第16話:近未来のメイドロボ その完
「…ふぅ」
駄菓子屋に戻った俺はズラリと並ぶ蜂須賀のフィギュアの中に隠れた。
さて、あの暴走メイドロボを迎え撃つ手筈は整った…、だがその前にある問題が起きている。
さっきからずっと左手の薬指に違和感を感じまくっているのだ。
「これが…西園寺の言ってた連絡したら指輪がしめつけるってやつか」
音の出ない、連絡された本人にしかわからないこのサインはなるほど、単純な連絡手段以外にも様々な使い方が出来そうである。
問題はさっきからずっと…という所だ、駄菓子屋に戻る事を最優先にしていたので西園寺からの連絡はずっと無視していたのだ。
「まぁ…、出るしかないか」
確か…、指輪にボタンがついてるって言ってたな。
指輪を見るとなるほど、目立たないが小さいボタンのような物がついているので押してみる。
『!!、高屋敷さん?高屋敷さんですよね!?無事なんですか!!』
ボタンを押すなり聞こえてきたのは西園寺の心配そうな声だった。
意外だな、海燕さんやアルファはともかく、俺をそこまで心配してくれるとは。
「無事だ、そっちこそどうなんだ?海燕さんは大丈夫なのか?」
結局、不意討ちの失敗で海燕さんはあのメイド兵器の攻撃をまともに喰らってしまったのだ、その後、すぐにあの場から逃げたので安否がわからない。
『私なら無事です、高屋敷様』
指輪から海燕さんの声が返ってくる、どうやら西園寺と一緒に居るようだ。
『申し訳ございません、私が不甲斐ないばかりに…』
「いや…、あの作戦を考えたの俺だし…」
誰に原因があるかと言われれば間違いなく俺だ、俺のお粗末な作戦に海燕さんが責任を感じる必要は無い。
『アルファの持つ重火器の類いの全ては使用不可能に出来ましたが…、残念な事に私はこれ以上の戦闘は出来そうにありません』
「いや…、今サラッととんでもない事言いませんでした?」
そう言えば西園寺の話しでは機関銃とか装備しているらしいアルファがそれを撃ってこなかった。
事前の戦闘で海燕さんがその全てを無力化してくれてたらしい…、ほんっとなにもんですか?この人。
『って…、高屋敷さん!どうしてずっと私の連絡を無視していたんですか!!』
指輪の奥で西園寺が怒鳴り散らしている。
「悪いな、そんな暇なかったんだよ…」
『…?高屋敷さん、口に何か入れてるんですか?』
ん?わかるのか、そう言えば西園寺と海燕さんの声もクリアに聞こえるし、この指輪型の無線機、そうとう良い物なんだろう。
「あぁ、ガム噛んでるからな」
『ガムって…、こんな時に何を呑気な』
ほっとけ…、本当ならタバコの一本でも吸いたい所をガムで我慢してんだからな。
「んで…、何の用なんだ?」
『!?、そうでした!高屋敷さん、今、どこですか!!』
「え?どこって…」
『今、私はアルファの現在位置を調べました、これからあなたとアルファが鉢合わせしないよう、あなたの逃げるルートを指示していきます』
そんな事が出来たのか…、あのメイドロボにGPSでも付けてるのだろうか。
『後は…、あなたが上手く逃げてくられば警察が全て終わらせてくれますよ』
「警察…、連絡したのか?」
『あなたがずっと連絡を無視してるからまだです、全く…、何のために無線機を渡したと思ってるんですか!!』
「いや、そういう事じゃなくて…」
あれだけアルファが処分されるのを嫌がっていた西園寺が自分からそう言い出したのだ、そりゃあ驚く。
