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第14話:近未来のメイドロボ そのさん

琴音にも何度も言い聞かせてきたことだが…、ロボットに感情や心なんて物はありはしない。


当たり前の事だがロボットはプログラム通りに動いてただただ命令に従うだけのものだ。


なのでロボットと結婚とか言い出すロボコンはそのロボットに自分が好きだと言うようにプログラムしている事になる。


自分でそういう言葉をロボットに言わせているのだ…、本当、この国はどうなってんだか?


まぁ…、つまり、だ、そもそもの話し、感情の無いロボットがーーー。


『高屋敷様…、好き、です』


「お、おぅ…」


自分からそう言い出す事は、有り得ないのである。


俺の目の前では西園寺お付きのメイドロボのアルファが以前として熱い眼差しを向けて来ている。


ここで考えられる原因は二つ…。


一つはアルファがプログラム通りに従っているだけ…、つまり西園寺が事前にアルファに俺が好きだと言うようプログラムしておいた事だ。


だがそんな事する理由が無い、もしかしてドッキリか?ドッキリなのか?メイドロボに俺が好きだと言わせて勘違いさせて後で嫌うプログラム搭載するとか?


止めろよ…、俺、泣いちゃう。


「おい…、西園寺」


当人に問い掛けようと西園寺の方をチラリと見る。


「アル…ファ?どうしたの、様子がおかしいですよ、あなたのマスターは私です」


だが西園寺は表情こそ冷静に勤めていたがその足どりはフラフラとしている。


『………』


だがアルファはマスターである西園寺の呼び掛けを無視し続けている。


というか、俺に向けてゆっくりと歩いて来ている、なんつーか怖い。


「アルファ!!」


ついに大声を張り上げた西園寺が俺とアルファの間に入るとアルファを睨む。


「命令よ!今すぐ待機モードに移行しーーー」

『邪魔を…しないで下さい』


西園寺の言葉に被せてアルファは彼女の肩を掴むと大きく真横に振り払った。


「きゃあっ!!」


「翠ちゃん!!」


横に振り回され吹き飛ばされた西園寺の身体を海燕さんが素早く回り込んで受け止める。


「無事…か?」


二人のすぐ後ろには店の棚がある、あの速さで激突しようものなら…、大怪我だろう。


「翠ちゃん!海燕さん!大丈夫ですか!?」


慌てて琴音が二人に駆け寄り、声をかけていた。


「大丈夫…です、でも…アルファが」


「やっぱりか…」


西園寺も薄々はわかっていたのだろう、そして俺も今のでこの事態の原因が二つ目にある事を確信した。


西園寺のメイドロボ、アルファは暴走している。


さきほどの雷が原因か?なぜ俺を好きだと言い出したのか?わからん事は山ほどだが、暴走している事に間違い無い。


「アルファ…?」


『はい…、高屋敷様』


恐る恐る…声をかけるとアルファはキチンと反応した、どうやら俺の言葉は聞いてくれるようだ。


だとすれば…俺にはとりあえず害を起こそうとはしないだろう。


『高屋敷様…、私はあなたが好きです、抱きしめたい、です』


「そ、そうか…」


ほ、ほら…、抱きしめたいとか言ってるし、まぁ…それくらいなら、見た目にはロボットとはいえ女だし…。


『好きです、大好き…、抱きしめたい…、強く、強く、強く強く強く強く』


「…え?」


えと…、なんだか様子がおかしいと思うんですが?


