第11話:近未来のフィギュア そのに
「んで…どうするんだよ、翼」
「まぁ待てよ、今琴音に必要な物探しに行って貰ってる」
「なんだよ、それなら琴音ちゃんじゃなくて俺に直接言えよな、俺、ここの工場主だぜ?」
いや、お前に言っても絶対了承しないだろうし。
「店長、やっと見つかりましたよ~」
「おー、ご苦労様だ、琴音」
「さーて、琴音ちゃんは何を持ってきたのかな~」
「言われた通りにノコギリとハンマーを持って来ましたけど…」
「んのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
「うるせーぞ、蜂須賀」
すぐ真横で絶叫された為、大変にうっさい。
「だってお前…、これ、」
「外れないなら力付くで解体するしかないだろ、とりあえず頭と四肢を切断して…」
「鬼!悪魔!バラバラ殺人!!」
「いや、人形だからな、これ」
人形の身体のパーツを解体するくらいでガタガタと…。
「琴音、ノコギリ」
「え、えーと…、蜂須賀さんがものすごい形相で睨んでますが」
「気にするな、こうでもしないと本当にいつまでたっても人形を捨てれんくなる」
琴音からノコギリを受け取り、人形へと向かう。
「さぁて…、どいつからいくか」
「ひぃいっ!や、止めてくれ、頼む!!」
蜂須賀が泣きながら腰元に抱き付いてきた。
「お、お前には彼女達の悲しむ姿が見えないのか!?」
「悲しむ姿って…、何度も言うけどフィギュアーーー」
言われてチラリとフィギュアの方に目をやる。
「うっ…」
等身大スケールで作られたフィギュアがじっとこちらを見つめている。
ただでさえリアルに作られているので余計になんか罪悪感が出てくる。
こいつら一体一体を全部バラバラにするのか?このノコギリで?
うん、無理、精神的にもたない。
「駄目だ…、つーかリアル過ぎんだよ、お前んとこのフィギュア」
完全にグロ注意になる。
「よし…解体はやめだ」
「ほっ…」
俺がノコギリを置いた事に安心したのか蜂須賀は一息ついた。
「ところで蜂須賀、お前海と山どっちが好きだ?」
「えっ?何急にその質問、嫌な予感しかしないんだけど…、どっちかっていうと海かな、水着回の定番だし」
「よし、石巻き付けて海に落とそう」
「ひぃっ!ま、間違えた、山、山の方が好きなんだ、山ガール最高!!」
「よし、山の奥に穴掘って埋めよう」
「ひぃいっ!!」
「店長!さすがにそれは…」
「おぉ、言ってくれるか、琴音ちゃん!!」
「不法投棄は環境破壊になるので止めましょう」
そこか…、意外とストイックなやつ…。
「むしろ死体遺棄だろ!さっきから俺の嫁達に何しようとしてんだ!!」
うわ…、キレ始めた、めんどくさい奴。
「わ、わかった、もう少し真面目に考える」
フィギュアに近づいてペタペタと触る。
「そういえば…服は本物だよな、これ」
マネキンに服を着せてる感じで服とフィギュアは別々である。
「ふっ…、当たり前だ、せっかくの等身大フィギュアだぞ?着せ替え出来なくてどうする?」
「本当に気持ち悪いなお前、仕方ない、とりあえず服だけでも脱がすか」
「え?」
「え?じゃねーよ、捨てるなら服とフィギュアは別々に分ける必要あんだろ、それに服は上手くいけば売れるだろ」
「ゴミの分別とかそこら辺意外と細かいですよね…店長」
うるせーよ、最近厳しいんだからな、とか考えながらフィギュアの服を脱がしていく。
「あぁ、美奈子ちゃんの服が俺以外の男に…」
もう蜂須賀のやつ縄でふんじばっても良いだろうか…、とにかくうっさい。
美奈子とかいうキャラクターのフィギュアの制服を脱がすべく、ボタンを一つ一つ外していく。
「………」
さっきから琴音の俺を見る目がつらい…。
「なぁ…琴音、今のお前の目には俺はどう映ってる?」
「すごく…変態っぽいです、店長」
だよなぁ…、フィギュアの服脱がそうとか…。
まぁ実際問題、俺は変態では無いのでフィギュアの服を脱がそうが何も感じないがな。
上を完全に脱がすとフィギュアが下着姿一枚となった。
美奈子とかいうキャラクターは胸がデカイのだろう、フィギュアにもそれはしっかり反映されている。
「服脱がしてもリアルに作ってあんな、特にこの胸とか」
人差し指でつついてみる。
ぷにぷにとした柔らかい弾力…、あれ?これフィギュアだよな?
思わず胸を掴んで確かめてしまう。
「や、柔らかい…だと?」
このおっぱい…、触った感触が人のそれとたいして変わらないじゃないか。
チラリと蜂須賀の方を見ると蜂須賀の奴は無言で親指をぐっと立てた。
俺もそれに無言で親指を立てて返した。
へへ…、蜂須賀の奴、良い仕事するじゃねぇか。
両手でおっぱいを鷲掴みにして、もみもみともんでみる。
「ふむ…」
悪くない、本当に人のそれとほとんど変わんないんじゃないの?これ?
