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第26話:近未来のおままごと

おままごと…漢字にすると(まま)事であるそれは、家庭の様々な風景を幼児が演じる、一種のごっこ遊びである。


参加する者に父親、母親、子供、ペットに各々役割をも持たせて一般家庭を演じるRPGだ。


子供の遊びとはいえ、将来的に家庭をもった時の予行練習ともいえるだろう。


だが…忘れてはいけない。


世の中には犬の役割しか振られなかったお子様だっているのだ、てか、犬ってなんだよ、必要無いだろ!?


なんで三人でやってて父親、母親と来て犬なの?そこは子供で良くない?


え?俺の事じゃないですよ…、いや、その、違うよ…、俺、通行人Aの役割だったから。


そもそも…誘われてないし、別に、やりたかねーし。


「…はい、てな訳で今からままごとをする」


「な、なんだか急にテンションが低くなってないですか?」


「なってねーし、超やる気満々だよ」


ゴホンッと咳払いをしてどんよりとした過去の記憶を蹴散らした。


さて、ままごとである。


俺達は店内に入ると商品棚よりおままごとセットを取り出した。


色とりどりのカラフルな食器、小さく、可愛らしいキッチン、サクッと既に切れてて磁石でくっつかせる事の出来る食べ物の玩具、我が店ながらやると決めてから物色してここまで出てくるとは思わなかった。


俺はそれを駄菓子屋の食事スペースの机の上に並べる。


このスペースはお好み焼きとかもんじゃ焼のスペースではあるが…、永らく使っておらず、ホコリをかぶってたのでたまには使ってやろう。


「うわぁ~、この切れてる食べ物の玩具、懐かしいなぁ…、玩具の包丁使って無駄に何回も切って遊んでたっけ…」


琴音は早速…、というか予想通り、目をキラキラとさせながらそれら俺の並べた玩具を手にとって物色中。


まぁここはやはりおままごと、女の子のよくやる遊びNo.1ともいえる遊びだ、彼女が食いつくのもよくわかる。


「そういえば私、ままごとってやった事ないですね」


「…私も現実ではありません、ヴァーチャで友達とやった事はありますけど」


…あぁ、うん、やっぱ時代ってそうなのね、おままごとセットとか売れん訳だわ。


「というか、あなたがやった事ある事に驚きなんですが、普通、女の子の遊びじゃないんですか、これ」


「幼馴染みとちょっとやった事あるくらいだから、そんな引いた目で見んなよ」


西園寺の冷たい視線に憂いていると琴音が恥ずかしそうに服をくぃっと引っ張ってくる。


「…あの、翼さん、ヴァーチャって何ですか?」


「仮想世界体感ゲームだよ、今日和が言ったので言うなら、超リアルなおままごとだ」


「へー…、面白そうですね」


「完全な商売敵だぞ…」


恐らく、相手にもならんであろうが。


「んで…だ、こいつを使って実際に夫婦生活をシュミレートする、そいつが最終試験だ」


恋人の最終地点なんて、そら結婚しかない訳だし。


そう考えるとこのままごとで最終試験はなかなかに説得力はある、後は日和に不合格の半を押してやれば良い。


「翼の考えてる事はわかったけど…、だったら別にままごとセットなんて出さなくても、普通に台所とか使えば良いのに」


明らかに子供向けのままごとセットを出された事が不満なのか、日和は玩具のキッチンをいじりながらそう呟いた。


「台所とか使わせれる訳無いだろ…、危ないでしょ」


普通に包丁とか、火だってあるんだし。


「あ…、でもスイッチつけると火…、っていうか明かりがつくんだ」


日和がカチリ…と、コンロのスイッチを入れると火に見立てたライトが電灯する。


「説明書によると水も専用のタンクに入れてやれば蛇口ひねると出てくるらしいぞ」


「…思ってたよりずっと本格的なんだ」


ふふん♪驚いたか…、駄菓子屋玩具もなかなか捨てたもんじゃないだろう。


そういえば琴音が居ないな…、あれ?あいつどこ行った?