『だって…、もう、それしかありませんし、作戦も失敗して…、海燕に怪我までさせて…、あなただって、このままじゃ…』
指輪からの西園寺の声が途切れ途切れになっていくのがわかる。
泣いているのだろうか…?指輪からでは確認のしようは無いが。
「とりあえず…警察は無しだ、西園寺」
『…え?あなた、何を言って…』
「たぶん、何とかなる…はず」
琴音にもあそこまで自信満々に言ってはいたが、正直にいって、これは賭けだ。
成功する保障は無い、むしろ低いかもしれない。
『何とかなるって…、そもそも、あなた、今どこに居るんですか』
「自分ん家、駄菓子屋に戻ってんだよ」
『…え?』
「だから、駄菓子屋に戻ってーーー」
『今すぐそこから離れて下さい!高屋敷さん!!』
俺の言葉を遮って、西園寺が叫んだ。
『アルファは…今』
『こちらに居るんですか?高屋敷様』
「!?」
来た…、つーか、なんつータイミングだ。
隠れながら店の入り口の方に目をやると、ペコリとお辞儀をしているアルファが居た。
「アルファが来た、もう切るぞ」
俺はアルファに気付かれぬよう小声で指輪にそう返事を返す。
『ま、待って下さい、もしかしてそこのフィギュアに紛れてアルファの緊急停止スイッチを押すつもりですか!?そんな事アルファには通用ーーー』
プチン…と指輪のボタンを押して一方的に通話を終了させた。
通用…しないだろうな。
『高屋敷様、ここに居るんですよね?』
店の中に入るとアルファは周りのフィギュアには一切の関心を持たず、真っ直ぐに俺に向かってくる。
まぁ当然だ、パッと見では人間と見分けがつかないこのフィギュアでもアルファのようなロボット相手では一目で人間ではないと見抜かれてしまう。
最初、店に入ってきてフィギュアを人と勘違いした西園寺と人間ではないと見抜いたアルファ。
それだけロボットのセンサーというのは優秀である。
『高屋敷様、見っけです』
「よう…」
だから、隠れても無駄なのはわかっていた。
恋人を見付けて上機嫌や笑顔で微笑むアルファに俺は手を上げて答える。
「よくここがわかったな…」
『道中の監視カメラにハッキングしつつ、あなたの行動を追いました』
アルファさん、わからないなら言いますけど、それがストーカーってやつですよ、データーに入れときなさい。
『やっと…、やっと二人きりになれましたね』
「そうだな…」
『もう邪魔も入りません、さぁ…高屋敷様』
アルファの両手がゆっくりと俺に伸びてくる。
俺ももう抵抗はしない、しても無駄だろうし。
『私と…一つになりましょう、あなたの事が大好きです』
その両手が俺の背中に回り、俺はアルファに抱かれた。
ロボットとは思えない、柔らかい身体と華奢な腕を身体が感じる。
…これで、全ての条件が揃った。
さぁ…、後はもう、賭けだ、失敗すれば俺の身体なんかバラバラの粉々になる、なんとも分の悪い賭け。
抱かれた事で密着する俺とアルファの身体、すぐ近くにアルファの顔。
その顔に向け、俺がした事といえばただ一つ。
「有難い申し出かもしれんが、俺はロボコンじゃないんでな、断る」
そう言い、べーっと《舌》を出した。
『………?』
アルファの動きがピタリと止まる。
センサーで得た情報を、正しく処理し、行動へと移す、それがロボットだ。
では、一つ。
その情報の中に、舌の緑色の人間は居るだろうか?
アルファのデータにある高屋敷 翼という人物の舌は真緑色をしていただろうか?
