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第九話:近未来のタバコ

喫煙はあなたの健康を著しく損なう危険性があります、喫煙者は非喫煙者に比べ、心筋梗塞による死亡率が高くなります。


…らしい、だが待って欲しい、結局の所タバコを吸おうが吸わまいが病気なんてものはなるときはなるのだ。


タバコの煙はあなたの周りの人達の健康を損なう可能性があります、喫煙の際には周りの迷惑にならないよう注意しましょう。


…らしい、だが待って欲しい、今の世の中、空気中に漂ってるものなんてタバコより酷いものは沢山ある、いや、もちろん注意してますけどね。


世間ではもっぱら、タバコの扱いは悪として扱われ、喫煙者は世間で煙たがれる存在となっている。


まぁ本当に煙を吸って吐いてるので煙たがれるという言葉がここまで似合う存在はいないだろう。


否定はしない、だが待って欲しい。


いくらタバコを吸っているといっても…、俺達はここまで虐げられていい存在なのだろうか?


ラーメン屋で食後の一服をしようとタバコを取り出した時の周囲の冷たい視線、マジツラい…。


だが俺は声を大にして言いたい、俺達はあるゆる理不尽に屈服しない、と!!


そう、例えそれが…タバコ税の値上げだろうと!!


『…はい、次のニュースです、増税の噂が流れていたタバコ税についてですが、先ほど正式に決定となりました』


「ぐふっ!!」


テレビで流れていたそのニュースを耳にした瞬間、俺は居間の床に突っ伏した。


「ど、どうしたんですか!?店長!!」


心配した琴音が慌てて駆け寄ってくる。


「こ、琴音…、アレを」


俺はぷるぷると震える指でテレビを指差した。


琴音がそのままテレビを見るとニュースではタバコ税増税のニュースが続いていた。


「はぁ…、タバコの値段がまた上がるんですか」


他人事のようにそう話す琴音、こ、こいつは状況がわかってないのか?


ちなみに…琴音も言っているが…、また、なのだ。


現在、俺の吸ってるタバコは千円オーバーの値段がしている。


はい、皆さん、信じられますかー?千円超えですよ、千円。


なんでも昔はこれが三百円とかで買えたらしい、ぜひその時代に生まれたかったものだ。


それが今じゃ増税につぐ増税で気付けばこの値段。


金が無くなりゃとりあえずタバコ税上げとけ、とか、国はそんな考えじゃないのか?単純すぎんだろ…。


「お前…軽く言ってるがこれ以上タバコの値段が上がってみろ…、我が家の家計事情がますます苦しくなるぞ」


「?、止めればいいじゃないですか、タバコ」


「………」


さも解決と言わんばかりの笑みをする琴音にとりあえず無言でデコピンをかました。


「ひゃうっ!?な、なにするんですか!!」


「お前が余りに無神経な事言うからだ」


「禁煙する良い機会じゃないですか…、身体にも悪いんですし」


額を擦りながら琴音はまだそんな事を言っている。


ったく…、タバコを吸わないこいつからしたら喫煙者の葛藤はわからんだろな。


「いいか琴音…、そんなんで止めれるなら俺はとっくに止めてる!!」


よし、とここはビシッと指を指して答えてやる。


「いや…、そこまでかっこよく言われましても、じゃあ電子タバコはどうですか?私はよく知りませんが最近ではそっちの方が主流なんでしょう」


「電子タバコかぁ…、あれはなぁ…」


確かに琴音の言う通りである。


増税につぐ増税ですっかり人数が減ってしまった喫煙者だが、中には電子タバコの方に移った人の方が多い。


特に最近のは色んな味の電子タバコがあり、ニコチン入りだったり、煙もほとんど普通のタバコと変わらないくらいリアルだ。


「でもあれはなんつーか…、違うんだよ、タバコ吸ってるって感覚が無いっていうか、結局水蒸気出しなぁ」


前に一度使った事はあるが結局合わなくてすぐに飽きてしまった。


「よくわかりませんが…、とりあえず止めましょうか、タバコ」


「止めません」


「値上げするみたいですし、身体にも悪いんですよ」


即答してやったがそれでも琴音は諦めないのか食らい付いてくる。


「金は俺の金で買ってるしお前の前じゃ吸わんだろうが」


「店長の身体の事を心配して言ってるのですが…」


「お前は俺のお母さんか…」


ハァ…と溜め息をついた、まぁタバコを吸わん琴音にこれ以上なんか言っても無駄だろう。


「値上げする前にちょっとでも多くニコチンを摂取しとくか…、タバコ吸ってくる」


えーと…、タバコタバコっと、どこやったっけ?


