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第21話:近未来の小学生

最近…何やらジーっと視線を感じる。


いや、これは俺の勘違いでもなんでもなく、現在進行形でその視線は続いている。


その視線、誰の視線?


「………」


幼女の視線。


「あの…、あの娘、さっきからああやってじっと店の中を覗いているみたいなんですが」


その視線には俺だけでなく、琴音はもちろんの事、初めてそれを感じたであろう西園寺の奴もすぐに気付いたようだ。


まぁ…、それもそのはず。


さっきからずっと、一人の少女が店の外から店内を眺め続けている。


店の扉から顔だけだして店内を覗くその仕草を見ると本人からすれば隠れているつもりなんだろうが、見られている側からすればバレバレだ。


年はパッと見て小学校の高学年くらいだろうか、学校の帰りなのだろう、制服にランドセルを背負っている。


「うん…、ここ最近、この時間帯にいつも来てるんだけど」


俺の代わりに西園寺の疑問に答えたのは琴音だった。


「なら…、声でもかけてみたらどうなんですか?もしかしたらお客様かもしれませんよ」


「おい、もしかしたらってなんだよ、駄菓子屋にあの年頃のガキが客として来るのって普通だろ?」


「あら?お客様なら自分から店内に入ってくると思いますけど」


西園寺の言うことはまさにその通りでその少女、店内を覗きには来る癖して店の中には入ろうとしない。


こちらからすれば迷惑この上無い、店の駐車場に車が来たと思ったら単なるUターンに使われただけ…、みたいな気分だ。


「うーん…、それが私が声をかけても逃げちゃうんですよ、あの娘」


「あら…、そうなんですか?」


そうなんです。


さすがにあぁやって店内をジーっと凝視され続けられるのもアレなんで琴音が声をかけてみた所、少女は慌てふためきながら逃げてってしまった。


「そういう訳で…西園寺、お前に任せた」


「…なぜ私が?ここはあなたのお店でしょう?」


最もな意見だ、普通ならばこんな事、客(本人は否定するだろうが)である西園寺に頼む事では無いだろう。


「まぁ聞け、西園寺、俺があの小学校のガキに声をかけたとする…」


「とりあえず警察に通報しときますね」


「早ぇよ!?声かけただけでもダメなの!?」


それが今のご時世はダメなのだ、いや、なんもしないよ?当たり前だが。


「ま、まぁ…、お前が考えてる通りだよ、最悪、防犯ブザーでも鳴らされちゃそれこそ警察がすっ飛んでくる」


何せ最近の防犯ブザーは発動すると警察の方にも自動的に連絡が行き、その位置もわかるようになっているので本当にすっ飛んでくる。


大人の男が見知らぬ少女に声をかけただけで犯罪扱いになる世の中だ、ここは慎重にいかねばなるまい。


つーか…大人の男の扱い酷くね?仮にだけど迷子のお子さんとか居ても無視した方が良いのかね、これ?


まったく…、誰のせいで大人の男はここまで肩身の狭い思いをせにゃならんのか…、あ、大人の男のせいか。


同じ理由で海燕さんも駄目だ、つーか、あの人の場合、声かけどうこうよりその雰囲気で子供はビビって逃げ出すだろう。


アルファはロボットだし、やはり適任なのは西園寺くらいだろう。


「つー訳で頼んだ、西園寺」


「はぁ…、仕方ありませんね」


西園寺の方もその事がよくわかっているのか、それ以上反論する事はせず、立ち上がると少女の方に向かう。


「……!」


少女は西園寺が自分の方に向かって来た事に驚いたのか、ビックリしている。


「あの…、このお店に何かご用でも?」


「えと…、その…、すいません!!」


西園寺が声をかけると少女はオロオロと慌てながら頭だけ下げるとピューっと駆け足に逃げていってしまった。


「…え?ち、ちょっと!!」


まさに西園寺がそれ以上声をかける事ができないくらいのその早さに残された西園寺は茫然とその場に立ち尽くす。


「…え、えと」


そしてとぼとぼと足取り重く戻ってくると元居た席に座り直した。


「子供に声かけて逃げられてしまうのって…かなりショックなものですね」


うわ…、落ち込んでる、うん、気持ちはわかるよ。


「だ、大丈夫だよ、翠ちゃん!私だって似たようなものだったし!!」


横で琴音がフォローを入れる事ですこしは落ち着いたのか、西園寺は沈んでいた顔をあげた。


「でもあの娘…、このお店に何か用でもあるんですかね」


「さぁ…、まぁ、ちょっとは想像つくけどな」


「…なんですか?想像って」


「こんだけ古くて周りから浮いた建物なんだ、あの年頃のガキからすれば興味深かったりすんじゃねーの?」


子供ってのは好奇心旺盛なもので、たとえば近くに古い洋館とかあったら肝試し感覚で侵入しかねない。


うわ…、うちの店って肝試しレベルなんだろうか?


「う~ん…、でも、あの娘の様子、そんな風には感じなかったんだけどなぁ」


琴音はイマイチ納得がいっていないのか、腕を組みつつうんうんとうねっている。


「?、何がだよ」


「気付いてなかったんですか、店長、あの娘、興味津々っていうより、なんだかボーっと見てるって感じがして」


???、さっぱりわからん。


「まぁ…、あのガキには今後叱るべき対応を取るとするか、こうも毎日、店先に張られてちゃ迷惑だからな」


ちなみに今のは叱るべき対応と叱るをかけた高度なギャグだ、うん、誰もわからんよね。


「つまらない言葉遊びですね」


俺が心の中でにやついていたら西園寺にばっさりとそう切り捨てられた、あっるぇー?気付かれた?