『たかやしき…さま?高屋敷様?どこ…、どこに居るんですか?』
答えは…やはり否、なのだ。
舌が緑色の人間なんて存在しないし、俺の舌も本来ならば病気無く正常なものだ。
だから、アルファは俺を俺と認識出来ない。
駄菓子の中に一つ、こんなお菓子がある。
つーか、なんでこんなもん作ったのか全くもって理解に苦しむが、まぁガキにはこういうのがウケたりするもんなんだろう。
食べると舌の色が変わる…という狙いがよくわからんガム、【緑べーっだ】
それをずっと口の中に入れ続けていた俺の舌は自分じゃ確認出来んが、たぶん、緑色一色になっているのだろう。
あ、ガムの方はすごい美味いんでオススメ。
『高屋敷様!高屋敷様…どこ、どこに…』
「………」
アルファはキョロキョロと辺りを見回し続ける。
俺の目の前で俺を抱きながら俺の名前を呼び俺を探す。
そう…ロボットなんて、しょせんこんなものである。
俺が好きだとか言い出したのも結局は雷による原因でプログラムがバグっていたに過ぎないのだろう。
「だから…俺も勘違いはしない」
自分に言い聞かせるようにそう言い、俺はアルファの背中に自分の両手を回した。
回りから見れば抱き合っているかのように見えるだろう。
だがアルファは俺の存在を認識すらしていないエラー扱いだし、俺はと言えば…。
「あった…、これだな」
背中にある緊急停止スイッチを見つけ、手をかける。
「とりあえず、眠れ、後はお前のご主人様が何とか直してくれるさ」
なんたって…、あのお嬢様も筋金入りのロボコンだろうし。
ポチっと、そのスイッチを押してやった。
『…高屋敷、様、わた、し』
プシュンと…、アルファの力が抜けていき。
『嬉しい…です、こうやって…高屋敷、様に、抱きしめて、もらえる、なん、ーーーて』
そして…、その言葉を最後にアルファは機能を停止させた。
「……?」
あれ…、もしかして最後、俺に抱き締められてるってわかってたのか?
アルファの最後の言葉に考える事はあったが、考えるより先にもっと不味い事に気付いた。
抱き合っている俺とアルファ、さて、ここでアルファの方が一方的に力が抜けて完全に機能停止状態だ。
たがら…、アルファの全重みが一気に俺の方に来る訳で…。
「…やべ!支え、いや無理!!」
そのままグラリとアルファと共に俺の身体も床へと一直線。
「ぐはぁっ!!」
直撃…、と共に俺の意識も彼方へと吹っ飛んだ。
ーーー
ーー
ー
カンカン、トンテンカンと、屋根の上にて釘を打つ。
先日の大雨が嘘のような快晴に、絶好の雨漏り修理日和だ。
…何その日和、そんな日和あるならずっと雨のままでいいや。
とは言ってられず、いつまた大雨が降ってきても大丈夫なように天気の良い日に雨漏りを修理せねばなるまい。
「はぁ…めんどくさい」
口に釘を加えつつトンテンカンとハンマーで次々と釘を打っていく。
「誰か代わりにやってくんねぇかな…」
愚痴もそこそこにハンマーを降り下ろした。
『私が代わりましょうか、高屋敷様』
「…え?どわっ!?」
突然の屋根の上に登ってきた来訪者に俺は驚き、ハンマーは釘を斜めに打ち付ける。
あ、危ねぇ…、もう少しで指に直撃する所だったぞ。
だが驚いたのも無理は無い、その来訪者こそが先日、俺達を散々振り回してくれた件のメイドロボたるアルファなのだ。
「あ、アルファ?お前、もう直ったのか?」
『…やはり、私は故障していたのですか?』
「…覚えてないのか?」
『記録データに欠陥を確認しています、ここ最近のデータがありません』
…あの事件の後、気絶から目覚めた俺が琴音から聞いた事はアルファは西園寺がキチンと回収した、という事だ。
西園寺達はどうやらあの事件の記録をまるまる削除しちまったらしい、しかし、こうやって記録を簡単に消せるのはロボットの便利なとこだな。
『ですが…、あの、自分でもなんといっていいのかわからないのですが、この屋根の修理はしなければならない気がして』
「あぁ、そういや途中だったな」
屋根の修理中に落雷を受けたのだ、恐らく、アルファのデータの中でそこら辺が曖昧になったままなのだろう。
だが…、はたしてこのままアルファに屋根の修理を任せたよいものなのだろうか?