『私の愛を…受け取って下さい』


両手を広げてジリジリと迫ってくるアルファになんだか嫌な感じがする。


『さぁ…高屋敷様、私の一つに!!』


ガバッと…半ば襲われるような形でアルファは両手で抱き付いてきた。


「…って、アレ?」


アルファが今抱き付いているのは俺では無く、今現在店の大半を支配中の蜂須賀から引き取ったフィギュアだった。


「無事ですか?高屋敷様」


「海燕さん…?」


どうやら海燕さんが俺がアルファに抱き付けられる瞬間にフィギュアを割り込ませたのだろう。


「いや…、まぁ無事といえば無事だけど、抱き付いてくるくらいなら…別に」


バキバキ…ボキッ…と、壮大な破壊音が店内に響き渡る。


「…は?」


見るとアルファに抱きしめられたフィギュアは背中からバラバラに崩れ、真っ二つに破壊されていた。


蜂須賀が見たら発狂でもしそうな光景である。


って…、そんな事はどうでも良くて。


「…は?」


思わず、もう一度…、呆然とした声を出してしまう。


バラバラに破壊されたフィギュア…、いったいどれほどの力で抱き締めればああなるのかわからないが…。


当たり前だが、人間の身体なんかあのフィギュアよりも遥かに脆い。


俺がもし…、あのフィギュアと同じ力で抱き締められようものなら…。


『…高屋敷様』


クルリ…とアルファが首だけをこちらに向けた。


『抱きしめさせて下さい、強く、あなたが好きなのです』


そしてまた再び俺を抱き締めようと両手を広げる。


「ま、待て…、アルファ、それは抱き締めるってより…、さば折り」


『さぁ…、私に全てを預けて下さい!!』


き、聞いちゃいねぇ…。


「やべっ!!」


「ふっ!!」


ジリジリと迫ってくるアルファに逃げようとする俺とは対称的に、海燕さんがアルファに向けて突撃する。


『…私の邪魔をしないで下さい』


「………」


二人はそのままお互いに交戦しつつ、店の外、どしゃ降りの雨の中へと消えていった。


「ふー…」


全身の力が抜け、へなへなと膝をついた。


助かった…のか?いや、まだだ、まだ何の解決もしていない。


いくら海燕さんでもアルファ、ロボット兵器を相手にそう長く足止めできるとは思えない。


それに外は大雨だ、これも人間が不利になる条件の一つだ、だったらそうゆっくりはしてられん。


琴音と西園寺の二人の無事を確認すると俺は一つ息を大きく吐いた。


「琴音、西園寺、二人はすぐにここを離れろ、またいつあのメイドロボが戻って来るかわからん」


「え…、でも店長は?」


「俺も警察に連絡したらすぐに離れる、お前ら二人の後でな」


おそらく…、アルファの今の行動目的は俺を抱き締める事にあるので、ここは一緒に居るより別れた方が二人は安全だろう。


「でも…、そしたら店長は」


それくらいは琴音にもわかっていたのか、心配そうな瞳で俺を見つめている。


「なんだよ?警察に連絡するって言ってんだろ、こういうロボット関連の事態にすぐに動いてくれる課があるからな、心配すんな」


ロボット対応課、通称【メ課】、ロボット関連の犯罪や暴走に対応する警察部隊である。


「だから大丈夫だ、そもそも俺も連絡すればすぐに逃げるからな」


あとは警察がなんとかしてくれるだろう…つーかしてください、頼んます。


「止めて下さい!!」


「…は?」


「えっ…?」


突然大声を張り上げた西園寺に俺と琴音は二人で西園寺の方を見た。


「警察は…だめ、止めて…、止めて下さい、お願いします」


西園寺は顔をうつ向かせて震えながら両手を強く握りしめていた。


「西園寺…、お前まさかこんな状況で会社の評判とか気にしてんじゃねーだろうな」


そりゃあ自分の会社の…、それも自分のお付きで従わせていたメイドロボの暴走となれば西園寺コンツェルンからすれば大問題だし、事態が明るみにならない事を願うのは当然かもしれない。


