第24話:近未来の小学生 デート編 そのに
…どうしてこうなった?
日曜日の昼下がり、普段ならば店であまり来ない客を待ちつつ、緩やかに過ごしているはずが、俺は今、服屋の中にいる。
それも女性物コーナー、更に付け加えるなら若者向けの店だ。
あ、流石に下着コーナーって訳ではないよ、まぁ例え下着コーナーじゃなくても若者向けの女性服コーナーに俺みたいな奴が居ると目立って仕方ないが。
しかもダメ男作戦のお陰でだらしなさ全開の格好だ、最悪、不審者にも思われる。
さて、そんなコーナーで俺が何をしているかっていうと…、なんもしてない。
女性物の服を手にとって見る事なんて出来ず、完全に手持ちぶさたでさっきからうろうろうろうろしている。
「朝河さんにはこの服が似合うんじゃないかしら」
「はい、私もそう思います」
「ん~…でも、少し派手かなぁって」
「今の服も似合ってますけど…、ちょっと古いといいますか、昔の人、みたいです」
「うっ…、日和ちゃんみたいな小学生から見てもそうなの!?」
そんな俺をほぼ放置して、西園寺、琴音、柚原の三人はガールズトークに華を咲かせていた。
コイツら仲良くなるの早すぎだろ、これ、俺必要無いんじゃないか?
つーか設定的に現在、琴音と西園寺は俺の彼女のはずなんだけど、忘れてるだろ、コイツら。
三人はわいわい騒ぎながら店内に備え付けられたモニターを覗いている。
モニターには現在、琴音の姿が映っており、柚原と西園寺がモニターの中の琴音に色々な服を着せて琴音の反応を聞いていた。
俺はあまりオシャレ(笑)とかに興味ないけどこのシステムはなかなか画期的なものだとは思う。
こうしてモニターの中の自分をコーディネートする事で客観的に自分の服装を見る事が出来るし、いちいち試着する必要も無い。
あと、値段の合計金額がしっかりと画面に出るのが素晴らしい、服とか無駄に高いし、これを見て現実に引き戻されて買うのを断念できる。
「てんち…、翼さんはどう思いますか」
「…へ?何が」
あんまりにもやる事が無かった為、ぼーっとそんな事を考えていたもんだから突然琴音に声をかけられてすぐに反応出来なかった。
「何が…じゃないですよ、デートの最中なんですから、ぼーっとしないで下さい」
西園寺が呆れながら言ってくるが、いや、俺を放置して三人で楽しんでたのはお前らだからな…、そりゃぼーっとくらいするわ。
「日和ちゃんと翠ちゃんが私の格好をコーディネートしてくれたんです、それで…、えと、似合ってますか?」
そう言うと恐る恐る、琴音はモニターを手渡してくる。
そこには今着ているパーカーにスカート姿では無くて、今時の女子高生よろしくな格好だ。
「………」
正直言って悪くない、つーか普通に似合ってんな、普段見慣れていない格好ってのが大きいんだろうが。
「いや、まぁ…、良いんじゃないか?」
今日の日のお礼…、にでも買ってやるか、こいつだって年頃の女の子の訳だしな。
等と年上ぶって背伸びしようもするがモニターに映し出された値段の合計金額を見て唖然とした。
完全に予算オーバー、というより予算そのものが限り無く無いに等しいんだけどね。
「ただまぁ、琴音らしさがあんまり感じないな、俺は普段通りの琴音の格好も結構好きだぞ、うちの店の雰囲気にもあってるしな」
予算…なんて大人の事情を伝える訳にもいかないので、ここはそんな感じの当たり障りの無い返事で答えを返しておく、別段、まるっきり嘘という訳でも無いし。
「そ、そうですか、ありがとうございます」
頬を少し赤くしながら嬉しそうに笑顔で答える琴音、その眩しさに多少の罪悪感。
まぁ…、近々まとまったお金でも入れば…、うん。
ーーー
ーー
ー
服屋での買い物、と言っても何も買ってはいないが、それを終えて店から出るとそこにはクレープ屋の移動販売があった。
店に入る前から気にはなってたんだが、服屋で金を使わせた客を更に取り込もうとするとはなかなか商売逞しい。
「このクレープ屋さん、まだやってるんですね」
女子三人もやはり女の子、目の前の甘いクレープ屋の事はおそらく、俺以上に気になっていたんだろう。
しかしクレープか…、ふむ、そのくらいなら、まぁ、良いだろう。
値段も先程の服とかに比べると全然現実的だしな…、はっ!こうやって金銭感覚を麻痺させて売り込む作戦か!?
