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第15話:近未来のメイドロボ そのよん

「海燕、今どこに居るの?…ーーーえぇ、わかったわ、私達もこれから向かう、大丈夫ーーー、作戦があるから」


どしゃ降りの雨が今だ降り止まぬ中、俺は車を走らせていた。


後ろ座席で海燕さんと連絡をとっている西園寺を助手席から琴音が不思議そうに眺めている。


「翠ちゃん、海燕さんと連絡をとってるんですよね?」


「当たり前だ、せっかく囮になるってのに肝心の海燕さんがそれを知らなきゃ不発に終わっちまうからな」


まぁ…、あの人ならば打ち合わせ無しでも悟ってくれそうな気はするが、万全にしときたい。


「いえ…、携帯も使わずにどうやってるのかなーっと…」


「あぁ、これですよ、朝河さん」


そう言って西園寺が後ろから腕時計を琴音に見せる。


「時計…ですか?」


「これの機能の一つが無線機です、これで海燕と連絡を取ってました」


「はぁ~、スゴい物があるんですね~」


二人の緊張感の無い会話にこっちはこの雨ん中運転してんのに…と悪態でもついてやろうかと横目で睨む。


すると後ろからスッと西園寺の手が伸びてきた。


その手のひらには指輪が置かれている。


「何これ?もしかして結婚指輪?」


「ば、馬鹿な冗談は止めて下さい!…無線の子機です、これを指にはめて下さい」


「いや、運転中だから」


ただでさえ雨で視界が悪いのだ、ガタガタの地面に加え古い車のライトでは集中力を欠かす事は出来ない。


「あ、じゃあ私がはめます、店長、手を出して下さい」


助手席の琴音が指輪を受け取るとさぁさぁと俺を急かす。


「いや、琴音、お前な…」


「いいから、早く、指を開いて下さい」


「………」


言われるままに指を開くしかない…。


年下の少女に指輪をはめられる俺、二十歳の図。


「おい…、しかもなんで薬指にはめるんだよ」


「いえ、薬指がサイズピッタリだったので…」


しかも運転席と助手席の関係上、左手の薬指にはめられた指輪…。


自分より年下の少女に指輪を送られ、自分より年下の少女に指輪をはめられる俺、二十歳の図


「?、どうしました、店長」


「なんか泣きたくなってきた…」


「馬鹿な事言ってないで、運転に集中しなさい」

『馬鹿な事言ってないで、運転に集中しなさい』


車内に西園寺に声が二重に重なって響いた。


後ろの席の西園寺本人からのものと、指輪からも同時に声が出ている。


「どうやら、正常に機能しているみたいですね」

『どうやら、正常に機能しているみたいですね』


「なるほど、無線機の子機ね」


恐らく、西園寺の持つ腕時計が親機でこの指輪が子機なのだろう。


そういえば海燕さんも同じような指輪をはめていた気がする。


「指輪にスイッチがついているので、私に連絡があれば押して下さい、今後、こちらから連絡を受ける時も同じです」


一度腕時計をいじって無線機を切ると、西園寺は指輪の機能について説明してくれた。


「私が連絡を入れれば指輪がしまるので、スイッチを押してくれれば私に繋がります」


「しまるって…、しめつけられるって事か?」


「えぇ、私の連絡を無視しようものなら…、指輪はあなたをどんどん締め付けますよ」


バックミラーから西園寺がニヤリと邪悪な笑みを見せる。


「えぇ…」


何この娘…、怖いよ、こうやって三蔵法師と孫悟空みたいに無理やり部下従わせてんの?


