第30話:近未来のMー1G そのさんっ
「ここか…、ったく、わざわざこんな場所に呼び出しやがって…」
だだっ広い駐車場はそれでもほぼ満車であり、ようやく車を停める事が出来た俺はかなりイライラしていた。
いや…、車をなかなか停めれなかった事ももちろんそうなのだが、その為に駐車場をぐるぐる回っているとやたらと車越しに人々の視線が降りかかって来ているのがわかるからだ。
まぁ気持ちはわかるよ、この駐車場に停めてある他の車はどれもこれも高級車ばかりだもんね、その高級車ばかりの中を俺の車はそもそも浮遊機能すらない骨董品だし、そりゃ悪目立ちもするわな。
「やべぇな…、考え出したらまたムカついてきた、そこらの車にちょっとキズくらいつけとくか」
「店長…、落ち着いて下さいよ、そんな事して弁償しろって言われたらどうするんですか?」
「冗談に決まってんだろ、ほら…、降りるぞ」
車から降りた俺と琴音は目の前の巨大な建物を見る。
「わぁ…、大きい建物ですね」
「そりゃあ【西園寺重工】といや、ロボットの研究、開発、生産を一手に担う西園寺コンツェルンのメイン事業だしな、蜂須賀の工場なんかと比べてやるな」
「…誰も蜂須賀さんの工場と比べてませんよ、しかし大きいですね、店長の駄菓子屋何軒分はありましょうか?」
「おい、だからって俺の店と比べるな、悲しくなるだろ、俺が」
本来ならばこんな一流企業のメイン工場なんぞ俺達一般人には到底縁の無いものなんだろうが、今日ここに来たのは他でもない。
「つーか、わざわざ取りに来させやがって…、郵送で良いだろ、面倒くさい」
俺はもう一度愚痴りながら確認の為、先日、西園寺から届いMー1グランプリの招待状を見る。
【公平をきす為、参加者にメイドロボが配られるのは大会の当日になります、参加者は当日、会場の前に一度西園寺重工にてメイドロボを受け取って下さい】
そう、今日は成長する人工知能をもったキューブがメイドロボとしてどれが一番優秀なのかを競う大会、Mー1グランプリの大会当日なのだ。
キューブの状態で各企業や名家に配られた人工知能は当然、成長にばらつきがあるだろう。
西園寺コンツェルン側からすればこの大会はうってつけの調査の場なのだろうが俺達参加者側からすればまったく…、面倒くさい事この上ない。
このだだっ広い駐車場がほぼ満車なのもそれが原因なのだ、皆、自分のメイドロボを受けとる為にここに来ているのだろう。
「良いじゃないですか店長、郵送なんて味気無いですよ」
横で琴音がそう言ってくるが味気なんていらないでしょ…、なんなら調味料とかかけとくか?
そう返そうとしたが横の琴音は鼻歌混じりにご機嫌なご様子、どうやらメイドロボとの対面が楽しみで仕方ないようだ。
「店長、早く!早く行きましょうよ!!」
「はぁ…、わかったから、そんなはしゃぐな」
堪えきれなくなって俺の服を掴む琴音にため息を混ぜつつ、俺達は工場の事務所へと向かう。
だが、その入り口である自動ドアの前まで来たところで、ドアが向こうから勝手に開いた。
俺達ではない、誰か出てくるのだろう。
「…は?」
「え?」
事務所のドアが開いたその瞬間、俺と琴音は立ち止まり、わが目を疑った。
そこにあったのは連なった二つの巨大な丸い玉だ、スイカ?いやいや、そんな程度の大きさじゃ無いのよ、これ。
『あら…、これは失礼しました』
その巨大な二つの玉から声が聞こえてくる、…うん、違うけどね、声はもう少し上から聞こえてるけど。
その声につられて目線を一度上に向けるとおっとりとした女性の顔が見える。
女性…ではあるが、耳にはしっかりと人間とロボットを見分けるメカ耳がついているので人間では無い。
ふむん…、と俺はもう一度巨大な二つの玉に視線を戻した、なるほどなるほど、納得したわ。
これはおっぱいですね、巨乳?爆乳?いや…、そんなレベルじゃねぇな、この大きさをなんと表現するべきですかね、超乳?いや、しっくりこないな…、まるで星だ、星乳なんてどうだろう?語呂悪いな。
「店長…」
「…へ?お、おぅ?」
琴音に声をかけられて危うく思考の海にどっぷり浸かりかけてた俺は正気を取り戻した。
「どうしましたか?テラ」
そのおっぱいお化けなメイドロボの後ろから男が顔を出す、歳は俺と同じくらいか…、まぁ二十代だろう。
金髪のイケメン優男、絵にでも書いたような金持ちだ。
「あぁ、これはどうも、入り口をふさいで申し訳ない」
イケメン優男は俺達に気付いたのか、柔らかく微笑んで頭を軽く下げてくる。
「あぁ…、いや、どっちかっていうとそれは俺達の方だな」
危ない危ない、メイドロボのあまりのおっぱいっぷりに入り口に立ち止まってた俺はすぐに道をあける。
『ありがとうございます』
テラと呼ばれたメイドロボは俺に深々と頭を下る、当然、おっぱいもものっそい下がる、地面ついちゃわない?それ?
