
『失礼しました、霧ヶ峰お嬢様のメイドロボ、メイと申します』
メイと名乗ったメイドロボは物腰柔らかに礼儀正しくペコリと頭を下げてくる。
「…霧ヶ峰?」
言われて金髪お嬢様の方を見た、そういえばこいつの名前を全然知らなかった、別に興味も無いんだが。
「私の事よ、霧ヶ峰 美祢、本来、あなた達のような庶民に名乗る義務もありませんが」
興味も無いんだが、金髪お嬢様は勝手に偉そうに自己紹介を始めた、なんだか涼しそうな名字だ。
『お嬢様、このパーティーに出席している以上は彼等は西園寺コンツェルンの客人です、無礼な行いは慎んで下さい』
偉そうにふんぞり返るお嬢様をメイドロボがいさめる、なんだ、持ち主とは違ってずいぶんとまともそうじゃないか。
「な!だ、だってあきらかに怪しいじゃないですの?庶民がメイドロボを連れてこのパーティーに参加してるのは…」
『お嬢様』
「う、うぅ…」
霧ヶ峰のメイドロボ、メイの威圧感のある一言に霧ヶ峰のお嬢さんも言葉に詰まったのか、押し黙る。
『…あなた達のお名前を伺っても?』
その間にメイは俺と琴音の方を振り返り、名前を聞いてくる。
「高屋敷 翼だ」
「朝河 琴音です」
『では高屋敷様、朝河様、改めてお嬢様が御無礼を働き、真に申し訳ありませんでした』
再度ペコリと、本当に申し訳なさそうに頭を大きく下げてくる。
「おいおい…、ペットとかは飼い主に似るとか言うがこれは別物だな、持ち主はアレだが良く出来たメイドロボだ」
『ま、持ち主はメイドロボを選べますが、メイドロボは持ち主を選べませんですから』
感嘆して思わず出てきた言葉に我が家のメイドロボであるさくらが言葉を返してくる。
『持ち主はメイドロボを選べますがメイドロボは持ち主を選べませんですから』
「おい、何で二回言った?何で二回目俺の顔見て言った?」
『失礼しましたです、伝わってないかと思って』
「そこは普通、聞こえてなかった、とか言うんじゃないか?」
『エラーですね』
「エラー万能すぎんだろ…」
「ちょっと!何をこそこそやっているのですの?私はまだ納得していませんわ!!」
全くいい加減しつこいお嬢様だ…、しかし、どうやってこのお嬢様を納得させたものか。
思案する俺は目の前にいる、こちらに向けて歩いて来ている人物に気付かなかった。。
「…あ」
琴音も気付いたのか、小さくそれだけ言葉に出していた、その人物は西園寺 翠だった
「これは…何の騒ぎですか?」
しまったな…、ちょっと騒ぎ過ぎたか。
「久し振りね…翠、いいえ!私のライバル!!」
現れた西園寺に向けて霧ヶ峰は敵意剥き出しな表情で睨む、えぇっと…、君ら知り合いだったの?
「あら霧ヶ峰さん、こんにちは、せっかくのパーティーに無粋な行いをする者が居ると聞いて来たんですけど…、まさかあなたでは無いですよね?」
西園寺は声こそ落ち着いているものの、その言葉は中々に刺々しい。
怒っているのか…?もしくは霧ヶ峰に個人的な感情でもあるのだろうか?
「え?えと…、その」
まさかこの騒ぎの中心人物であろう霧ヶ峰は言葉に詰まり、視線をあちこちに動かしている。
「そ、そう!そこの庶民、彼等が怪しかったから私は…、この場に彼等のような庶民が居るのがおかしいですわ!!」
げっ…、俺達に火種を向けて来やがった。
「あぁ…、その人達はーーー」
「しかもこの人達、この場に知り合いなんて一人も居ないと言うのですよ!誰がどう見たって怪しいでしょう、過激派ロボコングループの一味の可能性が高いですわ」
「ーーー、…知り合いが居ない?」
西園寺の表情が怪訝なものに変わる。
「えぇ、誰にも招待されてないのにこの場所に居るのは不自然ではありませんが?」
霧ヶ峰の言葉に西園寺がチラリと俺と琴音を見た。
琴音は気まずそうにその視線から顔をそらす、俺は…、どんな顔をしていただろうか。
「…なるほど、そういう事ですか」
やがて西園寺は小さな溜め息をつくと俺達の方を見向きもせず、霧ヶ峰に向き合った。
「彼等は一般応募によって選ばれた人達で怪しい者ではありません」
「…一般応募?そんな話し聞いてませんわ」
「この大会の主旨は様々な環境で育ったメイドロボの成長を見るものです、彼等のような人達のデータも必要なのです」
「…な、なるほど、そういう事でしたの」
霧ヶ峰の方はそれで納得したのか、俺達の方を向き、頭を下げてきた。
「そうとは知らず、申し訳ありませんでした、これまでの非礼をお詫びしますわ」
「お、おぅ…」
何だ、急に礼儀正しくなりやがったぞ…。
結局、こいつのあの態度は俺達を怪しんでたから…なのか?
「ですが!大会で当たる事があれば容赦はしませんわ!まぁあなた達庶民では私と戦う前に負けるとは思いますけど」
…気のせいだったわ、うん。
散々騒がしていきやがった霧ヶ峰はメイドロボのメイを連れて高笑いしつつどこかに行った。
「………」
残された俺と琴音、そしてさっきからずっとこちらも見ようとしない西園寺だ。
「あ、あの…翠ちゃん…」
「…何かご用ですか?」
言葉に詰まらせながら声をかける琴音に、西園寺はまるで初めて会ったかのような声色で答えた。
「え?えと…、その…」
「用がないなら私はもう行きます、…さようなら」
「あ…」
さようなら、そう言って俺達に背を向ける西園寺の背中に琴音は思わず、小さく手を伸ばす。
だけど…、その手は西園寺に届くことなく、彼女はそれきり振り返りはしなかった。
ーーー
ーー
ー
「うぅうっ!バカバカ!店長のバカーーー!!」
「って、お、落ち着け琴音、物を投げるな!!」
大会の参加者にはなんと豪勢な事に一部屋ずつ用意されたいた。
いたんだけど…、俺は今現在、部屋に入れない状況が続いている。
「店長は馬鹿です!翠ちゃん、絶対起こってましたよ!私、嫌われちゃったかも知れません!!」
琴音が部屋に陣取っており、涙を浮かべながらも俺が入ろうとすればそこいらの物を投げつけてくる。
まぁ割れ物とか怪我しそうな物は投げてこないけどさ、それでも俺が入れないじゃん…。
「ま、待て…、だから落ち着けって、ひとまず…だ」
「…ひとまず?」
俺の言葉に琴音が物を投げつけようとするモーションをピタリと止めた。
「…タバコ吸いたいんだけど、部屋に灰皿ある?」
「!?」
ぶんっと投げつけられたそれは今まで投げてきたものとは違って俺の顔にクリーンヒットした、すこぶる痛い。
見ると琴音がこのパーティーに持ってきていた駄菓子詰め合わせの鞄だった。
「どうぞ!その中に入れましたから!どこででも行って吸ってきて下さい!!」
結論、自分の部屋なのに追い出されました。