連絡を無視した相手を締め付け続けるとか、これが一般的に販売されれば大好評間違い無しだろう、ストーカーとか病んでる方とかメルヘンな方向けに。


「ふふ、冗談ですよ、高屋敷さん、さて、これでこちらの準備は整いました」


コホン…と、軽い咳払いでもするように西園寺は話しを本題へと移す。


「海燕とアルファの今居る位置を説明します」














ーーー


ーー



「居た…」


周りの建物から少し離れた河川敷で海燕さんとアルファを見つける。


アルファの暴走を世間一般の目に止まらないように海燕さんが上手いことここまで誘導してくれたみたいだ。


その一人と一体はおよそ俺達一般庶民ではとても入り込む余地の無さそうな格闘戦を繰り広げていた。


「さて…」


そこで一般庶民代表である俺は何をすべきか。


幸運なのはここまで来る途中、雨が少し小降りになってくれた事か。


このくらいならば傘やカッパは必要ないだろう。


「西園寺…、海燕さんの方は大丈夫か?」


『えぇ、あなたの作戦は伝えてあります』


よし…、なら問題は無い。


話しは簡単だ、アルファに俺を気付かせて、こちらに向かって来たら海燕さんが後ろから背中にある非常停止スイッチを押してくれれば良い。


囮と言っても特に逃げ回る必要も無い、蜂須賀のフィギュアにも出来そうなミッションである。


「アルファー!!聞こえるか!!」


俺は海燕さんとアルファに充分に距離をとった位置から声を上げる。


『!!』


俺の声に気付いたアルファはすぐに反応して猛スピードで海燕さんから距離を取るとこちらに振り向く。


『高屋敷様…?私に会いに来てくれたのですか?』


「あ、あぁ、アルファ、お前に会いに来た」


まぁ間違ってない、俺も嘘はついてない。


『嬉しい…、嬉しいです、高屋敷様、それに…初めて私の事を名前で呼んでくれましたね』


「…?」


そう言いながら本当に嬉しそうに微笑むアルファに、俺はどうにも奇妙な感覚に襲われる。


あれが…ロボットに、感情の無い者に出来る笑顔なのか?


『この気持ち…この気持ちは何でしょう?私は、わかりません』


そして悲しそうにするその表情、それだってまるで人間のそれと何も変わらない。


そういえば…先ほど駄菓子屋に居た時よりもズッとアルファのしゃべり方が柔らかくなっている気がした。


『わからないから、せめて、あなたを抱き締めさせて下さい、高屋敷様』


…本当に気がしただけだろう、やはり、目の前のこいつはロボットだ。


「………」


俺はチラリとアルファの後ろに居る海燕さんに目をやる、海燕さんは気配を消しつつもすぐに動けるように機会をうかがっている。


よしーーー、やるか!!


気合い一発、俺は両手を大きく広げる。


「よーーーーし、アルファ、俺の胸に飛び込んでおいで!!」


…なんだよ?何か言いたい事あるなら言っても良いんだぞ、あ、やっぱり止めて、俺泣くから。


『高屋敷様…、はい!!』


やたらと嬉しそうな声をだしながら…、アルファは俺に向けて走ってくる。


つーかすげぇルンルンなんだけど…、このまま抱き締められても良い気にさせるくらい。


だが…、そうはいかない、俺に向けて一直線に走ってくるアルファは当然、後ろをまったく見ていない。


その後ろを背中のスイッチを押すべく、海燕さんが追った。


いける…。


『ですが、高屋敷様』


「…え?」

「!?」


その途中、アルファが動きを止める。


ピタリと、まるで自らの後ろに居る存在がわかってでもいるかのように。


いや、事実、わかっていたのだろう。


『その前に、邪魔な人を片付けてしまいましょう』


アルファはそのまま、後ろに向けて大きく回し蹴りを放った。


それはもう、後ろに目でもあるのかと思わせるほど、正確に海燕さんに直撃し、その身体をぶっ飛ばした。


「…は?」


ぶっ飛ばされた海燕さんは地面を二度、三度と転がり、動かない。


当然だ、不意をついた攻撃に向け、防御の事なんて考える必要は無いはずだった。


そこに戦闘メイド兵器の回し蹴りの直撃である。


『さぁ、高屋敷様、これで邪魔者も消えました、二人きり…ですね』


微笑み、熱い眼差しを向けてくるアルファ。


いやいや…、いやいやいや!!


今しがた人一人をぶっ飛ばした奴が言ってもロマンチックの欠片も無いだろ…、その台詞。


ジリジリと…、アルファは俺への距離を詰めていき、俺はその度に後退していく。


『?、高屋敷様、どうして逃げるのですか?』


そりゃ逃げるだろ…、当たり前だ、何しろこっちはもう作戦の不発に加え、唯一戦闘可能な海燕さんがダウンさせられたんだ。


こうなったら…もう、西園寺には悪いが警察に連絡するしかーーー。


『あぁ、なるほど』


「…あん?」


考えていると、アルファは何かに納得したように頷いた。


『データにありました、愛する者通しとは、追いかけっこをするものと』


それは…、ひょっとして海でやるアレの事を言っているのか…?ふ、古い、やたらと古いデータ引っ張り出してきやがった。


『私達も…やってみます?追いかけっこ?』


「っ!…クソ!!」


自身の出来る全速力で俺はアルファから逃げるべく、走る。


『あはは!待ってください!高屋敷様!!』


そしてそれを無邪気ともいえるような笑え声で追いかけてくるアルファ。


ここだけ見ると微笑ましい光景のワンシーンと言えなくもないが…、アルファの走り方アレだぜ?腕直角で陸上部みたいな正しい走り方だせ?