「翼さーん!!」


見ると店の奥、生活スペースから琴音が嬉しそうに走ってきた、その手にはたっぷんたっぷんに水の入ったままごとキッチンの専用タンクである。


「水!持ってきました!!」


こいつはちょっとやる気満々過ぎて怖いよ…、女子高生がままごとに本気出さない。


「お、おぅ…、じゃあ始めるか、最終試験だ!!」


とりあえず格好付けてみたりしたけど…、よくよく冷静に考えるとままごとやる二十歳の男って…どうなんだろ。




















ーーー


ーー



【ままごとその1、西園寺 翠】


「…それで、何故私まであなたとの夫婦生活をままごとしなければいけないんですか」


「いや、だって日和だけにそうしてたら明らかに不自然だろ」


最終的に日和を不合格にするとしても、ここで日和のみにままごとをやらせる訳にはいかない。


一応…設定上では俺達三人は恋人…、だし?


「だいたい、私、ままごとなんてやった事ないですし、何をすればいいかサッパリなんですが」


「まぁ…、役割的に父親役が俺、母親役がお前として、後は適当に夫婦みたいな生活をシュミレートすれば良いんじゃねーの?」


「夫婦…夫婦、ですか?」


西園寺が確かめるように二回呟く、二回目はもう顔なんか真っ赤にさせてる。


いや…、そんな赤くされると俺も恥ずかしいんだけど…。


「しかし…、その場合、仕事はどうしましょう?」


「え?仕事?」


あまり休日に聞きたくないワードに思わずそう聞き返してしまった。


「だって私には私の会社が、あなたにはこの店があるでしょう?」


「あー…、そうだな、ここは普通、父親側の仕事を優先させるもんじゃないか?」


ままごとによって母親が演じるその役割はほぼ百パーセント専業主婦である。


たぶんあれだ、将来の夢はお嫁さん、とかいうやつなんだろう、甘い!今の世の中、働かねば生きて行けぬのに。


「あなたのこのオンボロ店の為に私の会社を潰せ…というのですか?」


ピキッと空気が冷たいと感じさせるくらいの視線で、西園寺が俺も見てくる。


…ひ、酷い、ただのままごとなのに、考え方がガチだ。


「ぢ、ぢゃあ…その、俺が主夫んなって西園寺が働く…とか?俺としてはそっちのが楽だし、良いんですけどね」


「何を言ってるんですか?あなたは?」


いや、お前が何を言ってるんですか?


「そうですね…、とりあえずあなたには会社経営というものをみっちりと一から叩き込んで上げます、もちろん、身内だからといってコネで上には上がらせませんがいずれは副社長として私と二人で会社を経営していく形にしましょう、実力を認める事が出来たら私の持つ何社かはあなたにも経営を任せて…」


「はいストップ、もう良いですから」


聞いてるだけで頭が痛くなってくる…、つーか身内でもコネで上には上がらせないって何だよ、上がらせませんの【ません】の部分が怖すぎるよ、こいつ、どんだけ俺に教育を叩き込むつもりなの?


