第22話:近未来の小学生 作戦パート
ロリコンは病気である。
いや、第一文から失礼してんな…、頭ごなしにいきなりこんな事言うのはさすがに失礼だろうし、ちょっと調べてみるか。
えーと…なになに?
ロリコンとは…、ロリータコンプレックスの略として、少女、幼女に対して恋愛感情や性的趣向を持つこと…らしい。
やっぱ病気!つーか犯罪じゃねーか!!
悲しきかな、この現代においてロリコンは中々に数が多いらしい。
一説では女性に自信の無い男性が自分より力、立場の弱い事を理由で少女、または幼女を好きになっちゃったりする…という話しもある。
おいおい…、小学生を舐めちゃいけねーぞ、あいつら、虫とか平気で残酷に殺しちゃうからな。
同じ理由でロリコンも簡単にやられるぞ…、え?だって虫もロリコンも社会的に見れば同じ地位じゃないの?
なんつーか…、俺には到底理解出来んな…、ガキ相手に何が出来るってんだ?
あいつらには!おっぱいが!無い!!
…いや、例えおっぱいあっても手なんて出さんげどさ、結局の所、ガキはどこまでいってもガキなのだ。
例え…、自分に好意を持たれた所で、それら結局、ガキのままごとの延長線に過ぎない。
恋愛感情と呼ぶよりは歳上に対する憧れなのだろう。
だから少女の恋が成就する事はあり得ない、としっかりと否定しておく。
…だって俺、ロリコンじゃないし。
もう一度言っとこうか。
ロリコンは病気である、と。
ーーー
ーー
ー
「…同級生の男の子には無いあなたの魅力に一目見た瞬間、好きになりました。私と付き合って下さい、今週末、駅前広場であなたの返事を待ってます、時間と詳しい場所はーーー」
「…はぁ、もう良い、もう良いから」
溜め息混じりに手紙を読み進める琴音に待ったをかけた。
「店長が読めって無理矢理渡してきたんじゃないですか…」
琴音からすれば他人の…、しかも小学生の恋文の中身を読むのに抵抗があるのだろうが、元問題は俺一人の手には余るので相談もかねて読んでもらった。
「…それにしても驚きましたね、あの娘、まさかあなたに好意を持っていたなんて」
「でも…、言われて見れば確かに、店というよりも店長の事を見ていた感じですね」
「良かったじゃないですか、可愛らしい女の子に好かれて」
「勘弁してくれ…」
あれが恋する少女の熱視線、とかいうやつなんだろうか。
小学生にそんなもの送られた所で二十歳越えた俺の感想は正に勘弁してくれだ。
「しかし…どうにも理解出来ませんね、平日の真っ昼間からぐうたらしているあなたのどこに好きになる要素があるのか、将来、ダメな男に引っ掛からなければいいのですが」
「おい、そりゃあ俺がダメな男って意味か?手紙を読むとあのガキの周りの男の中で誰よりも魅力的らしいんだぞ、俺」
「小学生相手に勝ち誇らないで下さい…、みっともない」
呆れるようにそう呟く西園寺、いや、全くもって正論である。
「それで…どうするつもりですか?ロリ屋敷さん」
「謝れ!全国の高屋敷さん達に謝れ!!」
つーかなんだよ、ロリ屋敷って、猫屋敷みたいな感じでロリが集まってくんの?なにそのロリコンホイホイ。
「どうするもなにも…、相手は小学生のガキだぞ?無視すんのが一番…」
「「それはダメ(です)!!」」
言いかけるや二人して同時に否定してくる。
「仮にあなたがこの手紙を無視したとすると…、待ち合わせ場所であなたを待つあの娘はどうするんですか?」
「きっと…店長が来るのをずっと待ってますよ、小学生の小さな子供が、ですよ?」
「あの娘がどんな思いでこの手紙をあなたに渡したのか、少しは考えて下さい」
「きっと毎日来ていたのだって渡そうにも渡せなかったんですよ、そんな彼女の思いを無視するんですか!?」
二人して交互に矢継ぎ早に左右からステレオで非難の言葉を浴びてしまった…。
「じゃあ何?あの小学生と本当に付き合えってのか」
「通報しますね」
「対応早すぎんだろ…、冗談だ、冗談」
だからその携帯早くしまってね…、言ってなかったけどこいつ、冒頭からずっと携帯手に持ってスタンバってるからな。
「だってなぁ…、正面きって断って泣かれてみろ、それだって知らん人が見れば小学生の女の子泣かせた大人だぜ」
付き合えば通報、断れば社会的な死亡…、つーか下手すれば通報、かと言って無視するのもこの二人が言うように気が引ける。
あれ?これって詰んでね?