「店長、どうぞ」


「おっ、悪いな琴音」


琴音からタバコの箱を受け取って窓を開けると庭に出て縁側に腰を下ろす。


「あ、あの~…店長?」


「ん?」


箱から一本取り出してライターを構える。


さぁ、ニコチンだニコチン、嫌な事もこれ一本で忘れられる…、ん?


「…って、これタバコじゃねぇ!」


「良かったです、本当に火を付けるかと思いましたよ」


パッと見、どうみてもタバコの箱だったそれはよく見ると…ウチの店の商品の一つだった。


タバコを吸っている身なのであまり商品に関心の無い俺でもこれはなんとなく見覚えがある。


「おい…、琴音、コレ」


「ふっふっふ♪どうです店長!コーヒーシガレット!これで問題は解決ですよ!!」


「いや、何一つ解決してないからな、なんだそのどや顔」


コーヒーシガレット…、こいつは確かタバコを似せて作ってあるラムネ菓子、だったはずだ。


タバコに似た箱にタバコの棒をモチーフにしたラムネ菓子が入っている。


「タバコを吸いたくなったらコレを食べれば良いんですよ、美味しいですよ、コレ」


「いや、美味いんだろうけどさ…」


「さぁ、店長、どうぞどうぞ!!」


「お、おう…」


ニコニコとした笑顔を続ける琴音に圧倒され、とりあえずコーヒーシガレットを口にくわえた。


「どうですか?店長」


「すごく…マヌケっぽいです」


小学生くらいのガキがこうやって遊ぶのは見ていて微笑ましいものがあるんだろうが…、二十歳過ぎた俺がこんなもんくわえて吸うフリしても…。


「これで口も寂しくありませんし、タバコっぽくかっこつける事も出来ますよ」


「琴音、お前…俺がかっこつけでタバコ吸ってるとか思ってないだろうな」


「え…、違うんですか?」


「違うわ、大人んなると吸いたくなる時があるんだよ、ガキじゃないんだから単なるかっこつけで吸ってる訳じゃない」


ストレスとか溜まると特にそう、そしてストレスを溜めるのは身体に良くない。


あれ、もしかしてタバコって身体に良いんじゃね?


「まぁまだお子様のお前にはわからんだろうな、あの煙を漂わせる感覚」


「む~…、わかりました、ようするに煙が出れば良いんですね?」


お子様扱いされた事が不満だったのか、琴音は頬をむくらませるとごそごそと何やらした後に近寄ってくる。


「…琴音?」


つーか近いから、その…もう少し離れませんか?


なんで急に密着してくるんだ、こいつ?