「すげぇな…、この柔らかさを再現するのかなり大変だっただろ?」
もみもみ。
「当然だ、最新技術の人工皮膚にシリコンをブレンドし、限りなく女性のおっぱいに近付けている」
ぱふぱふ。
「これ、乳首はどうやって再現されてんだ?」
こりこり。
「あぁ、それはだな、温度を感知する機械が一定の温度を感知すると乳首がーーー」
いじいじ。
「へぇ…、なるほど、だから乳首が…、ん?」
見ると会話を続ける俺と蜂須賀を琴音さんが冷た~い目で見てました。
しまった…、あまりのおっぱいの再現度に琴音の存在を忘れてた。
「あの~…、琴音、さん?その、今の琴音さんの目には俺はどう映ってますか?」
「変態ですね」
即答…、それも声が冷たい冷たい。
「まったく…、変態に技術を与えてしまうからこうなるんです!!」
怒ってそっぽを向く琴音だったが今の琴音の発言には一つ、正してやなければいけない事がある。
「待て、琴音、お前は一つだけ勘違いをしている」
「…なんですか?」
「お前、西園寺のメイドロボは知ってるよな?」
「アルファさんですよね…、そりゃ知ってますけど」
「ならお前はそのメイドロボ、いや、人形のロボットが何故開発されるようになったのか、知っているか?」
「何故…って、ロボットなんですから、身の回りの世話とかをして貰う為に、でしょう?」
さも当たり前のようにそう言う琴音だが、違うのだ、その認識は世間的に向けて誤魔化されたものである。
「違うな…、人形ロボの原点、それは…エロ目的なんだ」
「え?…え~…」
あ、信じてないな、この顔。
「言っとくがマジだからな…、人形ロボの原点はその手のエロ目的な人形に動かせる機能を開発させた事にある、他にもだなーーー」
「なんだか…、私のロボットに対するイメージが変わりそうなのでもう良いです…」
「ま、要するにだ、変態に技術が与えられたんじゃない…、変態だからこそ技術が育ったんだ!!」
「だからもう良いですって!でも服脱がすんなら私がやりますからね!店長は禁止です、禁止!!」
琴音に禁止と言われてしまったが…、こいつ一人にその作業全部やらせるのも大変だ、いや、決して俺が脱がしたい訳じゃなくてね。
「つーか琴音、お前には何か良い案は無いのか?」
「えと…、私ですか」
急に話を振られて戸惑いながらも琴音はうんうんと頭を捻って考えている。
「ほら、女って昔こういう人形とか持ってたもんだろ?確かうちの店にも置いてあったはず」
確か…オモチャコーナーに女の子の人形が置いてあった気がする、いつの時代のものか知らんが。
「それって…ミカちゃん人形の事ですか?」
「おぉ、それ、それだ!ミカちゃん人形」
そういえばそんな名前だった。
「と言われても…、サイズが全然違いますよ、確か捨てる時も普通に捨てたはずですし」
「まぁ、そりゃそうか、大きさがそもそも違うもんな」
「あ…、でも、そういった人形を燃やして供養するって話しは聞いた事ありますけど」
「それだ!!」
「…え?」
今まで黙って話しを聞いていた蜂須賀が閃いたように声に出した。
「え?それだ!!って何?燃やしていいの?この人形」
俺としては手っ取り早いのですごく助かりますけど。
「ち、違う、そうじゃなくて!翼、このフィギュア達、お前の店で売りに出してくれ!!」
「…はぁ?」
急に何を言い出したかと思うと…、何言ってんの、こいつ。
「俺にはどうしてもこの子達を捨てる事が出来ない、だけど…、新たにこの子達を大切にしてくれる人が来てくれるなら俺も納得が出来る!!」
「いやいや、うち駄菓子屋だから、こういうの扱わないから」
「ミカちゃん人形とか売ってるんだろ!?それと同じで!!」
「年齢対象が違うわ!あれはあくまでもガキ向けでお前のフィギュアは大きなお友達用だろうが!!」
たぶん、遊び方が全然違うと思う。
「頼む!売れたら金は全額お前の利益で構わんから…」
「えー…」
ーーー
ーー
ー
「結局…持って帰っちゃいましたね、どーするんですか、店長」
「すまん、金に目が眩んだ」
ただでさえ狭い店内にズラリと置かれた美少女フィギュアはこの店の異常さを説明不用のものにしていた。
しかも店だけでは当然入りきらないので店先にも置いているので最早何の店かわからんくなって来ている。
「これ…、逆にお客さん遠退きません?特に子供とかこんなお店絶対入りたがらないですよ…」
「仕方ないだろ…、一応引き取った分のフィギュアの金は貰っちまったんだから」
しかし、いくら一体四千円だからと言ってもこれは少し欲張り過ぎたか。
は~、と溜め息をついているとひょっこりと蜂須賀が店に顔を出して来やがった。
「よ、翼、おかげで助かったぜ」
「何の用だ?またフィギュアを引き取ってくれって話しならお断りだ、今度は自分でなんとかしろ」
「あぁ、あれから俺も反省してな、なんとか場所を取らないフィギュアを開発出来ないかと考えてたんだ」
へぇ…、こいつなりにちょっとは考えていたとは感心感心。
「そこで俺が開発したのはこの空気で膨らます事の出来る美少女フィギュア、しかも…お湯を入れても膨らむ2パターンが楽しめるようにしてみた!!」
「お前もう帰れ」
駄目だコイツ…、もう出遅れだ。