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第19話:近未来のべっこう飴

「さて…、ではでは、作っちゃいましょうか、べっこう飴!!」


「いや…、作るって…、無理に決まってんだろ」


琴音の一声に俺は疑いを持ちつつも我が家の台所に立った。


「だいたい何だよ、そのべっこう…飴?ってのは」


「べっこう飴ですよ、店長が話してくれた透き通る黄金色の飴、話しを聞くとべっこう飴に間違いありません」


自信満々にそう答えるのはエプロンを付けて髪を結んだ琴音さんである。


「まぁ…百歩譲って俺が昔舐めた飴がそのべっこう飴だったとしよう、だけど作るってのどういう事だ?」


飴を専用の設備も道具も無い一般家庭…の中でも抜群にオンボロな我が家が作れるとは思えない。


「大丈夫ですよ、凄く簡単なので」


「って、言うけどな…」


「とにかく、朝河さんの言う通りにしてみたらどうですか?」


「まぁ…、そうだな」


半信半疑ながらも西園寺に言われてとりあえず琴音の話しを聞いてみる事にする。


「…つーか、お前らまで何でここに居るんだよ」


そう、俺の横では琴音からエプロンを受け取った西園寺とお付きメイドロボ、アルファが居る。


おかげでただでさえ狭い台所がことさらに窮屈だった。


「い、良いじゃないですか!私だって気になるんですから!!」


『私は新たなレシピを得る事で料理プログラムのバージョンアップをしたいと』


「まぁ、好きにすれば良いけどさ…」


さっきまではそんな飴は存在しないとか言ってた癖に…。


「しかし、もっと汚いかと思いましたが…、意外と綺麗なキッチンですね、設備は古臭いですけど」


初めてうちの台所を見た西園寺が素直に感想をのべる。


「一言余計だ、まっ…、とーぜんだろ」


「何であなたが偉そうなんですか…、琴音さんの使い方が良いのでしょう」


「はぁ?何言ってんだ、この台所は基本、俺しか使わんぞ」


「…え?」


意外そうな顔でクルリと俺の方を向く西園寺、え?そんなに意外なの?