「店長はそのまま動かないで下さいね、そのままコーヒーシガレットをくわえてて下さい」


「…?」


言われたままにそのままでいると琴音が指先を俺のくわえてるコーヒーシガレットの先っぽに近付けた。


そして人差し指と親指をくっつけたり離したりを繰り返した。


「…えっ!?」


するとその指先から…煙がふわふわと現れて上へ上へと上昇していく。


「え?なにそれ!?琴音、お前にそんな能力があったのか!!」


「はい?能力…ですか?」


「指先から煙を出す能力…じゃないのか?」


「…なんですか、その使い道に困るだけの能力」


そうか?持ってたら色々と…、うん、使い道が特に思い浮かばんね、その能力。


ただし、煙は指から出る。


「違いますよ、これは妖怪けむりっていってウチの商品の一つです」


「なぬ…?」


そう言いながら琴音が取り出したのはパッケージに妖怪の絵が書かれたものだった。


「この中に煙の元があるのですよ」


「煙の元?」


「このろうそくが固まってるみたいなやつを指につけて…っと」


琴音は人差し指をそれにつける。


「そしてさっきみたいに指をつけたり離したりすれば…、ほら」


「お!おぉお!!」


そして先ほどと同じように人差し指から煙を出してみせた、なにコレ、すげぇ楽しそう。


「店長もやってみますか?」


「やる!」


即答して琴音からその妖怪けむりを受けとると琴音と同じようにやってみた。


煙が指先からふわふわと発生し、上へと上がる。


やべっ…、これは中々にテンションが上がる。


「こ、これはけっこう楽しいな」


「えへへ♪でしょ」


二人でしばし、妖怪けむりで遊んだ。


「どうです?店長、この妖怪けむりとコーヒーシガレットを合わせれば、もうタバコなんて必要ありませんよね」


「いや、その理屈はおかしい」


「…ひっかかりませんか」


「当たり前だ…、阿呆」


それとコレとは話しが別次元だ。


「む~、店長の頑固者」


琴音としてはまだ諦めていないのか、なにやらウンウンとうなっている。


「そうです、ガムですよ、ガム」


「ガム…?またえらく古典的な方々を」


タバコの変わりにガムを噛んで口の寂しさを紛らわせる、なんてやり方はよく聞くけど。


「という訳で店長、コレをどうぞ!!」


そう言って琴音はガムを俺に差し出してきた。


「おいおい…、琴音、今からタバコ吸うんだが」


「いいですから、ほら、タバコの前に噛んで下さいよ」


「ったく…」


あまりにも強要してくるので仕方なく琴音からガムを受け取り、口に入れた。


…なんだこのガム、ちょっと変わった味だな。


しばらくガムを味わいつつも、さっさとタバコを吸いたいので適当な紙に吐き出した。


「ほら、もういーだろ、タバコ吸うんだから向こう行ってろ」


一度居間に戻り、今度こそタバコを一本取り出すと口にくわえてライターの火を付ける。


「すぅ…」


煙を体内に充満させ、一気に吐き出す…、うん、美味い。


吐き出した煙をぼーと見つめていると再び、琴音が近寄ってきた、こいつもなかなか懲りないな。


「そういえば店長、知ってましたか?」


「…何が?」


「タバコを吸いすぎると…、なんと舌が青くなってしまうんですよ!!」


「…はぁ?」


なんだ急に…、今度はオカルト的なもんを持ち出して来たのか。


「アホ…、んな訳あるかよ」


「いえいえ…、本当なんですよ、嘘だと思うならコレを見てください」


そう言って琴音は手鏡を俺に渡してくれる。


だいたい…、タバコの吸いすぎで舌が青くなるかよ、そんなんだったら俺なんてとっくに…、えっ?


「…は?えっ!?」


青い…。


俺の舌は驚くくらい真っ青な青色だった。


「なっ…、ななな!な!!」


見間違いか?と思い、よくわかるようにとべーっと舌を出してみる。


青い…、俺の舌は間違いなく、青色であった。


「あ~、店長…、もう青色じゃないですか、青色はになってしまうともうヤバイんですよ」


「え…、ヤバイの?な、何が?」


「な、何がですか?、えと…その、青いと、マジヤバイんです!!最悪死にます!!」


「最悪死ぬの!?」


正直に言えば…、こいつの言っている事は意味不明なのだが、ヤバイのは間違い無さそうだ、だって実際に舌が青いのだし。


「つーかなんだ!俺は一生舌が青く染まったまま生き続かねばならんのか!!」


「いいえ店長、これはタバコを止めれば治ると聞きましたよ」


「そ、そうなのか!?」


「はい、そうすればマジヤバイのも治るかもしれません」


「…よし、だったら、俺はタバコを止めるぞ!!」


この舌の青さはどう考えても普通じゃない、これが最終警告なのだとすれば、俺に出来る事といえばこれ以上の悪化を防ぐ事だ。


「やった…、【青べ~だ】作戦、大成功です」


「ん?なんか言ったか?」


「い、いえ…、何も」


琴音がなにやら小声で喋っていまので聞いてみたが、琴音は慌てて顔をそむけると何かを背中に隠した。


「…今何か隠さなかったか?」


「いえ、何も隠してませんけど」


「そうか…、まぁいいや、今はそんな事、大した問題じゃないだろうし」


それよりも禁煙だ禁煙、今から対策とらないとな。


こうして俺の禁煙生活が始まった。

























ーーー


ーー



翌日…。


「あ~!!店長!なんでまたタバコ吸ってるんですか!!」


居間で起床の一服にひたっていると琴音が大声をあげて騒ぎ立ててくる。


「朝からうるさい奴だな」


「だ、だって…昨日の夜禁煙するって…」


「あぁ、禁煙してた、でも朝起きたら舌も治ってたしまた吸い始めたんだよ」


禁煙なんて簡単だな、何回でも出来そうだ。


「いやいや…、それは禁煙とは言わないと思いますが」


「…ところで琴音、こいつはなんだ?」


俺は琴音に昨日こいつが隠してたある物を見せてやる。


「え?えっと…、それは」


「なになに…、噛めば舌が青くなるガム、青べーだ?」


このみょうちくりんなガムこそが俺が昨日食べさせられた物で俺の舌を青くした真の原因である。


「ははは…」


「ったく…、次から次にいろんな道具持ち出してきて、この琴えモンが!!」


「こ、琴えモンって…」


「安心しろ、もともと一日の本数くらいは減らすつもりだったんだよ」


「え?そうだったんですか!?」


「まぁタバコの値段も上がるしな…、それに、その…健康的?な事も考えて、な」


「さすが店長です!そうやってちょっとずつ吸う量を減らしていけばきっと禁煙も出来ますよ!!」


「だろ?明日から減らしてこうと思う」


「…明日から?!」



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