【近未来の小学生:後日談】
『白昼堂々と街中に変質者が!?病院服の変質者が小学生の女の子に声をかける事案が発生』
「…か、ほう、とんだ変態も居たもんだな」
駄菓子屋店内、店員スペースにどかりと座り込み、新聞を広げるとそんな小さな記事が目に止まった。
なんでも病院服に松葉杖、点滴をつけた変態が真っ昼間だというにも限らず、小学生の女の子相手に声をかけて連れ去ろうとしたらしい。
「いやぁ物騒な世の中になったもんだ、お前らも気を付けろよ、世の中どこに変態が居るかわかったもんじゃないからな」
自分は子供だから大丈夫…、じゃないんだよ、自分が子供だからこそ危ないんだ、世の中、特殊な性癖の奴が多すぎるからな。
「私は海燕とアルファが居ますし、問題はありませんね」
「いや、海燕さんもアルファも四六時中一緒に居る訳じゃないんだから、油断するなよ、現に日和と出掛けた日はどちらも居なかっただろ?」
思い返せばこちらが頼んだ事とはいえ少々無用心過ぎたな、こいつはこう見えて西園寺コンツェルンのお嬢様だ、襲われる理由なんていくらでもある。
「あら、気付いてなかったんですか?あの時、海燕もアルファも近くで私達の事を見てましたよ」
「マジか…、全然気付かなかった」
まぁ考えてみれば当然か…、しかしあのデート、よく海燕さんが許してくれたもんだ。
「琴音、お前は気を付けろよ、知らない人にお菓子とか玩具とかあげるって言われても付いてったりすんなよ」
「店長は私をどれだけ子供だと思ってるんですかね…」
いや、だって本当に付いてっちまいそうだしな、お前。
「真面目な話し、この病院服の変質者もまだ捕まって無いみたいだしな、なんなら防犯ブザーでも携帯しておくか?」
「…店長、もう良いですか?良いですよね?」
だが俺の琴音の事を心配してやったその発言にも彼女はそれにスルー、溜め息を一つつくと言葉を続ける。
「その変質者さん…、確実に蜂須賀さんですよね」
うーん、ずっと言いたかったんだろうな、いや、まぁ蜂須賀だろうな。
「蜂須賀…、誰だろう、思い出せない、でも不思議だ、その名前を聞くと何故だか涙が出そうになる」
「…適当な事言って誤魔化さないで下さい、蜂須賀さん、よくあの街中で警察に捕まらずに逃げれましたね」
そう、休日の真っ昼間の街中、沢山の人が居る中を蜂須賀は警察に捕まる事なく、逃げおおせた。
それも警察の捜査は思った以上に難航しているらしい、それもそのはず、その場に居た証言者達は次々にこう証言しているのだ。
「病院服の変質者が女の子に声をかけた」
「松葉杖をついた変態ロリコンが女の子を襲おうとした」
「点滴つけたのキモいのが防犯ブザーを鳴らされて奇声をあげていた」
…とまぁ、証言のその全てが病院服、松葉杖、点滴に集中しており、誰も蜂須賀の顔なんて覚えていなかったのである。
まぁ仕方ない、街中にあのインパクトある格好だ、皆、そっちに集中するよね。
「ま、結果的に蜂須賀も無事なんだし、良かった良かった」
「店長…」
呆れた顔で再度溜め息をつく琴音に西園寺がちょんちょんと肩を叩く。
「朝河さん…、その、蜂須賀という人は?」
あぁ、そうか、そういやこいつ蜂須賀とは面識なかったな、いっそこれからずっと面識が無いまでありそうだ。
「店長のお友達ですよ」
「…へぇ、あなたにも友人が居たんですね、でも友達だと思ってるのはあなただけかも知れませんよ」
「何でそこで人をマイナス思考のどつぼにはめる事言うんだよ、友達…つか、腐れ縁だな、あと仕事上での付き合い」
「ちなみに前に店に沢山あった女の子の人形は蜂須賀さんが作ったやつです」
「あぁ、なるほど…」
あーぁ、今のなるほどで西園寺の蜂須賀に対するイメージが確定したのがわかるわ。
「あの人形を…ですか、なるほどなるほど」
だが西園寺はそれから難しい顔をしながら腕を組むとぶつぶつと何やら呟いていた。
そういやあの人形は西園寺が全て買い取ってくれたらしいがその後どうなったんだろうか?捨てられたのかな?