「だから…、そうならない為にはどうするか考えて下さい」
「店長だってその為に私達に相談してきたんでしょう?」
「まぁ…な、一応、考えはもうある」
あるにはあるが…、実の所、それはあんまり実行には移したくは無いのが本音なんだが。
「え?どうするつもりなんですか?」
驚く琴音を正面からじっと、彼女の質問に答える事無く見つめた。
「あ、あの…店長?」
俺に見つめられた琴音は気恥ずかしさからか、オロオロとしつつ、視線を俺から外した。
「琴音!!」
「ひ、ひゃい!!」
すさかず、俺は彼女の名前を強く呼ぶとその肩を掴む。
「俺と…付き合ってくれ」
「…へ?」
「な!!」
俺の言った言葉が理解出来ていないのか、思考が追い付いていない琴音と、西園寺がその俺の告白にすぐさま携帯を取り出す、つーかそのネタはもう勘弁して下さい。
「あ、えと…、いきなりそんな事言われても心の準備がまだ…、いえ、決して嫌な訳では無くて、もっとその…」
「こっちがどうにもなんないなら、向こうから諦めてもらうのが一番だろ?」
「え?」
「ん?」
続けて作戦の説明をしようとする俺にキョトンとした顔をした琴音に、俺もキョトンとなった。
「なるほど…、こちらには朝河さんが居るから付き合えない、つまり、恋人のふりをして諦めてもらう…と?」
西園寺が俺の作戦を把握してくれたのか、そう付け加えてくれる、いや、話しが早くて助かるね。
「まぁそんな所だ、正直、琴音でも年齢的には完全にアウトなんだが、まぁ小学生のガキよりは全然マシだろ」
他に急に用意出来そうな女の知り合い…なんてのも居ないしな。
「………」
俺と西園寺が会話を続ける中、琴音は一人取り残されたかのようにポカンと口を広げていた。
「ん?どうした、琴音」
「なんでもありませんよー…」
拗ねたようにプィッと顔を背けると、琴音はチラッと目線だけはこちらによこした。
あれー?ちょっと怒ってらっしゃる、不味いぞ、琴音に断られてはこの作戦は成立しない。
「…駄目か?」
「…別に良いですけど、私も、小学生の女の子に悲しい思いはさせたくありませんし」
う、うーむ、言葉に若干の棘は感じるが、どうやら了承してくれるようだ。
「でも…、それであの娘が簡単に諦めますかね?あなたと朝河さんがいつも一緒なのはあの女の子も知っているのでしょう?」
「そりゃあ…ここ最近毎日店ん中覗かれてたからな」
さすがに一緒に住んでるかまでは知らないと思うが。
「それを知っていて、それでも尚、恋文をあなたに渡したのですから、彼女にもそれなりの覚悟があるのでしょう、その恋心を簡単に諦めるとは思えませんが…」
「恋心を諦める…?何言ってんだ西園寺、諦めてもらうのは恋心じゃない、俺だ」
俺は溜め息混じりに先ほど琴音にやったのと同じように、今度は西園寺へと向き合う。
「頼みがある、西園寺、俺と付き合ってくれ」
「…はい?」
「…店長?」
堂々とした恋人のふり二股宣言、これには流石のお二方も訳がわからないと俺を見る。
「な!?ど、どうして私があなたなんかと!!大体、恋人のふりは朝河さんとやるのでしょう!?」
「まぁ聞け、琴音と恋人のふりをしても今お前が言った通りあのガキがすぐに諦めるとは思えんし、そんな付け焼き刃はすぐにボロが出るしずっと続けてはいられん」
長期戦になればなるほど、いずれは引っ込みがつかなくなる、ならば短期決戦が理想的だろう。
「だからな、こう思わせれば良い、俺が平気で二股するような最低なクズ野郎だってな」
手紙の文面を読むに、あのガキが俺に惚れた理由は単なる一目惚れだ、恋心…というよりは歳上に対する憧れの方が強いかもしれない。
ならばその憧れを、幻想を潰してしまえば百年の恋も一瞬で冷めるというものだ。
「他にも徹底的にクズ野郎を演じてやればあの年頃のガキだ、すぐに俺への興味なんて無くなる」
「でも…、それだと店長、今度は店長があの娘に嫌われちゃいますよ」
「いや、今まで接点も無かった、今日初めて喋ったくらいのガキに何を思われてもなんのダメージも無いし」
心配そうな顔で俺を見る琴音を安心させるように、鼻で軽く笑ってやる。
「んで、西園寺、今週末だけで良い、引き受けてくれないか?」
「…まぁ、あなたには借りもありますし、その日一日くらいなら、構いませんが」
良かった、これで作戦通り、なんとかなりそうだ、俺は安堵の溜め息をつくと西園寺に向き合う。
「いや、悪いな、お前だって忙しいだろうに」
「ですが高屋敷さん、クズ野郎なら演じる必要なんてありませんよ、もっとありのままの自分を信じて下さい、少しも怖くないですから」
「いや、お前の今の笑顔が一番怖いんだけど、つーかそんな自信あってたまるか」
かくして、俺、琴音、西園寺の一日限りの二股恋人デート作戦が決定した。
「………」
「………」
「…何?この空気、つーか二人共、心無しかさっきから俺に厳しくないか?」
「…別に」
「店長の気のせいじゃないですか?」
正直、不安でしか無い…。