「…まだ話しは終わって無いんですが」


まだ続きあんのかよ…、どんだけままごとにリアルを求めてんの?マジメさんめ。


「たかだかおままごとでんなマジメに考えんなよ…、そんなに俺との夫婦生活考えてくれてんの?」


俺の独断と偏見で決めるなら西園寺は不合格である、何より、俺が働かねばならぬのが気に入らない。


ままごとの中でくらい、楽させて欲しいものである。


「なっ…!?ば、馬鹿じゃないですか!私はあくまでもおままごとの話しをしてるんですよ!!」


いや…、それくらいわかってるから、そんな顔真っ赤にさせんでも。













ーーー


ーー



【ままごとその2、朝河 琴音】


「えぇと…、次は私ですか、翼さんはお父さん役でお願いしますね!!」


「さすがに手慣れてんなぁ…」


さて、お次は琴音である、ままごとを始めるや彼女は手慣れた様子で机の上にままごとセットを並べた。


「えへへ、なんだか懐かしくて、いろいろと設定を考えちゃいました、ちなみに今は朝ですからね」


そしてままごとキッチンの前に立つと鼻歌をハミングさせて料理のフリをしてる。


しかし、本当に楽しそうにままごとをする奴だ、そんな顔されるとこちらとしても付き合ってやらねばならない気にされる。


「朝か…、んじゃとりあえず新聞」


本来、機械オンチな琴音には絶対、料理なんぞやらせないがままごとセットなら問題は無いだろう。


「新聞ならいつもの所に置いてありますよー」


と、言われて見ればいつも居間で新聞が置いてある位置と同じような場所に新聞…、まぁ玩具だけど置いてある。


「ん、サンキュ」


なかなか用意がいいな…、と新聞を読むフリをしていると琴音が机の上にカラフルな食器と目玉焼きの玩具を置いてくれた。


「どうぞ~、目玉焼きです」


目玉焼きか…、例え玩具といえど、俺は目玉焼きには一つ、妥協しない点がある。


「なぁ、琴音」


「はい、ケチャップですよね」


言うなり琴音がケチャップの容器の玩具を渡してくる、目玉焼きにはケチャップ、なかなかにわかってるじゃないか。


「翼さん、醤油取って下さい」


だがこいつ自身は目玉焼きに醤油をかけるのだ、わかってない、じつにわかってない。


「…邪道だな」


と、言いながらも醤油の玩具を琴音に渡しとく。


「ケチャップの方が邪道だと思うんですけど…」


しばらく、二人して目玉焼きの玩具を食べるフリ、うん、なんとなく予想はしてたが凄く馬鹿っぽい。


「さて…、飯も食ったし、そろそろ店開けるか」


「そーですね、今日はお客さん来ると良いですけど」


朝飯を食って仕事のままごと、まぁここは普段通り、駄菓子屋営業で良いだろう。


つーか…普段通り過ぎね?


「なぁ…、琴音」


「?、どーしました?翼さん」


「これ、ままごとか?何かやってる事がいつもと変わらないんだが」


「…あ、あれ?」


あれ?じゃねーよ…、天然さんか!!


ともかく、これではままごとにすらなっていない…、独断と偏見で不合格としようか。




















ーーー


ーー



【ままごとその3 柚原 日和】


さて、それでは本日の最終試験における一番の目的である、柚原 日和の番だ。


つーか前の二つは茶番みたいなものでここで日和を不合格とするのが俺の最終目標なのである。


…あるんだが。


「…えと?」


現在、俺は絶賛放置プレイ中…、というか、俺の設定を日和に聞いた所、返って来た返事は。


「翼はいつも通り適当にゴロゴロしてれば良いよ」


なんだったんだけど…、いつも通りって、普段からそんな適当にゴロゴロした生き方に見えるの?俺?


まぁ、言われたのならば仕方ない、とままごとだというのも忘れ、食事スペースの畳に寝っ転がる。


「ただいま翼、仕事終わったよ?」


と、そこで日和が帰ってくる、その口振りから察するに彼女は仕事帰りらしい。


…ん?ひよりんが働いてんの?じゃあ俺は何してんの?


あー、ひょっとしてアレか、彼女、働きたいのか、キャリアウーマン的な、だったら俺は今度こそ専業主夫みたいな役者なのか?


「今ご飯用意するからちょっと待ってて」


だが日和はいそいそとままごとキッチンの前に立つと料理をするフリをし始めた。


ふーむ…、どうやら違ったらしい、見ると料理を作るフリをしつつも掃除等の家事全般もこなしている。


ふむん…?仕事は日和がやって家事全般もひよりんが担当なのか?


…え?マジで俺の役割何なの?これ、少なくとも父親の役じゃないよね?


仕事する必要も無くて、家事もする必要が無いって事は…子供役か?いや…、それなら父親役が存在しないはずがない。


…となると、なんだ、簡単じゃないか。


「翼、ご飯出来たよ」


「わん!わんわん!!」


答えはそう…、ペットの犬役だ!!


「…何してるの?翼」


急に四つん這いになって吠え出した俺にひよりんはドン引きしていた…、やっぱ違うじゃねーか。


…考えてみれば夫婦生活をシュミレートするのが目的のおままごとなのに、なぜ俺は犬の役という結論にいたったのだろう。


「…気にするな、ところで日和、このおままごとにおける俺の役割がイマイチ掴めないんだが」


もうわからんので本人に直接聞くことにする。


「え?夫婦でしょ、私達」


だが、俺のその問いに日和はキョトンと不思議そうな顔をしながらそう答えた。


夫婦…?え?やっぱそうなの?


