第31話:近未来のMー1G そのよんっ
「………」
『………』
さて、西園寺重工からメイドロボを引き取り、一度我が家である駄菓子屋に戻ってきたは良いものの、Mー1Gまではもう余り時間も無い。
それなのに、琴音の奴が一向に部屋から出てくる様子が無いのである。
流石に西園寺コンツェルン主催のパーティーがあるのでは普段の服装で行くわけにはいかず、西園寺から事前に琴音にドレスが送られていたのだが、それに着替えて来ると言った琴音はそれ以来、戻って来ない。
まぁ慣れないドレスとか着るのにも時間がかかるもんなんだろうか、俺?適当に昔着てたスーツを引っ張り出してきただけだけど。
「しかし…遅ぇな」
『いえいえ、女の子の準備にはこれくらいかかるものなのですよ』
独り言のつもりで愚痴った俺に横に居る、西園寺重工から引き取ったばかりのメイドロボが答えた。
金が無い俺達には身長も胸のデカさもいじる事が出来なかった、無課金アバターと言えるそのメイドロボは身長はデフォルトの140㎝くらい、日本人形を思わせるおかっぱの黒い髪の少女…、いや、うん…、幼女だ。
言っておくがこれは俺の趣味では無い、金が無いのでもうメイドロボの設定を琴音に丸投げしたので全ては琴音のチョイスである、まぁ…可愛らしく出来てるとは思うよ。
最大の特徴としては他のメイドロボとは服装が違う、他のメイドロボはそれ、西洋風の俺も良くイメージ出来るメイド服なのだが、このメイドロボは着物に割烹着を着ている、和服のメイドと言えるのか。
琴音曰く、テーマは大正ロマン、大正とは…、これまた大昔の年号を持ち出したものだ、まぁ店の雰囲気にはこの方が合ってるかもしれんが。
しかし…、琴音が居ないので今現在このメイドロボと二人っきりな状況の訳だが、これがなかなか居心地の悪いものである。
メイドロボのマスターになったとはいえ、まだ初日、会って間もないメイドロボと二人っきりというのも…。
「なんならお前も琴音の手伝いに行ってやったらどうだ?あいつ、あぁいうドレスとか着るの慣れてないだろうし」
遠回しにこいつの存在を琴音に押し付けようと提案してみる。
『何をおっしゃる、琴音様は私の大事なマスターの一人です、ならば琴音様の着替えを守るのも私の使命じゃないですか?』
「何?ひょっとして覗きとか警戒してんのか?安心しろ、この家には人間は琴音以外には俺だけだ」
『はい、ですから今こうしてアスターの事を見張っていますです』
「………」
笑顔でそう言いやがるこいつに嘘や冗談の様子は見えない。
そもそも…、ロボットは嘘や冗談等言わないのだ、…いや、成長する人工知能のなんぞ積んだこいつの事だからわからんが。
「…1つ言っとくがな、俺にガキの着替えを覗くような趣味は無い、ロリコンじゃないからな」
だが、成長する人工知能ならばなおのこと、教えねばなるまい、さもなければこいつの中で俺=ロリコンとインプットされてしまうのだ。
『家族でも無い年下の女の子と同居し、私の容姿をこの様に設定され、小学生の女の子とも交流のあるアスターが…ですか?』
うぐっ、聞いてて我ながら説得力も何もあったもんじゃない…。
しかしこいつ、日向の事も知ってるのか、まぁキューブの状態で俺達の生活を見ていたらしいからな。
「琴音も日向も半分成り行きみたいなもんだし、そもそもお前の容姿を設定したのは琴音だ、俺は関係ない、いいか、その最新鋭の人工知能に叩き込んどけよ、俺はロリコンじゃないと」
『私はアスターのメイドロボですよ、例え主人がどのような性癖の持ち主でも対処出来る自信がありますです』
そう言いながら誇らしげに無い胸を張るメイドロボに俺は軽い溜め息をついた。
「だから違げぇって…、対処って何だよ」
さて、こいつを西園寺重工から家まで持ってくる過程で少し話してわかった事が幾つかある。
1つ、メイドロボの癖して余りマスターである俺の話しを聞かない、うん、この時点で欠陥品である。
1つ、言語がややおかしい、というか敬語がまともに使えていない、うん、加えてポンコツである。
「まぁ…ロリコンの件に関しては良い、…いや、良くねーけど、それよりも大事な事がある」
そう、何より一番こいつが欠陥品であると俺に確信させる事は。
「アスターって何だよ…?」
『?、可笑しな事を申し上げますね、アスターはアスター、あなたです、私の持ち主、高屋敷 翼様』
「良いか?普通、メイドロボが自身の持ち主を呼ぶときはだ、呼び方の設定をしてない時はマスターと呼ぶんだ、わかったか?」
『了解しましたです、アスター』
「何一つ了解してねーよ!わざとか?わざとなのか!?」
…つまり、こう言う事である。
このポンコツ…、主人である俺もマスターではなく、アスターとか呼びやがるのだ、誰だよ、アスターって。
なのでこれは誤字でもなんでも無い、仕様である、…何の話し?