だけどこいつの性格上、無駄な金は使いそうには無いと思えるが…、どうなんだろ?
「それはそうと…、あなた、柚原さんにあんな事言われた後だと言うのに相変わらずだらけてますね」
ひとしきり考え事が終わったのか、西園寺はポンッと軽く俺のトラウマをほじくってきた、ずっと考えてりゃ良いのに。
「…ほっとけ、何度も言うがこれが気ままな自営業の特権なんだよ、役得だ、役得」
だが、俺だって負けない、第一、俺は働いて無い訳じゃない、働けないのだ、何故なら客が来ないから。
ここ、大事なんで間違えないように!!
「でも、柚原さんが高屋敷さんの事、見てますよ」
「さぁ!仕事だ仕事!!今日も張り切ってやるぞ!琴音!!」
素早く立ち上がってシュバババッと棚の整理整頓を始める、俺働いてますよ!養われる必要無いですよ!!
とアピールしつつ、チラリと横目に店先を見ると、…誰も居ない?
「…冗談ですよ」
こんのクソガキ…。
俺は西園寺を一睨みして無言で椅子に座り直すとグテーと机に突っ伏した。
「…清々しいくらいの手のひら返しですね、あなたの手はドリルか何かですか?」
「今のでやる気が失せたんだよ、つまり、お前のせいだ」
ジトリと西園寺を睨みつけるがこいつ、なんの事?とでも言いたげな楽しそうな顔をしやがる。
あー…、しかし、机でグテーっとしてると眠くなってくるな、少し仮眠するか。
ここで重要なのはこれは昼寝、ではなく、仮眠なのだ、少し寝て、仕事の効率を上げる為の仮眠、つまりサボりでは無い。
「あら、柚原さん、こんにちは」
込み上げてくる心地のよい眠気に身を委ねようとしていると西園寺の声が耳に入る。
またか…、二度も同じ手が通用すると思われてんなら俺もナメられたものだ、こんなもん無視だ、無視。
「いらっしゃいませー、日和ちゃん、ちゃんとしたお客さんとして来てくれるのは初めてだね」
琴音…お前もか、ったく、西園寺に話しを合わせるようにでも頼まれたのか?
「店長~、日和ちゃんですよ」
「いや、だから同じ手は通用しないって…、んあ?」
いい加減文句の一つでも言ってやろうかと顔を上げると、バッチリ目があってしまった。
誰に…って、そりゃ、柚原 日和さんに。
小学校の帰りなのか、制服姿で、その後ろには彼女の友達なのか、二人の別の小学生の少女がいた。
「うん、やっぱり」
そして彼女、柚原 日和は小学生とは思えない慈愛の表情を俺に向けてくれる。
やめて!!その全てを優しく包んでくれそうな優しい微笑みは俺にはダメージを与えるから!!
「翼は私の理想の人だ」
「いや…、これはだな、たまたま…偶然眠気が来て、ですね、決して仕事してなかった訳じゃないんですよ?」
これならまだ西園寺のようにズバリと怒られてた方がマシである…、誰か、俺を怒って!なじって!殴って!!あ!やっぱ殴るのはやめて、俺にその趣味は無いから。
「私、翼のお店の売上に貢献してあげるから、遊びに来たんだ」
「お、おう、なんだ…、その、いらっしゃい」
こうして、最近ではうちの店にも駄菓子屋らしい、小学生の常連さんが付いてくれた。
でも理由が悲しい!コレ、憐れみじゃないよね!?