また暴走でもされたら今度こそあの子供騙しなやり方も通用しないかもしれない。
「いや、別にやらなくていい」
だから少し迷いながらもここは安全にいこうと思った。
『それは…命令、ですか?それなら従いますが』
「そうそう、命令命令、わかったらさっさとお嬢様ん所に戻ってな」
『了解です…、高屋敷様、でも、何かあればすぐに呼んで下さい』
心無しかどこかしゅんと肩を落として、アルファは屋根から降りようと脚立に向かっていた。
しゅんと肩を落として…?いやいや…、ロボットがそんな事する訳無いだろ。
「…あれ?」
ロボット…だよ?確かアルファはマスターである西園寺を始め、登録してある者の命令しか聞かないはずだよな?
現にこいつに何度もそれは言われたし。
なのに俺の命令をあっさり聞いて引き下がるってのは…、んー?
「おい、アルファ」
『はい?』
声をかけるとアルファはちょうど脚立から降りる所だったので顔だけをひょっこりと屋根に出した。
「…気が変わった、やっぱ頼んで良いか?」
まぁこれだけ天気も良いし、雷なんかまず落ちないだろう。
『了解です、高屋敷様』
トントントンと、小気味良く脚立から再び屋根に上がったアルファは俺に近付くとペコリと頭を下げる。
『では、後は私に任せて高屋敷様はお店に戻って下さい、お嬢様もお待ちです』
「西園寺のやつも来てるのか…」
まぁアルファが一機でここに来るはずは無いし、当然だろうが。
しかし…、アルファの奴、なんか雰囲気変わった気がするぞ。
なんつーか、表情も言葉も柔らかくなってる気がする…、故障の後遺症か?まるで人間みたいだ。
「それじゃあ…、ほい、こらハンマーな」
『必要ありません』
そんな事を考えながらハンマーを渡そうとするとアルファはそれを断り、腕を引っ込めた。
『ハンマーならすでに持っています』
そして腕の代わりに出てきたのは立派なハンマーだった。
うん、やっぱロボットだね、こいつ。
ーーー
ーー
ー
「…よ」
「あ!店長!!」
「こんにちは、高屋敷さん」
店に戻り、西園寺と琴音に挨拶を交わす。
そうそう、店の大部分を占拠していた蜂須賀のフィギュアはキチンと全て、西園寺が買い取ってくれたようで店は以前と同じく、狭いながらも広々としたものに戻っていた。
えぇそうですよ、つまりお客さんとか来てないの、店長の俺が屋根の修理なんかやってる時点で察して。
しかし、あのフィギュアが結果として店の売り上げに大貢献だ、やったぜ、引き取れるだけ引き取った俺を誰か誉めて。
「アルファには会いましたか?」
「会いましたか?って…お前が命令したんじゃないのか?俺の手伝いをするように」
「いえ、私は何も、あれはアルファが自分から言い出した事ですから」
「おいおい…、まだ壊れてんじゃないか、あのメイドロボ」
自分から何の命令も無く、動くなんて本来ロボットでは有り得ない事だ。
「心配しなくても、アルファは正常ですよ、それに…、暴走の原因もほとんどわかりましたから」
「そんなの雷に決まってんだろ…」
「いえ、それが…、ただの落雷だったなら、恐らくなんの問題もなかったんです、アルファはそのくらいじゃ壊れません」
「は?現にあの時は…」
「すいません…、店長」
西園寺と話していると横から琴音が申し訳なさそうに謝ってきた。
「…なぜお前が謝る?」
「どうやら…、私が余計な事をしちゃってたみたいだったんです」
「???」
琴音が原因?全然見当がつかんぞ…?