「あぁ、そういや知らんだろうが琴音の奴、壊滅的な料理下手だぞ」


「えぇ!?」


「ち、違います!!」


俺のその言葉に驚きを隠せない西園寺とすぐさま会話に入って琴音が否定してくる。


「私は料理下手ではありません!むしろ得意な方です!!」


「アホ、焼き物は焦がす、煮物は煮ない、これのどこが料理上手だ」


主張する琴音の額にペチンと手刀をかましてやる。


いや、本当、前に台所に立たせてみた時なんて本当に酷かった。


焦げて真っ黒になった魚、ポテトサラダみたいな肉じゃが、そんな料理を作り出した本人がよく言えたものだ。


「うぅ…、だって台所用品の使い方がわからないんですもん」


涙目になりながらも話す琴音曰く、料理下手ではなく、機械オンチの方が原因らしい。


まぁどっちにしろ料理を作れない…という結論に違いは無いが。


「えと…、では普段のご飯は誰が作ってるのですか?まさかずっと外食…とか?」


「んなもん、俺に決まってんだろ」


「あなだが…?」


だからそう意外そうにすんなよな…、そもそも琴音が来る前は俺一人だったんだし、料理くらいはしていたぞ。


「んで、まず何から始めれば良いんだ?」


なので料理関連は琴音は全くあてにできない以上、俺がそのべっこう飴とやらを作るしかない。


「あっ、はい、まずは材料の準備ですね」


「材料…材料、って、うちの台所に飴を作る材料なんてねーぞ」


「いえいえ、材料なら間違い無くこの場にあるものだけで作れますよ、まずは水を用意します」


言われた通りにとりあえず蛇口を捻ってコップに水を溜めた。


「ほい、水」


「はい、そしたらお砂糖を出して下さい」


砂糖ね、まぁ飴というからには必要になるとは思ってたが。


「ほれ、砂糖だ、次は何だ?」


「以上ですよ?」


「え?」


「え?」


俺と琴音はお互いに何言ってんだコイツみたいな顔で見合った。


「水と砂糖だけ…ですか?本当にそれだけで飴が作れるんですか?朝河さん」


「まぁ見てて下さい、店長、まずは火の用意をお願いします」


「俺がやるんだよね、いや、良いんだけど、お前にやらせるとまた何が起こるかわからんし」


頷いてコンロの前に立とうとすると琴音が酷く不機嫌な顔でコンロを指差した。


「と…言うかですよ!私は今だにこれがコンロだとは納得していませんからね!!」


「いや、コンロだろ」


「コンロですよ、少し古い型ですが」


俺と西園寺が同時に否定してやるが当の琴音はどうにも納得していない。


「だって…これ、ただの台じゃないですか!コンロっていうのはその、火の出る所があって、そこにフライパンや鍋を置いてですね…」


「何言ってんのか全然わからんぞ…」


まぁ良い、ぎゃーぎゃー騒ぐ琴音はほっといて、火を付けてしまおう。


スイッチを入れてコンロを起動させると台上にメニューが映し出された。


それを指でタップしていつでも調理が出来る状態にしておく。


「んで、使うのはフライパンか?鍋か?」


「…どちらでも構いません、んー…、そうですね、今回はフライパンにしましょうか」


「了解、フライパンな」


フライパンを適当に台の上に置くとメニューの加熱のところをタップした。


「後は火力なんだか…」


「中火くらいで大丈夫ですよ、…いつも思うんですが、熱くないんですか?もう加熱してるんですよね?」


「熱い?」


台上のメニューを指で操作して火力を調整しつつ、琴音の話しに俺は首を傾げる。


「だって台の上に置かれたフライパンを火にかけてるんですよね?なのにそのまま台の上でメニューの操作してますし」


『センサーがフライパンの位置を感知してその部分のみを加熱するのでその心配は無用です』


見かねたアルファが説明を付け加えてくれる。


「ふへー…、ハイテクですね」


どこがハイテクだよ…、結構古いぞ、このコンロ。


「んで…、次はどうすんだ?フライパン、もう充分暖まってるぞ」


「とと…、そうでした、それではフライパンに水と砂糖をぶちこんじゃって下さい」


「んなアバウトな…、分量とかどーすんの?」


「適当です、あ!でも割合的に砂糖を多めにして下さいね、じゃないと飴が固まらないので」


琴音さん琴音さん、それは料理得意な方の台詞とは思えないんですが。


「適当って一番困るんだけどなぁ…、レシピとかによくある適量とかさ、わざと曖昧に書いてんじゃないか、あれ」


あと計量カップ一杯分とか、ご家庭によって使ってる計量カップなんてマチマチなんじゃないの?