「君も今日の参加者かな?グランプリではお互い、頑張ろう」
「お、おう…」
優男は柔らかい微笑みを絶やす事なく、そのままメイドロボを連れて駐車場へと戻っていった。
「…はぁ、すごいですね、あれ」
「すごいな、あのおっぱい」
もう漫画の世界だ、それも年齢既成がかかるくらいの漫画、人間であのサイズは無理だろう。
「…でも、男の人は格好いい人でしたね、爽やかな人でしたし」
「ふっ…、甘いな琴音、良いか?メイドロボの見た目の設定はその持ち主であるマスターがするものなんだぞ」
元々、デフォルトである程度は決まってはいるが、その容姿を設定するのは持ち主だ。
「え…、それじゃああの…、あのサイズの胸って」
「あの金髪優男の趣味だな」
「………」
あ、言葉を失ってんなこいつ。
「…男の人って、どうしてこう、胸が好きなんですかね」
「男だからな」
あと、自分の胸に手を当てながらそんな事言わない、なんか見てて恥ずかしいだろ、俺が。
「…店長も、ですか?」
そしてチラリと俺の顔を見上げてくる。
「まぁ俺も男だしな、安心しろ、世の中には小さい方が好きなやつも居る」
「それ、まったくもって慰めになってませんからね!!」
「んな怒るなよ…、第一、俺だっておっぱいは好きだがあのサイズは無い、さすがに無い」
奇乳、変乳の類いはちょっと守備範囲外だ、こうして実際に目にすればさすがにちょっと引く。
「だと良いんですけどね…」
プイっとそっぽを向いてさっさと事務所に入って行く琴音を追いかけて事務所のロビーに入るとそこはもう、なんとも奇怪な空間だった。
今日の大会の参加者が集まっているだろうそのロビーには沢山のメイドロボとその持ち主が居る訳だけど、まぁ…、一言で言うならば酷い。
メイドロボの容姿の設定はマスター側にある、つまり、自分好みの女の子を自由に設定出来るのだ。
なのでロビーのメイドロボを見てやると、男の欲望全開なのが見てわかる。
先程のおっぱいお化け程のインパクトは無いにしても、金髪ツインテール美少女とか、ピンク髪ふんわりヘアーの美少女とか、眼鏡の似合う美人お姉さんとか。
しかもそのメイドロボに自分の事をお兄様ーとか、御主人様とかで呼ばせてやがる。
「…なんだか頭が痛くなってきました」
「奇遇だな、俺もだ…」
これはちょっと琴音の教育上、よろしくないな。
「あの…店長、あそこに鞭もったメイドさんが居るんですけど」
「…あんまり見てやるな、とりあえず目をつむれ」
「あの…、そのメイドさんが持ち主みたいな人を豚呼ばわりしてるんですけど」
「…あんまり聞いてやるな、とりあえず耳をふさげ」
…良いのか、これで良いのか日本の社会?メイドロボという最新技術の結晶がこれだぞ。
「それに…、なんか小さい女の子のメイドロボがやたらと多いんですけど」
…日本はもうダメかもしれない。
「あ!でもほらあそこ、店長、あそこにはおばちゃんのメイドロボもちゃんと居ますよ!向こうにはメイドロボなのに男の人みたいなのもーーー」
「琴音、それ以上見てはいけない、聞いてはいけない、考えてはいけない」
「…なんで急にそんな真顔なんですか?」
「世の中、色んな事が好きなやつがいるんだよ」
しかし…あれだな、今日の大会って自分の性癖の暴露大会とかだったっけ?
「…店長も、ですか?」
「はぁ?俺か?」
「だって店長もこれから家に来るメイドロボの容姿の設定をするじゃないですか」
あ!琴音の奴、今のこの男の欲望全開な空間に当てられて軽い男性不信になってやがるな。
「はっ…、俺にそんな特殊な性癖なんてねーよ、安心しろ、普通だ普通」
「そうなんですか、普通…ですか?」
「あぁ、特にガキには興味ないし」
…勘違いされちゃ困るから言っとくが、かと言って熟女好きな訳でも無いけどな。
「…そうですか」
あれれー?なんでそんな不機嫌になるんだ?
