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第十話:近未来のフィギュア

「え?蜂須賀さんからの頼みですか? 」


「あぁ、なんか大至急来てほしいらしい、ったく…、こっちは店があるってのに」


ため息をついて車を走らせる。


少し前、いつも通り閑古鳥の鳴く店でぼーとしていると蜂須賀から電話がかかってきた。


なんでも大至急工場に…、それも車で来てほしいとの事だ。


助手席に琴音を乗せて車を走らせ、蜂須賀の工場へと向かっていく。


ガタンッとタイヤが補強されていない道路に引っ掛かり、車が大きくがたついた。


その揺れは一度や二度では済まず、車を走らせていると何度も車が揺れる。


「さっきから…、なんだかスゴい揺れてないですか?」


「道路がガタガタだしな…、タイヤがよくなんかに当たるんだよ」


「そういえば…よく見ると道路に亀裂が入ってたり、石なんかも放置されっぱなしですね」


そうなのだ、実際今の道路はマトモに車の走れるもの…、というか俺の車が走れるものではない。


ビュンビュンと俺の横を他の車は快適そうに前へと飛ばしていく。


彼らの車にはタイヤが無い、今ではすっかりポピュラーになった浮力の力で可動する、いわゆる空飛ぶ車で道路の状態なんてお構い無しだ。


というか…、この空飛ぶ車が当たり前になったおかげで道路の整備が怠慢になってしまったと言わざるおえない。


今時タイヤ付けて走ってるのは俺の車ぐらいなんじゃないのか…これ。


その証拠かさっきから俺を追い抜いていく車の大半は一度追い越す前にわざと減速して俺の顔をチラリと見てから追い抜いていってる、クソ…ぶつけてやりたい。


遅くてすいませんね、そんな車買う金無いんすよ。


「なんだか…酔いそうです」


「もうすぐ着くから我慢してくれ…」


何度も車が揺れるのでいい加減耐えられなかったのか、琴音が呟いた。


「戻すなよ…」


「も、戻しません!!店長にはデリカシーが足りないと思います」


「心配して言ってやってんのに…」


ガタガタと揺れる車を走らせて蜂須賀の工場にようやく着いた。


工場に入ると俺を待っていたのか蜂須賀はすぐに見つかった。


「翼!助けてくれ!!フィギュアの置き場が無いんだ!!」


「帰る」


クルリと引き返して工場から出ていこうとする。


「ま、待ってくれ、ちゃんと話しを聞いてくれ!!」


「お前が大至急来てくれなんて言うからこっちはわざわざ店閉めてまできてやってんだぞ…、ふざけんな」


「ま、まぁまぁ店長…、話しくらい聞きましょうよ」


「ったく…、仕方ねぇな」


まぁせっかくわざわざここまで来たんだし、このまま帰ろうとは思ってなかったが。


「んで?人形の置き場が無い…だったか?」


「あ、あぁ、そうなんだ…、最近とくに従業員からの不満が酷くてな」


「そりゃあ通路にあんだけ人形置かれりゃ不満も出るわな…」


通路にびっしりと置かれた人形を思い出してしまう。


「特に夜勤者からの不満が酷いんだ…不気味だからなんとかしてくれって」


「当たり前だ!夜中にこんだけの人形に囲まれてたら普通に怖いだろ」


「なんでだ!?どれもこれも美少女じゃないか!!」


「リアル過ぎるんだよ…、夜中とか特に動き出しそうだし」


「?、最高じゃないか、それ、しかも夜中とか」


…駄目だこいつ、もう手遅れだ。


「あ、あのー、よくわからないんですが」


それまで黙って話しを聞いていた琴音がおずおずと手を上げる。


「ここにあるフィギュアって商品じゃないんですか?だったら置いとくのも仕方ないと思うんですが…」


確かに…、置いてある人形が例えば出荷待ち、みたいなもんならそうだろうがこいつの場合絶対違う。


「いや、ここにあるのは俺の私物なんだ…」


「え、えっと…、だったら工場じゃなくて家に置いておけばいいのでは?」


「そりゃあ置き場があればそうしてるけど…」


「甘いぞ琴音、こいつのフィギュア集めは筋金入りだ、なんたって一分の一等身大フィギュアの収集だぞ、そんなもん何体も家に置いとけると思うか?」


工場の人形が不気味という話しならばこいつの部屋なんかもっと不気味だ。


「あ、あはは…」


「つーかもう捨てるしかないだろ、お前確か同じフィギュアいくつも持ってなかったっけ?」


「まぁな…、全てのフィギュアを保存用、観賞用、使用用と最低でも作っているからな」


「し、使用用…」


「多すぎだバカ…、んなもん一つあれば充分だろ」


つーか一つたりとも要らん、全て捨てろ。