「皆の分を作ろうと思ったらどれくらいの分量かなんてわかりませんよ…、それに大事なのは砂糖と水の割合ですし」


「とりあえず砂糖多めな、どれ…」


水と砂糖を既に熱しられたフライパンに投入した。


「そしたら砂糖と水を混ぜながらしばらく加熱してて下さい」


フライパンで火にかけながら菜箸で砂糖と水をかき混ぜていく…。


すると最早砂糖水となったその液体の表面がぶつぶつと泡立っていった。


「…良い匂いですね」


西園寺がくんくんと鼻をきかせる、わかる、砂糖の焦げる匂いってなんか良いよな~。


砂糖水は沸騰を始め、グツグツと激しく弾け始めた。


「おいおい…、大丈夫なのか?これ」


「もう少し…、たぶんもう少しで色が変わっていくと思うんで」


「色…?」


琴音に言われて確認してみるとなるほど、砂糖水の色が変わっていくのがわかる。


と…言うか、その色は。


「…黄金色」


昔、ばぁさんがよくくれたあの飴の色と、よく似ていた。


「店長、あんまり加熱し過ぎると焦げて美味しくなくなっちゃいますよ」


「と、そうだな…」


とりあえず火を消して…と。


「さて、一応…、これで良いのか?つーか飴じゃないよな、これ」


フライパンの上で余熱で今だにぶくぶくとしているその砂糖水を転がす。


「まぁまぁ、慌てないで下さいよ、店長、このアルミカップにその加熱した砂糖水を入れて下さい」


琴音が台の上にアルミカップを次々と並べていく、ご丁寧にキチンと四人分だ。


その4つのアルミカップに言われた通りに砂糖水を均等に入れていった。


「固まる前につまようじを差してっと…、後は冷えるのを待つだけです」


「凍らせるのか?」


「いえ、そのまま置いといても良いですし、冷蔵庫に入れて10分くらい冷やしても大丈夫ですよ」


「10分か…」


さて、どうなる事か…、しかしただ待つだけの10分ってのもなかなかに退屈だが。


「朝河さん、冷えれば問題は無いのですか?」


「うん、後はべっこう飴が固まるのを待つだけだよ」


「そうですか…、アルファ」


『イエス、マスター』


西園寺が合図を送るとアルファが並べられたべっこう飴の前に立つ。


『冷却機能オン、対象の冷却を開始します』


そして手をかざすとべっこう飴の冷却を始めた。


冷却機能とかまでついてんのか…、便利だな~、メイドロボは。


「てか、今更だけどお前、飴とか舐めれんだろ」


『はい、私達ロボットは飲食を必要としません、べっこう飴のレシピデータは登録を完了しました』


「あ…、でもべっこう飴、4つ分作っちゃいましたよ」


「後で海燕さんにあげるか」


あの人も疲れてるだろうし、甘いものが必要だろう。


『…対象の固体化を確認しましまた、冷却を終了します』


「え?もうですか?」


『はい、朝河様、確認をお願いします』


「はい、ちょっと待ってて下さいね」


琴音がつまようじの部分を掴むとそれをひょいと持ち上げた。


するとしっかりと固まったその砂糖水…、いや、べっこう飴か、それもつまようじと共に持ち上がる。


「アルミカップをはがしてっと、はい、これでべっこう飴の完成です、どーですか?店長」


琴音がべっこう飴を光にかざすとそれは透き通った、黄金色に輝いた。


「…これだ、この色、俺が昔ばぁさんから貰った飴の色だ」


俺も既に固まったべっこう飴を一つ手に取るとペリペリとアルミカップをはがした。


しっかりと固まった透き通ったそれは正に飴となっている。


「本当に…、お家で飴が作れるんですね、これがべっこう飴、ですか」


西園寺の方も完成したべっこう飴をしげしげと眺めている。


さて、これで完成という事で、早速頂いてみるとしよう。


「…美味い」


甘くて美味しい、いや、砂糖を使ってんだから甘いのは当然なんだが、あんだけ簡単なのにしっかりと飴になってる事に何より驚きだ。


「えぇ…、これはなかなかに、良いですね」


西園寺の方も満足気に飴を口いっぱいにして頬張っている、


『どうですか?マスター』


「えぇ、気に入ったは、今度うちでも作ってちょうだい」


『かしこまりました、マスター』


「いやいや、飴くらい買えよ、金持ちなんだし」


それこそバケツ一杯にでも余裕で買えるんだろうよ、そんなにいらんけど。


「あら、アルファの料理スキルを甘く見ないで下さい、既存の飴よりももっと美味しい飴をアルファなら作れます」


「このロボコンさんめ…」


「なっ!違います、私はわが社のメイドロボに自信があるだけです!!」


「いや、もうバレてっからな」


まぁあんまり深くは追求しないけど、西園寺をからかうネタが出来た。


心の中でにやにやとしているとアルファがジッとこっちを見ている事に気付いた。


「…なんだ?」


『よろしければ高屋敷様の分もお作りしましょうか?』


「え?俺?」


『はい、次にお伺いした時にでも渡せますが』


ふむん…、確かにアルファの料理スキルには興味がある。


「よし、んじゃ頼むわ」


『了解しました、朝河様の分も合わせて腕に寄りをかけて作らせて頂きます』


「んな大袈裟な…」


そもそもあんだけ簡単な作り方のどこに腕に寄りをかける部分があるのか、そっちの方が気になるくらいだ。


「ふっふーん!どうですか店長、べっこう飴、大勝利じゃないですか!!」


一連の流れを見届けて、琴音は得意気にエッヘンと胸をはった。


「どうしてそう偉そうなのかはわからんが…、まぁ、美味いよ、べっこう飴」


「えへへ…」


べっこう飴を口に入れつつ、素直にそう答えると琴音は嬉しそうに微笑む。


「…ふむ」


だが…、妙に違和感がある。


「どうしました、店長?」


「いや…、うん、昔ばぁさんが俺に作ってくれたのはこのべっこう飴で間違いは無いと思う」


それはもう、この色と形を見れば確信出来るのだが…。


「でも…、味が、何となくだけど、違った気がするんだよ、上手くは言えねーけど」


確かにべっこう飴は甘くて美味い。


それでも…、昔ばぁさんがくれたあのべっこう飴とは違う、なんだかよくわからないモヤモヤとした味の違いの違和感があった。



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