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第二話:近未来の駄菓子屋さん 中

「ふっふふ~ん♪」


高屋敷の敷地は住居も兼ねている駄菓子屋本店こそ小さいものの土地自体はそこそこ広く、庭には倉庫もある。


翼が聞いた話しじゃ先祖が土地を買ったはいいがお金が無くなったらしい、馬鹿だ。


そんな倉庫の中で彼女、琴音は鼻歌混じりにいそいそと商品の整理をしていた。


食品に関しては店先にあるものが全てなのでここには大昔の玩具が雑貨類がメインとして仕舞われている。


だがその数が尋常じゃないくらい多く、おまけに考え無しに倉庫に放り込んでいたつけか、物が混じりに混じっている。


普通ならばこんな場所の整理なんて誰もしたがらないだろうが、琴音はこの整理が嫌いじゃなかった。


「おはじき、ビー玉、はふ…」


レトロ玩具マニアの彼女にとってここはまさに探せば探すほどお宝の出てくる宝の山だった。


「わ、わ!けん玉なんてのもあるんだ!!」


琴音が嬉しそうにけん玉を引っ張るとけん玉の糸が絡んでいたのか、一枚の紙が床に落ちる。


「…?なんでしょうか、この紙」


紙を拾い上げ、読み上げてみる。


「しらぬいの…まいぞーきん?」










ーーー


ーー



「はぁッ!店を売れだって!!」


突然現れた大企業グループの社長に突然そんな事を言われて翼は思わず立ち上がった。


「えぇ…、いえ、正確には店というよりこの土地を頂きたいのですが」


そんな翼の態度にも翠は眉一つ動かさずに答える。


「つまり…俺達に立ち退けって言いに来たのか」


「はい、この店のすぐ近くで大規模な建築工事をしているのは知ってますよね」


「そりゃ…よーく知ってるよ」


今だって工事の音が店内を響いてたりする。


なのでじつは会話がすっごく聞き取りずらかったりしてる。


「ふぅ…、海燕、例の物を」


「はっ…」


翠に言われて黒スーツの男が丸い円柱の機械を取り出すとそのスイッチを入れた。


ピタッと、あれだけ店内を響いていた工事の音が聞こえなくなる。


「それは…音吸収機か」


「えぇ、私の会社の最新のやつです、これで落ち着いて話しができますね、挨拶代わりに差し上げますよ」


音吸収機、設定した騒音のみを吸収する西園寺コンツェルンの売れ筋商品の一つだ、あと高い、値段が。


「礼は言わねーぞ…、これくらい当たり前だ」


だがいくら値段が高かろーが、翼は翠に対して敵意むき出しだった。


それもそのはず。


「あの工事だって西園寺コンツェルンが主催だろーが!今までよく放置しやがったな!!」


もとをたどればこの騒音の原因は西園寺コンツェルンにあるのだ、翼にとってはひどく遅い対応である。


「ですから…今日はその話しに来たのです」


「もしかしてさっきの…、立ち退けって話しか?」


「えぇ、その…じつはあの工事の事なんですが」


翠は少し言いづらそうに言葉を濁らせながら。


「工事の範囲に、この店、というより土地が、ばっちり入っちゃってまして」


「なん…だと」


やたらと沢山の重機が稼働しているのも見るにかなり大規模な工事だとは翼も予想していたが…。


「普通まず俺に話し通すだろ…、なんでもう工事に着手しちゃってんの…」


店舗経営がずさんな翼でもさすがにこれには呆れた。


「し、仕方ないじゃないですか、衛星で工事の範囲を調べてみたら、ここに建物なんて無かったんですよ」


「いや、現にここにあるんだし…」


「…この店、衛星のデータ上樹という扱いなのよ」


この駄菓子屋はこの近未来においては珍しい、というよりたぶん他に無いだろう木造建築物である。


「データばっかり見てて現場に足運ばないからそうなるんだよ…、そもそも、何建てるつもりなんだよ、あれ」


「ターミナルです、この土地の地脈はターミナルの建設に適しているので」


「え?ターミナル出来んのか、あれ!!」


翼が驚くのも無理の無い事でターミナルとは簡単にいえばワープ設備である。


条件さえあえば地球の裏側にだって一瞬で移動出来る、近未来の科学技術の結晶だ。


「じゃああれか…この土地だってどんな有効活用を」


「ここは駐車場になる予定です」


「…はっ?そんくらいならわざわざ立ち退く必要なんて」


「ターミナルを建てる以上、近くにこんな小汚ない店があれば景観を損ねますから」


「………」