「使用用…」


琴音が顔を真っ赤にさせながらブツブツと呟いている。


「なんだよ琴音…、さっきから」


「だ、だって店長!使用用って事は、つつ、つまり…」


「ほう…、琴音ちゃんは使用用の意味がわかるのか?」


「え?い、いえいえ!!私にはなんのお話しだかさっぱりです!!」


「白々しいぞ…、この耳年増さんめ」


「うぅ…し、知りません!!」


あ、こいつそっぽ向いて拗ねやがった。


「話しを戻すが…捨てるしかないだろ、さすがのお前でももう飽きたフィギュアくらいあるだろ?」


「あるにはあるし…、じつは前に一度捨てに行った事もあるんだけど」


ほう…、こいつにしてはなかなかの進歩じゃないか。


「…近所の人に死体遺棄と間違われて通報されて警察に追い回されて以来、捨てるに捨てれなくなった」


「お前…、まさかフィギュアをそのまま捨てようとしたんじゃないだろうな?」


「まさか!?勿論捨てる前には一日側にいて泣いたに決ってんだろ」


「いや、そこはまったく関係ない、ちゃんと解体したのかって聞いてんの」


そう言いながら近くに置いてあるフィギュアに近寄り、腕の部分を取り外そうとする。


フィギュアに関してはそこまで詳しくは無いが組み立てるやつならたいがい腕は外れるはず…、あれ、取れねーな。


じゃあ頭の部分か…とフィギュアの顔にアイアンクローをかまして頭を取り外そうとしてみるがこれも取れない。


「あ!あぁ翼!てめ、ミーファたんになにしやがる!!」


「うるせーよ、なにがミーファたんだ、それよりこいつ頭も取れねーぞ、どこ外せるんだ?」


「はぁ?何言ってんだ翼」


蜂須賀はやれやれというポーズをすると首を横にふった。


「ミーファたんの身体が外れる訳無いだろ?」


お前がいったい何を言ってるんだ…。


「パーツ全部バラしてバラバラにすりゃ捨てるのも楽だろーが」


「わかってないな…翼、女の子の身体は取れたりくっついたりしないだろ?」


「いや…、人形の身体くらいは取れたりくっついたりしてもいいと思うけど」


じゃあなんだ?ここにあるフィギュア全部、組み立てとかじゃなくてそのまんま完成型なのか?うわ…、めんどくさっ!!


「あ、でも一応、バトル系のアニメで首から上を喰われたキャラとかはキチンと首が外れるようにしてるぞ」


「なんだそのキャラクターへの愛があるのか無いのかよくわからんこだわり…」


しかし、これでもう結論は出たと言ってもいいな。


俺はクルリと引き返し、今だ拗ねてる琴音に声をかける。


「よし、帰るか…、琴音」


「…はい」


むーと顔を膨らませながらも琴音も立ち上がる。


「いやいや、ちょっと!琴音ちゃんもちょっと待ってよ!!一緒に捨てる方々考てくれよ!!」


「等身大のフィギュアを取り外し不可で作ったお前が悪い、こんなもん簡単に処理できるか!!」


ゴミ捨て場では目立ちすぎるしそれ以外の場所に捨てようものならへたすりゃ不法投棄だ。


「そこをなんとか!!」


「嫌だ、だいたいそんなもん手伝って俺になんの特があるんだよ」


「一体につき千円出そう!!」


ピクッ…。


「ほ、ほう…、つまり、フィギュア一体捨てる事に千円…って事か?」


「どうだ?悪くない条件だと思うが」


「………」


頭の中でフィギュアを捨てる労力と報酬を天秤にかけてみる。


うーむ…、一体千円だと十体処理して一万か…。


「二千円だな、こっちは店閉めてまで来てんだ、それくらい貰わんと割りに合わん」


「店って…、お前の店に客なんて…」


「いいさ、従業員が怖がって次々辞めてっても俺は知らんから」


「ま、待て!わかった、二千円だな、払う、払うから!!」


よし、言質をとった。


「やったな琴音!これで一体につき四千円の儲けだぜ!!」


「はい!!…あれ?店長?」


「おいこら翼…、二千円って話しだろ」


「俺と琴音の二人でやるんだ、一人二千円で一体につき四千円」


「さ、詐欺だ…」


「えと…、あはは…」


詐欺とは失礼な、最初にキチンと確認しなかったお前が悪い。


「よし、それじゃあ琴音、やるか」


「でも、どうするんですか?普通に捨てるのも駄目で解体も出来ないのに…」


「まぁ任せろ、金を貰う以上真面目に働くのが俺のポリシーだからな」


ニヤリと不敵に微笑んでやる。


「なぜだろうか…、嫌な予感しかしない」


おいそこー、お前の為にやるんだからなー。




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