しかも捕まったら抱き締めという名のさば折りが待ってるという…、追いかけっこというよりリアルな鬼ごっこだ、つか、男女違うよ。


『逃がしませんよ、高屋敷様、ロックオン』


え?ロックオン?と、およそこれが追いかけっこだとしても決して聞くことの無い台詞に後ろを振り向くと。


『発射』


アルファが腕を飛ばして来た。


いわゆる、ロケットパンチ 。


それはまっすぐに俺に向かってくる。


「いやいや…、無理だから」


どう考えても避けるのは間に合わず、あんな物がまともに当たれば無事ではすまない。


俺はもう、諦めてせめてあまり痛く無いように願っていた。


「店長!!」


だが、そこで俺の身体は大きく横にズレて地面を転がり、標的を失ったロケットパンチはそのまま、直進を続ける。


「琴音…?」


俺の身体の上には琴音、どうやら体当たりして俺をロケットパンチから救ってくれたようだ。


「店長…、無事ですか?」


馬乗りになる形て琴音が心配しながら声をかけてくれる。


「って…、馬鹿!なんで出てきたんだよ!!」


「た、助けたのに怒られました…、店長が心配だったので…」


「いや…、助かったけど」


けど…、そんなのは本当に一時的だ。


こうして止まっている間にアルファとの距離はすっかり縮まってしまった。


もうすぐそこまで来ている。


「琴音、お前はとりあえず逃げとけ」


「え?でも…、店長」


「何度も言うが…、アルファの狙いは俺だ、下手に手を出さなければ海燕さんみたいにはならないはずだ」


「店長…」


最悪、琴音の逃げる時間くらいは稼げるだろう。


「さぁ来いアルファ!俺はもう逃げない!!」


『………』


拳を構え、ファイティングポーズをとる俺に向かい、アルファは走ってくる。


来い…、来い来い来い!!出来れば来るな!来ないでくれ!!


『………』


そしてアルファは俺の目の前ーーーを、通り越してそのまま後ろへと走って行った。


「…ん?」


え?あれ?助かった?何で?


俺と琴音を通り過ぎたアルファは今もなお、走り続けている。


「いよいよもって…バグったか?」


「いえ…、店長、たぶん…ですけど、アルファさん、さっき飛ばしたロケットパンチの腕を追いかけてるみたいですよ」


琴音に言われて見てみると…なるほど、確かにアルファはまっすぐにロケットパンチを追いかけていた。


「…そうか」


アルファの目的は俺を抱き締める事であり、その為には先ほどロケットパンチで飛ばした手は必要不可欠なパーツといえる。


なのであのロボットの優先順位がまず飛ばした手の復活に切り替わったのだろう。


「…さすがロボット、融通が効かない」


これでしばらくは何とかなる…、しかし、これも本の一瞬だ。


すぐに腕を取り戻したアルファが戻ってくるだろう。


「ん…、融通、ロボット」


戦闘兵器兼用のメイドロボ、アルファは見た目がどんなに人と似てようが、ロボットなのだ。


そうだ…、そもそもロボット相手にあの不意討ちはあまりにもお粗末すぎた。


人間相手ならばあれで何の問題も無かったのだろうが…、ロボットとなると話しは別だ。


センサー一つで周囲に動く人物の特定くらいは可能だろうし…、まるで…というより本当に後ろに目となれる機能が沢山あるのだろう。


そうだった…、そもそも俺が言った事じゃないか、人とロボットを同じように扱うべきじゃない、と。


だったら…考え方を変えろ。


まず…第一条件として、不意討ちをする事だ、まともにやり合って勝てるはずが無い。


ならばどうやって不意討ちをするか。


アルファはロボットであり、人間のやり方は通用しない。


数多くのセンサーにより、情報を集め、正しく、素早く処理し、行動に移す、それがロボットである。


ロボットが俺達人間を一人一人別人だと把握出来るのも単純に言ってしまえば同じ原理である。


つまり煙幕使おうが空から空襲しようが遠くから狙撃しようがその数多くのセンサーの一つでも反応すればその情報が処理され、行動され、先ほどの海燕さんのように不意討ちは失敗する。


「…アルファ、ロボット相手に不意討ちは不可能だな」


「…店長」


「なんだよ、琴音、そんな顔するな」


不安な顔をする琴音を安心させる意味も込めて、頭に軽く手を置いてやる。


「…作戦は、ある」


「え…?」


ロボットに死角無し、だが、こちらに打つ手が無い訳じゃない。


センサーにより情報を集めるなら、好きなだけ集めれば良いさ。


ただし…果たしてその情報を正確に処理し、行動に移す事が融通の効かないロボットに出来るかね。


「駄菓子屋に戻るぞ、そこでアルファを迎え撃つ、今度は真正面からな」


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