「良いか?俺の後に続いて言葉を発してみろ、命令だ」
『良いか?俺の後に続いて言葉を発してみろ、命令だ』
「な・め・て・ん・の・か・てめえは!!」
流石に腹が立ったので頭を付かんでぐわんぐわんと揺さぶってやった。
『あうあうあう、エラー!エラー!エラー!』
流石に効いたのかメイドロボは手を離すとよろよろと床にへたりこむ。
『メイドロボは精密機械です、もっとデリケートに扱って下さいです』
頭をクルクルと揺らせながらも抗議の目を俺に向けてくる。
「お前のどの辺が精密機械だよ…、良いか、始めるぞ、マ」
『マ』
「ス」
『ス』
「ター」
『ター』
「はい、繋げて」
『アスター』
「ならねぇよ!アどっから出てきた!マどこに消えた!?」
『お言葉を返ししますがアスター、そんな事は些細な問題です、アもマもそんなに変わらないじゃないですか』
「いやいや、全く違うだろ」
『ママママママママアママママママママママママママママママママママアママママママアママママママアママママアママアママママママママアママママママママママアママママママママママママママアママママアママアママママアママアママアママアママママママママママママママママママママママママママアママママアママアマママママママママママママママママアマママ、ほら、この中にアが幾つかあるなんて誰も気付きませんです』
「口に出して言ってる時点で違和感バリバリなんだよ!わかるわ!!」
『可笑しいですね、見ている人には分からないはずですが…』
こいつは誰に何を言ってるんだろうか…?
『どうやら、私の言葉遣いと良い、言語機能に何かしらの障害が発生していますです、何が原因なのでしょう?』
「さ、さぁ…、何だろーな?」
はっきり言ってしまえばこいつのポンコツさ加減には心当たりがある、つーかそれしか考えられない。
キューブの状態のこいつを漬け物石にして放置した事である。
…が、お、俺は悪くねぇ、俺のせいじゃねぇ、でも顔は背けとこ、俺悪くないけど。
『そういえば…、アスター、漬け物とか、食べたくないですか?』
「ちょっと待て、何故唐突に漬け物が出てきた?」
『はて、何故でしょうか、何故だか私の得意料理何ですよ、漬け物』
「ひょっとしてお前…、俺が漬け物石にして放置した事根にもってんのか?」
『嫌ですねアスター、私はメイドロボですよ、ロボットにそんな感情あるわけないじゃないですか』
「だ、だよな~、いくら最新鋭の人工知能でもそんな感情生まれる訳無いよな~」
『えぇ、いくら"漬け物石にされた最新鋭の人工知能"でも漬け物石にした主人を恨める感情なんて"残念ながら"生まれませんよ』
「………」
『あれ、どうしましたアスター?凄い汗ですよ、せっかくのスーツが汗だくになってしまいますです、それにネクタイも曲がってますよ』
メイドロボが俺のスーツのネクタイに手を伸ばしてくる、身長差があるのでその顔は俺を見上げる形になるが。
『もう少しきつく絞めた方が良いかもしれないです、もっときつく、きゅ~ってです』
ヤバイよ!?こいつの目マジだよ!笑顔なのに笑ってるように見えねぇよ、メイドロボだよな?こいつ。
メイドロボは主人であるアスターには絶対服従…のはず、大丈夫だよな、うん、大丈夫じゃないな。
「店長!す、すいません!お待たせしました、私、こういうの着るの初めてで思ったより手こずっちゃって!?」
「琴音ぇ~!!」
半ば抱きつくかの如く、俺は現れた天からの救世主である琴音に抱き付いてぶるぶると震えた。
「え!?ちょ、ど、どうしちゃったんですか?店長!?」
突然の事で動揺する琴音だったが俺の方もそんな事構ってられなかった。
「…店長、どうしちゃったんですか?」
『さぁ、私には何の事かわかりかねます、琴音マスター♪』
…こいつ、絶対わざとだ。
「あ、あの、店長、とりあえず離れて貰えたら嬉しいんですが…」
「え?あ、あぁ、悪い」
顔を赤くさせた琴音にそう言われて我に返った俺は慌てて離れるとふーと一息ついた。
「で…、その、店長、どう…ですか?」
「え、どうって…、何が?」
だが琴音の方はまだ顔を赤くさせたまま、もじもじと聞いてくる、俺としてはそれどころじゃないけどな。
「えっと…、パーティー用のドレス、とか、初めて着たので、変じゃないかな…って」
「あー、似合ってる似合ってる、世界一可愛い」
「…適当じゃないですか」
呆れたような、少し寂しそうな表情の琴音だが本当にそれどころじゃないんだよ…。
いや…、似合ってるけどさ、普段見慣れない分より輝いて見えるというか。
「それよりあのメイドロボだよ、絶対漬け物石にされた事恨んでるぞ!!」
『何を言いますです、アスター、ロボットにそんな感情はありません』
「お前さっき琴音の事マスターって呼んだだろ!ちゃんと聞いてたんだからな!!わざとだ!!」
『エラーです』
「…そういえば、まだつけてませんでしたね」
そんな俺達のやり取りを見ながら、琴音がポンッと手を叩いたら。
「…何を?」
「この娘の名前、ですよ、店長」
「漬け物」
「早ッ!というか!女の子にその名前は絶対NGです!!」