「まだ詳しい事は不明なのですが…、あの時、朝河さんがアルファに渡した物が原因だと思うんです」
「…あ!」
つーとあれか、どしゃ降りの雨の中を外に出ようとしたアルファの為に琴音が用意した雨カッパ。
あれが今回の騒動の原因だってのか?
なんだろ…、カッパの素材とかと雷が化学反応でも起こしたってのか?
まぁ…、詳しい事はまだわかってないらしいし、そこから先の対策は西園寺コンツェルンの方で上手くやるのだろう。
「うぅ…、翠ちゃん、店長、ごめんなさい、私のせいで二人が大変な目に」
「いいえ、朝河さん、あなたは善意でアルファにあのカッパを渡したのだし、誰を攻められませんよ」
謝る琴音に微笑みを浮かべてそう西園寺は話す。
「いや…琴音に甘過ぎだろお前」
「そ、そんな事ありません!ちょっと黙ってて下さい」
あと俺に厳しくない?西園寺さん。
「こ、コホン…、と、とにかく、今日はあの時のお礼を持ってきました」
「え!?マジでか!!」
お礼…と聞いて俺は興奮気味に西園寺に近付いた。
「よ、予想以上の食い付きっぷりですね」
「ほっとけ…、貰える物はなんでも貰うのが俺の心情だ」
そもそも…、あの時は実際命懸けだったのだ、お礼というのならば是非に頂こうでは無いか。
「か、勘違いしないで下さい!私はただあなたに借りを作りたくないだけですからね、ま、まぁ…、その、結果としてあなたには助けられました、から」
もじもじとしながら後半の方はもう声がちっちゃくて何言ってるか全然聞き取れない。
「とにかく…あの時はありがとうございました、高屋敷さん、これはお礼の品です」
言うと西園寺は海燕さんに合図を送り、海燕さんは店の前に止めてある車へと向かった。
お礼って何かな~?何て言ってもあの西園寺コンツェルンのお嬢様からの直接のお礼の品だ。
相当価値のある物に違いない、特に金銭的に。
「お待たせしました、高屋敷様」
「はい!待ちましたよ~!!」
ルンルン気分で海燕さんの所へスキップ混ぜつつ向かう。
「店長…、テンション高過ぎです…」
「全く…いやしい人ですね」
はいそこ!外野うるさい!!
「全く…あの時はーーーだったのに」
西園寺がまだ何か言っているがもう聞く気も無いくらい、俺はお礼の品物に夢中だった。
だって、それは…。
それは…?
「…何?これ?」
「こちらがお礼の品となります」
海燕さんがお礼の品と言うそれは…、一言で言うなら機械的な黒い箱、キューブだった。
「えと…、これ、何?」
ギリギリと首だけを西園寺の方に向けて、恐る恐る聞いてみる。
「お礼の品です」
…らしい、この使い道の一切不明な黒いキューブが?