「見たところ経営も上手くいってないようですし、どうでしょう?素直に出ていってもらえませんか?」


「…ふん、西園寺コンツェルンのお嬢様かなんだか知らねーけど、随分と甘く見られたもんだ」


いい加減、イライラも限界だった翼は鼻息を一つ、声を荒くする。


「こちとら先祖代々守ってきたこの店、この土地、そう簡単に売り払ってなんざーー」


「海燕」


「はっ、こちらがあなた方へと支払う予定の金額です」


「売った!!」


簡単だった。


「では、こちらの書類に印鑑と、土地の権利書等の用意をお願いしたいのですが」


「はいはいただいま!!」


にこやかにもみ手もみ手に契約の手続きを始める。


「…ん、あぁ、ちょっと待ってくれ」


ふと思い出したように翼は動きを止める。


「?、どうしました?」


「ここを立ち退く事をバイトの奴にも説明しなきゃならん、悪いが少しだけ待っててくれ」


「バイト…雇ってたんですね、それくらい構いませんが」


「よし、んじゃ行ってくる」


むしろバイトなんて雇う余裕があったんですね、と言っているようなもんの翠だが翼は気付かずに店の奥へと引っ込んだ。


「え、あ!ちょっと!!お店、誰も居なくていいんですか!!」


「そんときは適当に相手しててくれ~」


後ろから聞こえてきた翠の声に翼はさらっとそう返事した。


「なっ!ふざけないでくだ…、って、もう居ないじゃないですか」


翠が抗議の声をあげるよりも先に、翼はさっさと裏口から出ていったようだ。


「…信じられません、いくつもの会社を経営している私がこんなお店の店番なんて。」


「それでも…お店側に座るのですね、お嬢様」


「い、一応よ!一応、本当にお客様が来たら大変でしょ!それにこういった古くさい経営のやり方を学ぶ良い機会だし」


海燕の言葉に翠は顔を真っ赤にさせながら反論していた。


「しかし…なんて説明すっかな~」


う~んと首を捻りながら裏口から中庭に出る。


レトロマニアの琴音にとってこの店は店主である翼以上に大事なものになっているはずだ。


もちろん、決定権は店主である翼にあるのでバイトである琴音にこの店をどうこうする権利はない、が翼にとってこれは言いにくい。


「あっ、店長~」


ちょうど倉庫から出てきた琴音が翼を見つけると駆け足で走り出して来た。


「お、おぉ…、琴音」


まだ話しの固まっていない翼なのでここでの琴音の登場は戸惑う。


「あのな…、琴音」


「店長!店長!!不知火って人、誰だかわかりますか?」


「不知火?そりゃ知ってる、つーかお前知らんのか?」


だが翼が話すより先に琴音が声をかけてくる、それも翼にとって予想外の人物の声があがった。


「え?あー…、えへへ、で、どんな人なんですか?」


琴音は誤魔化すように曖昧に笑うと話しの続きを促す。


「不知火っつったらかつて月人相手に戦争起こした当時の世界有数の一流企業のトップじゃねぇか」


「えぇ!?月の人との戦争ですか!!」


「あぁ、だが結局、一企業が星相手に戦争なんかしても勝てるはずが無く、結果負けた不知火の企業は解散、地球と月との関係も悪化しちまったって話しだ」


当時はその話しで持ちきりだったので現代社会に疎い琴音でもその話しくらい知っていると翼は思っていたが。


「つまり…お金持ちだったんですね?」


「そりゃ…負けたとはいえ月相手に喧嘩売ったくらいだしなぁ…、企業が解散した今でも不知火の膨大な隠し財産が眠っているって話しもあるくらいだ」


「それって…これ、ですか?」


「…あん?」


ピラリッと、琴音が倉庫から見つけたその紙を翼に渡す。


「先ほど倉庫の整理をしていたら見つけたんです」


「やけに古くさい紙だな、なんだこれ…」


紙を受け取り、怪しむように見ていた翼だったがその表情はすぐに変わり、紙を握る手はプルプルと震えた。


「不知火の…埋蔵金、だと!?」


その紙には不知火の埋蔵金、そしてその隠し場所の地図がのせてある。


「…おいおい、しかもこの地図、この場所って、うちの土地の敷地内じゃないか!!」


地図にマークされた埋蔵金が隠されているであろう場所は、今まさに自分の土地だった。


「やったぜ!あとは埋蔵金を見つければ文句なしの億万長者だ」


あまりの幸運で有頂天になる。


「ところで店長、こんな所にいて、お店の方は大丈夫なんですか?」


「…ん?店?」


なので翼は忘れていた。