あからさまに不機嫌になり、黙ったまんまの琴音とロビーの椅子に座っていると受付が俺達の順番になった。
「高屋敷 翼様ですね、はい、お話しは伺ってます」
受付のお姉さんが何やらパソコンでカタカタとやっている、どうやら俺達のリストでも探してるのか。
「本日はメイドロボの受け渡しとなりますので、容姿の設定をお願いします」
受付のお姉さんがそう言って女の子の映し出されたモニターをこちらに見せてくる、これがデフォルトなのだろう。
デフォルトに映し出された女の子は身長も低く、おっぱいの無い、幼女だった、まぁデフォルトだしな、当然か。
さて、ここから自由に、自分好みの容姿を設定すら訳だが、俺には特殊な性癖は何も無い、何事も普通が一番である。
「とりあえずスリーサイズだが上から99、55、88だな、身長は170、体型は出るとこは出てて引っ込んでるとこは引っ込んでる、グラマーさが大事だな、顔は…そうだな、妖艶な美女が良い、パーツで言うならーーー」
「…店長」
「なんだ琴音、今良いとこなんだから邪魔をするな」
「普通にいくってさっき言ったばかりじゃないですか…」
「はぁ?何言ってんだ?これくらい普通だ」
まったく、何を言ってるんだこいつ、まぁ良いか、とりあえず続きだ。
俺は終止隣でジトリと俺を見てくる琴音を無視してメイドロボの設定を続ける、ふっ…、完璧だ、完璧に俺の求める普通の美女になったぜ。
「…っし、だいたいこんな感じでお願いします」
「了解しました、以上の設定でよろしいですね」
ほら見ろ、受付のお姉さんだって顔色1つ変えてない、そんだけ俺の設定が普通だったんだよ。
受付のお姉さんは慣れた手つきでパソコンをカタカタとする、え?慣れてるだけだって?はっはっは、おかしな事を言うな、君も!!
パソコンでの入力を終えたお姉さんはパソコンから出てきた紙を俺に渡してきた。
「では、こちらが設定分の追加料金となります」
「…え?追加料金、え?」
渡された紙…、というか領収書とお姉さんを俺は何度も見渡した。
「あの…、メイドロボをタダで貰えるって話しのはずじゃ」
「えぇ、メイドロボ本体の料金に関しては必要ありません、ですが追加分の料金に関しては頂いていませんので」
なん…だと?メイドロボの容姿の設定にそんな金がかかるのか?
「例えば身長や胸囲等はデフォルトから大きくすればするほど料金が発生しますから、こちらが1㎝辺りの料金プランです」
受付のお姉さんが渡してきたその紙には料金プランがびっしりとあった。
まぁ…身長伸ばしたり、おっぱい大きくしたりするのは無駄にコストとかかかるとは思うよ、そういう作業が必要となってくる訳だし。
でも…、これじゃ金の無い俺は自然と低身長、貧乳な幼女メイドロボしか作れないじゃないか…!!
待てよ…、オプション全体に別途で追加料金が発生するって事は…。
俺はオプションの一覧から1つの項目を横にいる琴音にバレないように見てみる。
メイドロボの真骨頂、夜のご奉仕機能、その全ては…全滅だった。
あんなプレイもそんな行為も、その機能全てに、金がかかる。
「…琴音、容姿の設定はお前に任せる」
「え?良いんですか?店長」
「いいさ、金さえかからなければお前の好きなように設定してくれ、俺はちょっとタバコ吸ってくるから」
よろよろとした足取りで喫煙所へと向かっていく。
「…店長、どうしたんでしょうか?急に元気が無くなったんですが」
「元気が無くなったのは元気な証拠です」
それにしてもこの受付のお姉さん、ちょっと慣れすぎじゃないですかね、どれだけ男の欲望を効かされて来たのか。
ーーー
ーー
ー
「いよいよ…ですね」
「あぁ、うん、そーだな」
「なんでそんなにテンション低いんですか…、私達のメイドロボと対面するんですよ?」
いや…、だってさぁ、もう…、俺の夢は破れてるし。
メイドロボの設定が終了し、俺と琴音は別室に通された。
そして目の前には大きなカプセル、中には女の子が目を閉じて眠っている。
この女の子こそ、我が家にやって来るメイドロボとなるのだ。
しかし…、最終的に琴音に設定を任せたがやはり小さい、胸が無い、追加料金なんぞ払えないので当たり前ではあるが。
まぁそれでも金はかけず、目の前の眠っている女の子は可愛らしい顔をしている、琴音の設定が良かったのか。
『それでは、これよりメイドロボを起動させます、初期不良の可能性もありますので、持ち主は充分注意して下さい』
そんなアナウンスと共にカプセルの蓋がプシュウと開いて、白い、冷たい煙が部屋に漂った。
カプセルの中の少女がスッと目を開けると身体を起こす。
まぁ…、若干予定こそ狂ったが、俺は今日からこの女の子の持ち主なのだ、西園寺の所のアルファのように俺の言うことには絶対服従、そう考えると悪い気はしない。
少女は俺と目が合うと、ペコリと頭を下げてきた。
『おはようございます、アスター、今日からよろしくお願いします』
…ん?