「叱るべき対応ですか…、あなたが捕まった時にはこの土地は私が有効に活用しますので、安心してくださいね」


「お前、俺がいったい何すると思ってんの?相手はまだ小学生のガキだぞ」


そこまでキツい事はやらんつもりだし、精々厳重注意くらいにしておくつもりだ。


「小学生の小さな子供だから心配なんでしょう」


「お前は俺をとことんロリコンに仕立てあげたいつもりだな…」


駄菓子屋なんて商売をやってはいるが、別に小さな子供目当てでやってる訳じゃない、つーかそれ目当てでやってたら普通に犯罪だし、最低なグズじゃねーか。


「はぁ、ちょっとタバコでも吸ってくるわ、琴音、ちょっと頼むわ」


あの小学生の一件には俺もだいぶ頭が痛いのだが、今日は西園寺が居るおかげでことさらに俺の疲労感はMAXだ。


まったく…、タバコでも吸わにゃやっとれん。


「はい、了解ですよー」


「って…、サボりじゃないんですか、それ」


「違う、休憩だ」


ジトーとした目を向けてくる西園寺を無視して俺は一服するべく、店の裏口に向かう。


「まったく…、朝河さんも甘やかしすぎなんじゃないんですか?」


「あはは…」


後ろで西園寺と琴音がそんな会話を続けていたが俺はまったく気にしない。


というかこの店のオーナーは俺だし、多少サボってもオーナー権限だ。


いや、さ、サボりじゃないからね、休憩、休憩なんだから。




























ーーー


ーー



「ふぅ…」


タバコを加え、ライターで火を灯すとぷかぷかと紫煙を漂わせる。


あぁ!ニコチンが、ニコチンが身体中に染み渡っていく!!


店を裏口から外に出た所には俺専用の喫煙スペースがキチンと設備されている。


俺専用…といえば聞こえはいいが、実質、琴音がタバコを吸うわけが無いのでここを使うのは俺だけだ。


加えるならば喫煙スペースといったその場所は灰皿と粗末な椅子が置いてあるだけなんだけど。


まぁ店の中で吸う訳にはいかんので仕事中は大抵、ここでタバコを吸っているのでこんな場所でも中々と愛着は沸いている。


…外だけどね、雨とか雪降ると本当に寒い、屋根はあるがそんな問題じゃない。


「ふーっ…」


タバコを吸いつつ、ボーっと庭を眺めている。


特に野菜や花が植えてある訳でも無い(世話とか面倒だろうし)、雑草が育ち放題な無駄に広い庭を眺めていると…。


「………」


「………」


ふと、目があった。


誰に?と言われればそれは琴音でも西園寺でもなく、現在、話しの中心人物であろう、あの少女。


先程、店先にて店内をジーっと見つめていた、その少女と目があったのだ。


といっても彼女が庭の中に居る訳では無い。


我が高屋敷の土地をグルリと囲む塀、少女はその塀の上からちょこんと顔だけ出して俺を見つめている。


その少女の身長が塀よりも高い…、なんて事は当然無いだろうし、何か、足場でも作ってその上にでも乗っているのだろう。


さて、しかしこれは困った、非常に困ったぞ。


店先から覗くくらいであれば先程のように琴音か、西園寺にでも対応させれば良かったんだが、こうやって家の敷地内を覗かれてはそうもいかない。


だいたい、今、この場には俺しか居ないのだ、琴音も西園寺も海燕さんもアルファも店の中だし、琴音を呼んで対応させた所でいつものように逃げられてしまうだろう。


「はぁ…、ったく」


溜め息をついて一気に煙を吐き出すと、まだつけたばかりのタバコを消火する為に用意しておいた水につける。


やっぱり、俺が行くしかない…か。


まぁ、いずれどうにかするつもりだったんだし、それが少し早くなっただけだ、俺はゆっくりと、警戒させないように少女に近付く。


「…ぁ」


少女もそれに気付いたのか、しかし、逃げ出す様子は無い、ほぅ…、良い度胸だ。


「おい、何のつもりかは知らんけど用があるならちゃんと店の方に…」


「あ、あの!」


注意するつもりでかけた声は少女の方の声で遮られてしまった。


どうやら逃げるつもりは無いらしい、だが、その代わりに少女はごそごそと何やら取り出そうとしていた。


あ…、ヤバい、ヤバいぞ!あれは伝家の宝刀、防犯ブザー!?


「あ!あの、すんません!通報とか、本当勘弁して下さい」


思わず敬語になってしまうくらいには、今の大人の男には防犯ブザーは弱点なのだ。


「これ、読んで…」


だが少女が取り出したのは防犯ブザーでは無く、一通の手紙だった。


「へ?あ、あぁ…」


とりあえずの安堵感から、言われたままに手紙を受け取る。


「私…日和、柚原(ゆのはら) 日和(ひより)、名前は?」


「名前…?」


えーと…、何?突然の事で全然頭が回らないんだけど?


「名前、教えて」


「高屋敷…翼、だけど?」


「高屋敷 翼…、うん、覚えた」


少女…、日和はコクコクと何度か頷くと。


「私と付き合って下さい、詳しい事はその手紙に書いてあります」


顔を真っ赤にしてそれだけ告げるとぷぃっと顔を背けてジャンプするとまた駆け足に逃げていってしまった。


「………」


え?


えぇ…?


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」


後に取り残された俺はただ一人、絶叫するしかなかった。

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