「そうだ!この土地!!」


今まさに、この土地を売り払って立ち退く話しをしていた事を。


「みすみす埋蔵金を渡してたまるか!!」


この土地に不知火の埋蔵金がある…となればこの土地を売ってしまえばそれはまるごと西園寺グループの物になってしまうだろう。


そんな訳にはいかない、と、ぐるりと反転するなり翼はダッシュで店へと駆け戻る。


「え?あのー!店長ーー!!」


琴音もよくわからなかったがとりあえずその後を追った。


「…あら、おかえりなさい、お客様なら誰も来ませんでしたよ」


翼が店に戻るとカウンターとなる机にちょこんと座ってちゃんと店番をやってる翠がいた。


あんな適当な頼み方だったのにちゃんと店番をしているなんて律儀な奴だなーと多少なりとも好感は持ったが。


「悪いが…、立ち退きの話しは無しだ!!俺はこの店も土地も売らん!!」


それとこれとは話しが別、なので翼はビシッとそう宣言した。


「…え?ハァッ!?ちょっとあなた、何言って」


「先祖代々守ってきたこの土地を簡単に渡す訳にはいかない、って思ったんだよ」


先ほどまで完全に買い取る流れだった翠にとってその宣言に慌てて立ち上がる。


「そういう事で買い物する気が無いならさっさとお引き取り願おうか」


翼はもうお話はおしまい、と言いたげにシッシッと犬でも追い払うような仕草をする。


「こほんっ、…なるほど、そういう事ですか、海燕」


だが翠の方も一度冷静になると咳払い一つに海燕に声をかける。


「どうやら…金額の方にご不満があったようですね、わかりました、こちらも最大限譲歩しましょう」


そして見せてきたのは先ほどの値段から更に上乗せされた金額だった。


「…ほう、だが…断る!!」


それでも不知火の埋蔵金に比べれば微々たる額である、そう確信した翼は目の前のお金より未来に得るであろう大金を優先した。


「な、なぜですか!まだ足りないと言いたいんですか!?」


「ふっ…、いいか、よく聞け、西園寺コンツェルンのお嬢さん、世の中金でなんでも解決できると思うなよ!!」


ズビシッ、と指を指してまで決めたこの台詞は翼が人生で一度は言ってみたい台詞第4位である。


とても埋蔵金に目が眩んだ男から出る発言とは思えない。


「…ッ!こ、この~」


返す言葉もなく、ぐねね、と 唸るように翠は翼を睨みつける。


「あの…、お客さんですか?」


と、後からやってきた琴音が状況を把握できず、翠と海燕とメイドロボを見て言った。


「おぉ、ちょうどよかった、琴音、店の方は頼んだ、適当に追い払ってくれ」


「なっ!ちょっと!待ちなさい!!」


翠の声も無視して翼はさっさと店の奥へと引っ込んでしまう。


「え、えと…、いらっしゃいませ?」


一人残された琴音は状況も把握しておらず、とりあえずぺこりと頭を下げる。


「…あなたがこの店のバイトの方?」


「はい!よろしくお願いします、えと…お嬢さん」


突然の対応相手の変更、それも相手はバイトである、いぶかしむ翠に琴音は元気よく返事をした。


その様子を見るに翠が西園寺コンツェルンのお嬢様だとは知らないようだ。


「失礼ですが…、この方はーー」


「良いのよ、海燕」


海燕が翠の肩書きについて説明しようとしたが翠は首を横に振って遮った。


西園寺コンツェルンのお嬢様としていくつもの会社を経営している彼女だが、その経歴をおおっぴらにして権力を振りかざす…、というやり方を彼女は好んでいない。


ましてや相手は同じ年頃の少女、そもそもそんな相手に偉ぶっても意味が無い。


「はぁ…、まったく」


力が抜けたように脱力して椅子に座ると、深いため息をつく。


「あの…、そこ、お店側の椅子なんですが」


「あぁ、ごめんなさい、今出るわ」


言いづらそうにそう言う琴音に素直に謝り、翠は立ち上がる。


店主の翼が店の奥へと引っ込んでしまった現状、このアルバイトの少女に立ち退きの話しをしても仕方ない。


とりあえず…翼が戻るのを待つ必要があった。


「ところで…さっきから気になっていたんですが、それ、何?」


と、琴音とすれ違う時、暇潰しもかねて彼女がずっと持っていたそれについて尋ねる。


「これですか?これはけん玉です」


「…けん玉?」


聞いたことの無い言葉、見たことのないものに翠は小さく首を傾げた。

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