だったらうちの駄菓子屋なんか特にこの作戦狙えるんじゃないか?さっきの服一着でうちの駄菓子屋でどんだけ豪遊出来ると思ってんだよ。
「…クレープ、食ってくか」
結局、店で何も買ってやれなかった罪悪感からか、そんな言葉を口にしてしまう。
「あ!食べたいです!クレープ!!」
真っ先に琴音が元気良く返事を返す、おーい、趣旨忘れてないかーい?
「良いの?翼」
「良いの良いの、なんか甘いもんでも食いたい気分だったしな」
心配そうな柚原にそう返して俺はニヤリと微笑んでやる。
「あぁ、クレープ代の事なら心配するな、流石に小学生に払わせんさ」
さて、ここで高屋敷 翼のダメ男作戦、その5だ。
「と、言うわけだ、クレープ代は任せたぞ、西園寺」
名付けて…女子にお金を支払って貰う、超ひもひも作戦だ、現実でやるのだけは絶対に控えよう。
「はぁ…、まったく、あなたという人は」
西園寺が呆れながらも財布をしっかり取り出してくれる。
…俺の財布を。
いやですね、流石に俺だってそこまで最低のクズじゃないですよ、事前に俺の財布を西園寺に持たせておいたのだ。
理由?セレブなんだし、基本人に何か奢っても違和感なさそうだし(偏見)
「え?自分の分くらい自分で出すけど」
突然のそんなやり取りに柚原は少し怒ったように慌てて自分の財布を取りだそうとした。
ほぅ、小学生扱いされて怒るとは、大人びてるように見えてまだまだ子供だな。
だが、大人であら俺にもそこは大人としてのプライドがある、うわ~…、なんつー子供っぽい理由。
「良いから黙って奢られとけ、西園寺の事は知ってんだろ、西園寺コンツェルンのお嬢様だ、スーパーセレブだ、人に奢るのが趣味なんだよ、むしろコイツの前で金払うと失礼とか言ってキレるレベルだ」
「…そういう事なら、良いけど、ありがとうございます、西園寺さん」
西園寺 翠はテレビに出る程の有名人であり、柚原くらいの小学生の子供でも知っているくらいだ。
西園寺本人もその事をしっかりと理解しているので、今日の格好だって普段とは違い、帽子に眼鏡ときっちり変装して貰ってる。
柚原にもキチンと口止めはしておいた、まぁ大人びたコイツだ、そこら辺の約束は守るだろう。
「つー訳で好きなもんを選べ、ほら琴音も」
「私も良いんですか!?」
俺の財布事情を把握している琴音からすれば少し驚いた様子だが…、四人分のクレープ代くらい賄えん程度には落ちぶれていないつもりだ。
柚原と琴音がクレープのメニュー表を眺めてどうしょうかとあれこれ悩んでいるのを見て、さぁ俺もとメニュー表に向かおうとすると脇腹をちょんちょんと叩かれた。
「…高屋敷さん」
見ると西園寺がすっごい笑顔で俺を見ている、それはもう、すっごい笑顔。
でも目は笑ってないのよね、不思議!?