「えと…、だったら俺、働いた方が良いんじゃないの?」


例外はもちろんあるが、大抵どこのご家庭でも父親が家族の為に働いてお金を稼いでくるものである。


「?、私が働いてるんだし、翼は別に必要ないんじゃない?」


まぁこの世界は実力主義だ、男だろうと女だろうと実力のある者が出世する、西園寺が良い例だろう。


「だったら俺は家事でもすれば良いのか?」


ならば家事か、家庭を守るのも立派な仕事である、相方が働いてるならばそのサポートはきっちりとするべきだろう。


「別に良いよ、私がやるから」


「いや、そこで否定の言葉を貰ってしまうと俺、何もする事無いんだけど」


最早このおままごとに参加してるのかしてないのかもわからんレベル。


「良いから、翼はいつも通りゴロゴロしてて」


「?」


よくわからんけど…、そう言うなら、ゴロゴロしとこうか。


ゴロゴロ~♪


ゴロゴロゴロゴロ~♪


「………」


「………」


言われたままにゴロゴロしていると西園寺と琴音の冷たい視線に動きを止められる。


「あの…何でしょうか?」


その視線のあまりの冷たさに思わず敬語になっちゃうくらい。


「あの…翼さん、気付いてますか?」


「?、何をだよ」


「仕事もしない…、かといって家事もせず、ダラダラゴロゴロと、ままごととはいえ、あなた、立派なダメ男ですよ」


「ぐばっ!?」


これはキツい…、でも全くもって正論である。


「良いんですか?柚原さん、こんなダメな男と本当に付き合うつもりなんですか?」


西園寺はもう、俺を飛ばして直接、日和にそう問いかけた。


これは今日一日、いや…、日和が俺に一目惚れしてから今日までの日和の気持ちに対する問いかけと言って良いだろう。


「はい、だって私、翼を一目見た時から、ずっとーーー」


なので、彼女の答えは決まっている、だってこれは一目惚れなのだ、そこに理屈なんてものは存在し得ない。


彼女の答えは…もちろん。


「…養ってあげたいって、そう、思ってました」


「………」


…はい?


「え?」


「養う…?」


俺達三人は日和の言った言葉の意味が理解出来ず、お互いに顔を見合わせる。


「うん、だって翼、平日の昼前っから特に仕事する訳でもなくタバコ吸ったりダラダラしたりだし」


続けて話す日和の言葉に西園寺と琴音の視線が俺へと向かうが、俺はバッと顔を背けた。


「だから私、翼のお世話して養ってあげようと思って」


キラキラとした表情で、日和はそう語る。


「えと…、ごめん、翠ちゃん、私、日和ちゃんが何言ってるのかわからないよ」


「…どうやら彼女、ダメ男に惚れるタイプのようですね」


「 」


ごめん、もう言葉が出てきません。


え?じゃあ手紙にあった周りの男子には無い魅力ってなんなの…?


「クラスの男子達はみんな、自分の事は自分でやる人ばかりなんだけど、なんだか一緒に居ても詰まんなくて、そこで始めて翼を見てこの人だ!!って確信したの」


「 」


確信されちゃったよ…。


「えぇと…、日和ちゃん、翼さん、…って、もういいかな、店長は一応、仕事、してますよ、ここ、店長のお店ですし」


よ…、よし、さすが琴音、ナイスフォローだ。


「え?でもいつも覗いたら机の上でボーッとしてるかタバコ吸ってるか、たまに寝てたりしてるけど」


「あ…、あはは」


「…あなたって人は」


曖昧に笑って誤魔化す琴音と、俺の事を呆れて見つめる西園寺。


「だから翼、安心して私にお世話されて良いんだよ」


そこには、天使のような笑みで可愛く微笑む、小学生女子が居た。


同時にその小学生女子にダメ男認定を頂いた、二十歳過ぎのおっさんも居る。


…もう、良いよね、俺、我慢しなくて良いよね?


「琴音…、西園寺、俺、ちょっと外走ってくる」


フラフラの身体を何とか支え、俺は立ち上がると店の入り口におぼつかない足取りで向かう。


「…あはは、その、いってらっしゃい、です」


「気が済むまで走ってくると良いですよ」


今の俺はどんな顔をしているのだろう、二人の表情を見るとだいたい察しはつくが、知りたくは無い。


二人に見送られ、俺は店から外に飛び出すと全速力で駆け出した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」


もう…日が沈みかけた夕暮れ時を俺は全速力でただただ、叫びながら駆け抜ける。


額に流れる液体は…きっと涙じゃなくて汗だ、うん、きっとそう。


こうして、少女の恋はどうしようもない悲劇を産んだのであった。





















ーーー


ーー



「…翼の今の顔、凄く可愛かった」


(この娘もなかなか良い性格してますね…)




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