「では…、受け取って下さい」
海燕さんは片手でそのキューブを持っていると俺に向けて差し出してくる。
「はぁ…?」
俺は意味もわからず、そのキューブを受け取ろうと片手を伸ばした。
「失礼ですが…、両手の方が良いかと」
「…?」
海燕さんは片手で持っているが、俺は言われた通り両手を出した。
「では…、どうぞ」
キューブを受け取る。
「つか!重ッ!!何これ!!?」
黒い箱、キューブはとんでもなか重かった。
「では…、確かに渡しましたよ、高屋敷さん」
「いやいや…、なんなの?嫌がらせに来たの?」
命を賭けた得た代償がこの糞重いだけの何の価値も無さそうな箱とか…。
「おのキューブを大事にとって置いて下さい、そうすれば時期にわかりますよ」
「…ちなみに、価値あるの?これ、例えば、ほら、金銭的に」
「人から貰った物を売るとか、神経を疑います」
「だって、だってだよ…、この箱貰うくらいならマネー的な…」
「高屋敷さんはそんな事しませんよね♪」
ニッコリと微笑むと、西園寺はしっかりと俺に釘を刺していきやがった。
ーーー
ーー
ー
「本当に宜しいのですか?お嬢様、あれは極秘プロジェクトですが」
「良いのよ、海燕」
高屋敷の駄菓子屋からの帰り道、車を飛ばしながら海燕は西園寺に声をかけた。
「…キューブの状態でその環境に馴染ませ、やがてロボットとしてその時得た様々な経験や情報からロボットを作る、これには色々なサンプルが必要でしょう?」
西園寺が高屋敷に渡した物は、言わばロボットの赤ん坊だ。
人間の子供が赤ん坊の頃から成長して今に至るように、ロボットでもそれが出来ないか…、と西園寺コンツェルンのロボット事業の新たな試みである。
10の状態で完成されたロボットを作るのでは無く、1から作り、10に向けたロボットを作る。
ロボット事業の発達した現在ではあるが、ロボット…、それもメイドロボともなると一般家庭ではまず買う事が出来ないくらいは高額だ。
西園寺はそれを高屋敷達にプレゼントしたのだ。
「また、父上と喧嘩になってしまいますよ」
「構わないです、それに…正直にいえば私は彼等に一番期待してますから」
このキューブを西園寺コンツェルンはサンプルのデータ収集の為、あちこちバラましいている。
とはいえ当然、極秘のそのキューブは本来ならば高屋敷のような一般庶民に渡るはずが無い。
事実、キューブの大半は名家や金持ち、他の企業へとの所に配られている。
「もしかしたら…、それこそ感情を持つロボットが誕生するかもしれないじゃないですか?」
奇しくも、高屋敷の駄菓子屋は本人達の全く知らぬ所で一般庶民の代表となっていた。
では…、その本人達は?
「店長…、どうすんですか、これ…」
「どうするも何も…、使い道も無い上に、糞重いし、おまけに売るなとか釘刺されるし」
西園寺が帰った後、翼と琴音の二人はその黒い箱、キューブを囲んでうんうん唸っていた。
何度も言おう、このキューブはロボットの赤ん坊、西園寺コンツェルンの極秘プロジェクト、ただのロボットでは無く、学習し、成長するロボット。
その価値は計り知れないものだ。
「はっきり言ってゴミだな、ゴミ、それも燃えないゴミ」
「あー!店長、ダメですよ!そんなガンガン叩いちゃ!!」
あのー…計り知れない価値ですよ?止めなさい、叩かないで。
「使い道…使い道、あ!そうだ、一つだけこのゴミを有効活用する方法があった」
「だからゴミって…、翠ちゃんに失礼ですよ」
「琴音、確か漬け物石が一個足りなかったよな、こいつを代わりにしよう」
漬け物石…?え?
「…いいんですか?店長」
「いいんだよ、この重さなら丁度良いし」
「うーん…、翠ちゃん、怒らないかなぁ…」
…てな具合に、西園寺コンツェルンの極秘プロジェクトたるロボットの赤ん坊、キューブは本人達の思惑とは別の、漬け物石として高屋敷の家で扱われた。
なんたる最新技術の無駄遣い、豚に真珠とはよく言ったものである。
「あれ?店長…、今この箱、光ったみたいな」
「光った所で使い道無いのに変わらんだろ」
キューブは情報を集め、成長をするべく、静かにそこに鎮座した。
…漬け物石として。
皆さま、この小説は近未来の【駄菓子屋さん】ですよ、いえ、念のため。
しかし、長かった…、この小説としては始めての長編ストーリーとして五話も使うとは思いませんでした。
本当はもっと短くコンパクトにまとめれたかもしれませんだ、ちょくちょく話しを切らないと自分の集中力が続かない(笑)
近未来話しがちょくちょく続いてるので次回は駄菓子屋話しメイン…かな?
感想、どしどし大募集してます。