「それで、私は一体何キャラなんですか?」
「いや、金持ちセレブキャラに反せず考えた結果だが」
「私は自分の裕福さに鼻をかけて他人に奢らされる事を強要した覚えはありませんが?」
やっぱりと言いますか、さっきの俺と柚原のやり取りに怒りMAXなご様子で…。
「いや、悪かったよ…、つーか、結果的に奢ってんのは俺だからね?お前くらいは遠慮して自分の分くらい自分で払ってくれると大助かりなんだが」
クレープ代くらい安いもんでしょうに…、いや、本当に助かるんですけど。
「嫌です、先程の仕返しにせめて、メニューの中でなるべく高いのでもチョイスしてあげますから」
「なかなかに手厳しいな…」
先程の目の笑ってない笑みから一転して、そう悪戯っぽく笑うと西園寺もメニュー表へと向かう。
さて、俺も何にするか決めるかとメニュー表に向かおうとすら、個人的にクレープはアイス入れが好きなんだが、あれって食うのめんどいんだよなぁ…。
「…ん?」
とか思っているとポケットの中で携帯が震えてるのを感じた、三人にバレないように画面を確認すると俺はそのままひっそりとその場から移動する。
ようやく来たか…、最終兵器。
ーーー
ーー
ー
「おいおい、休日の真っ昼間に人をこんな所に呼び出しておいて自分は女の子に囲まれてるとか何のつもりだよ、お前、それを俺に見せ付けたかったのか?」
「いや、そんなつもりは微塵も無いし、休みの日にわざわざ出向いて貰った事については感謝してる、いやマジで、だがなぁ…蜂須賀」
はい、最終兵器、蜂須賀です、はいそこー、ガッカリしない、あと誰?とか言わない、本人が聞いたら泣いちゃうぞ。
蜂須賀 兼治、俺の昔からの馴染みでうちの駄菓子屋の商品を生産してる工場主、でも工場で主に作ってるのはアニメ系のフィギュアである、むしろ本人よりフィギュアの方が活躍してるくらい。
「…その格好はなんだ?」
まぁ蜂須賀の事はどうでも良い、いやマジで、どうでも良いけど。
「なんだとはなんだ?お前が悪そうな格好で此処に来いって呼び出したんだぞ」
イライラしているのか、不満を露にしている蜂須賀ではあるが、イライラに関して言えば俺の方が数段は上だ。
今の蜂須賀の格好は…どこぞの病院服に松葉杖、どっから持ち出したのか、点滴みたいなもんまで付けている。
どこをどう見ても重傷患者です。
「悪いのはお前の頭だ!誰が具合の悪そうな格好で来いっつったよ!!」
俺の考えてた最終兵器、蜂須賀を使っての作戦とは、見た目ヤンキーなチャラい、悪そうな格好の蜂須賀に絡まれて俺が逃げ出す、超ダメ男作戦だったのだが。
今のコイツの格好で全てがパーだ、コイツの頭くらいにはパーだ。
「つーかよく病院服やら点滴やら持ってたな、そこに関心するわ」
「あぁこれか?フィギュアの小道具に使ってたやつをわざわざ用意してやったんだぞ」
今日日、アニメキャラの小道具ってなんでも揃うのな、コイツのそこら辺の情熱は素晴らしいとは思う。
「…はぁ」
さて、どうするか?…どうするかも何も、作戦の変更のしようが無い。
俺は蜂須賀に現在の状況と俺の考えてた作戦を簡潔に伝えた。
「…なるほど、状況はわかった、とりあえず死ね!!」
「なんでだよ!!」
作戦説明後、開口一番にそう告げられる。
「女子小学生に告白されて、そのまま三人デートだと…、この状況を死ねと言わずなんと言う」
「お前な…、話し聞いてたか、もれなく全員年下で手なんか出したら即逮捕だぞ、俺に何の得があんだよ」
本当にそれ、お陰で休日は潰れるわ、金は使うわだし。
「つまり、お前のそのハーレムデートを邪魔すりゃ良いんだな?」
「お、おぅ」
しかし蜂須賀のヤル気には充分繋がってくれたようで、俺は一安心した。
「お前向けの仕事だろ、そういうの、得意そうだし」
「あぁ!そうだな!!」
ほら、然り気無く貶しても本人は全く気付いてないくらいだし。
「だけど約束はちゃんと守れよ」
「へぃへぃ、飯だろ、今度ちゃんと奢ってやるから」
ちなみに、蜂須賀には飯奢り三回分で手を打って貰ってる、くぅ…、また無駄な出費が。
「わかってるとは思うが、あんまり高いのは無理だぞ」
「わかってるわかってる、手始めに最初はラーメンで良いよ、最近、また美味い店見つけたしな」
「お前、よくあんなの食うな…」
俺はあんまり…、と言うか、ラーメンは嫌いである、それも好んで食う人の気が知れんレベル。
「…そこ、つけ麺も結構イケるらしいぞ」
「お!マジか!良いよ良いよー、今度是非とも食いに行くぞ」
ちなみに好物はつけ麺である、…何か?
しかしラーメンね、女子連中三人に甘い甘いクレープを奢った直後にこれだもんな、服とか流石に買ってはやれなかったけど。
いやー、男の子って分かりやすい、ラーメンに野菜どっかん乗してニンニクどっかん乗して、チャーシューどっかんさせればそれで満足だもんな。
あら、男の子の方が金かかるんじゃないの?これ?