だがこのまま放っておけば海燕さんが危ないだろうし、まず第一に俺がさきほどのフィギュアと同じ目に合いかねない。


「悪いが今はそんな事気にしてられない、後の事後処理はなんとかしてくれ」


西園寺コンツェルンならばこれくらいの問題、後でどうにでも出来るだろう、俺が携帯を取り出して警察に連絡しようとした。


「違います…、違うの…」


だが西園寺は首をふるふると横に振ると、顔を上げた。


「そんな事されたら…、このままじゃ、アルファは…、処分、されてしまいます」


ぼろぼろと涙を流し、消え入りそうな声で、俺にそう訴えかけてくる。


「アルファさんが処分って、ウソでしょう?店長!!」


「琴音…、さっき説明したけどな、人に害を与えたり暴走したロボットってのはな、例外無く処分される」


「そんな…、それじゃあ、警察に連絡したら、アルファさんは…」


「処分だろうな、残害もそのまま警察に回収されるだろ」


「そんな…、だって!アルファさん、たぶん…雷が原因であんな風になったんですよね!だったらアルファさんは悪くありません!!」


こいつ本当に人の話しを聞いてないな…、と思ったが、良く考えればこいつ、ロボコンだったな。


…それと、もう一人。


「西園寺…、お前、もしかして、だけどな」


「ひぐ…、な、なんですか?」


涙を服の裾で拭き取りながら、また西園寺は涙を流している。


たぶん間違い無いだろうが…、ここでそれを聞いても仕方ない事だし、西園寺も返答に困るだけだろう。


「…いや、アルファは大事か?」


変わりに、そう聞いた、さきほど琴音が西園寺に聞いた事と同じだが、えーと、あれだ。


物を大事にするってのは素晴らしい事だと思う、うん。


「はい…、大事です、私が小さい時から…ずっと一緒でしたから」


「…そうか」


俺の手には携帯、その画面を押せば後は警察に事情を説明して来てもらうだけである。


「高屋敷さん…」


「店長…」


琴音と西園寺の二人がじっと俺を見つめている。


「…はぁ」


俺は溜め息一つつくと携帯をしまい、西園寺に声をかける。


こうなると…やるしかないか。


「西園寺…、あのメイドロボの強制停止スイッチはどこにある?」


「…え?」


「きよーせーていしスイッチ?」


ロボットには必ず、緊急時の強制停止スイッチが付けられている。


そうでもしないとロボットは物理的に破壊する以外に止める術が無いからだ。


だからここを押せばどんなにエネルギーが貯まっていようがロボットを停止させる事が出来る。


琴音にも分かりやすく説明するなら…。


「簡単にいえばテレビとかの主電源みたいなもんだよ」


「なるほど!!」


本当にわかってんのかよ、こいつ。


「んで…どこだ?」


このスイッチの場所は基本的にマスター以外、誰も知らないものだ。


見ず知らずの誰かが勝手にスイッチを押して悪用しないための処置らしい。


「えと…、背中、ですけど」


「背中か…」


なら…まだ狙いやすい、か?


「海燕さんは知ってんのか?背中にある事」


「それは…、えぇ、教えています」


だったら話しは早い…、上手くいけば事はすぐに片付くだろう。


「よし、俺は今から海燕さんと協力してあの暴走メイドを止める」


「て、店長!?」


「む、ムチャです!海燕ならまだしも…あなたが出ていってもあのフィギュアのように今度こそバラバラになりますよ!!」


「そりゃあ正面きって戦えばな、ぶっちゃけ足手まといになる自信はある、というか自信しかない」


堂々と胸を張ってそう言ってやると西園寺は呆れた声を上げた。


「ダメじゃないですか…」


「けど…、ま、囮くらいにはなれんだろ、幸い、あのメイドロボは俺を狙ってる、ぽいしな」


海燕さんがその間に強制停止スイッチを押してくれればこちらの勝ちだ。


「………」


「…ん?なんだよ?」


「いえ、なぜあなたがここまでやってくれるか、理解が出来なくて、この事態が公にされれば西園寺コンツェルンの責任問題になりますし、あなたにとってはその方が都合は良いでしょう?」


まぁ土地の立ち退きの話しとかくらいはうやむやに出来そうではあるが。


「それを…、何の見返りも無いのに、命を賭けるなんて」


なんだ…、そんな事か、そんな事に頭が回らんとは、社長とはいえやっぱりガキだな。


「おいおい、誰か無償でやるかよ、もちろん、見返りは求めるさ」


「…え?」


「見ての通り、店内には俺の知り合いから譲り受けたフィギュアがズラリと並んでる、が、正直邪魔で邪魔で仕方ない」


「それは店長が無計画に引き取った物じゃないですか…」


はい、琴音ちゃん、ちょっと黙ってようね~。


「こいつら全部買い取って貰うぞ、覚悟しとけ」


「…えと、それだけ、ですか?」


西園寺が目をパチクリとさせた。


もちろんそれだけでは無い、単純に西園寺コンツェルンに恩を売れる、というのがデカイが、まぁ…わざわざそれを言う必要もあるまい。


大人は汚いものなのである。


「…変な人ですね、あなた」


「そうか?さて…ぐずぐずしてたら海燕さんがやられちまうな」


あの二人がどこまで行ったかわからんが…、まだそこまで遠くには行ってないはずだ。


車を出せばすぐにでも追い付けるだろう。


外に出ようとする俺に琴音と西園寺が付いてくる。


「…言っとくが、ここに居る方が安全だぞ」


俺が出ていく以上、あのメイドロボがわざわざここに戻って来る事はあるまい。


「私はアルファのマスターです、あなたに任せっきりには出来ません」


「私は…、店長が、皆さんが心配なんで」


どうしたものかと考えたが考える時間が勿体無いとすぐに結論を出した。


「よし…、それじゃあ行くぞ!!」




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