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第七話:近未来のオモチャの宝箱、そのさん

「わ~!ここが店長の知り合いの工場ですか、大きいですね~!!」



琴音が大きな口を開いて工場を見上げる。


確かにデカイ、まぁ美少女キャラのフィギュアから駄菓子まで取り扱ってるしな。


「店長店長!知り合いの工場という事はこの工場の持ち主がそうなんですか?」


「まぁな…、昔からの馴染みだ、ウチの駄菓子屋の仕入れがこの工場だから親ぐるみの付き合いだな」


「店長、結構スゴい人と知り合いなんじゃないですか」


「いや、あれをスゴい人と呼んでいいのかはだはだ疑問だ」


「…?」


美少女キャラのフィギュアなんか工場で生産している奴なんだ…察してくれ。


そんなこんなで工場の中へと入っていく。


入るなり出迎えてくれたのは事務局の格好をした女性である。


「あっ!こんにちはー」


琴音が元気いっぱいに挨拶をかわす。


「………」


しかし相手から返事は無い。


「…?こんにちはー?」


「無駄だ琴音、それ、人形だから」


「へ…?えぇっ!?」


原寸大一分の一スケールの人形である、そりゃ勘違いしてもおかしくない。


「これ…、本当に人形なんですか?人間みたい」


「メイドロボやアンドロイドと比べてフィギュア関連は規制が厳しくないからな」


コンコンと人形を叩いてみると思ったより固く無い、人に比べると不自然ではあるが。


「アルファさんなんて見た目でなんとなくロボットだとわかりますよね」


「そりゃそうだ、ああいう自立型のロボットは人間そっくりに作る事を禁止されてるからな」


「何故ですか?」


「犯罪に利用されたり…、まぁいろいろだ」


「ですが…、ここまでそっくりだとちょっと怖くないですか?」


「おいおい、こんなもんまだまだ序の口だぞ」


なんたってここはそのフィギュアを作ってる工場なんだから。


琴音を連れて入口から更に奥に進んでみる。


「ひっ…」


琴音が小さな悲鳴をあげるのも無理は無い。


通路にズラーと並ぶ人形、人形、人形。


俺はよく知らないがアニメ関連のものが多いのはなんとなくわかる。


「ったく…また増えてないか、あいつ」


「なんか…女子高に来てるみたいです、これ全部売り物なんですか?」


いや、アニメ関連が多いので必然的に学園物の制服が多いが制服がバラバラだし魔法少女っぽいのも要るし、まさにカオスだ。


「いや、これこそあいつの趣味だぞ」


「えぇっ!?」


「ここにあるのは要するに…ガレージキッドだからな」


「がれーじきっど?」


「非公式の個人で作るプラモとか…、フィギュアとか、まぁそんな所だ」


工場の持ち主という立場を利用してやってるのはどうかと思うが…、なんかこれがなかなか金にもなっているらしい。


「奴の恐ろしい所はアニメに一話とかで出て来たいわゆる使い捨てのキャラだろうと自分が気に入ればフィギュア化してしまう事だ」


オタク…恐るべし。


「何者なんですか…その人」


「だから…そういう奴なんだよ、察しろ」


「はぁ…」


「しかし肝心のあいつはどこだ、一応くる前に連絡はしたんだがなぁ…」


「呼んだか?」


「えっ…、きゃあ!!」


独り言に返事が返って来たと思ったらぬっと人形と人形の間から出てきやがる。


「よっ!翼、なんだまたチョコ玉の注文か?」


「人形の間から突然声をかけるな、びっくりするだろ」


この男こそこの工場の持ち主であり俺の昔からの腐れ縁でもある。


元々こいつの両親が経営していたその時はまだ潰れかけだった工場を引き継いでここまで発展させたので、ここだけ聞くと本当にスゴい奴に聞こえてくる。


が、本当の所は工場主の立場を利用してフィギュアを作りたい放題しているアホである。


「いい加減、少しは片付けろよ、こんだけあると不気味でしかないぞ」


「いや~、今期のアニメもなかなか豊作でさ、フィギュアの置くスペースもどんどん無くなって来て」


「無計画に作りすぎなんだよ…、ただでさえ一分の一スケールは場所取るってのに」


「あ、あの…、はじめまして」


そこで今までびっくりしていて固まっていた琴音が気が付いたのか、深々と頭を下げる。


「おわっ!?フィギュアが動いた!!」


「落ち着け、人だから」


「ついにフィギュア愛ゆえに魂が宿ったかと思ってしまった」


それ、心霊系の番組とかでよく言ってるやつだからね、むしろ恐いから。


「以前話したと思うがうちの店のバイトだ」


「朝河 琴音です、えっと…」


「へぇ…、君がそうなのか、俺は蜂須賀(はちすか) 謙治(けんじ)、人は俺の事をパペットマスターと呼ぶ!!」


「えっ、えと…」


爽やかな笑顔とアホな台詞を混じらせて挨拶をかわす蜂須賀に困惑している琴音がチラチラと俺を見てくる。


「そのまんまの意味だ、公式で販売されない使い捨てキャラのようなマイナーキャラのフィギュも注文によっては作ってくれるってんで一部のコアなファンから神格化さえされてるんだよ」


同然値段も高いはずなんだけどなぁ…、あいつらの財政原はどっから来ているのだろう。


「そういうのって…売れるんですか?」


「おっ、もしかして興味あったりする?」


「えと…、少しは」


おい、止めとけ琴音。


「そうだな…、最近の目玉商品はこれだな」


そう言って蜂須賀が指さしたのはそれこそなんの特徴も無さそうなフィギュアだった。


「まぁ見た目の華やかさの無さで主人公では無いってのはわかるが…、何のキャラだ?」


「魔法少女、ヤマダ☆ハナコのアニメのキャラだけど?知らんのか?」


なんだその芸名みたいな魔法少女。


「あれ…、そのアニメなら私も少し見てましたけどこんなキャラクター居ましたっけ?」


「だからマイナーキャラなんだよ」


「正解は主人公のハナコのクラスメイトだ、三話にチラッと出てる」


ズッコケた…。


「マイナーすぎるわ!モブ中のモブじゃないか!!」


本筋と一切絡まないキャラのフィギュア化とか誰が得するのだろう…。


「まぁそんな事はどーでも良い、今日は一言文句を言いに来たんだった」


「なんだ?俺のフィギュアに文句でもあるのか?」


「いつ俺がお前の店でフィギュアを注文したよ…、駄菓子の方だ」


「あぁ…、そっちか」


「あ、あの…、ずっと気になってたんですがこの工場って…、フィギュアも駄菓子も玩具も全部作ってるんですね」


「そうだよ~、琴音ちゃん、駄菓子類はともかくとしても翼の店の玩具なんて作ってるのうちの工場くらいじゃないかな?」


「一言余計だ、まぁ…否定はせんが」


銀玉鉄砲とか福笑いとか…、他の製造元不明なもんばっかだし。


「メーカーさんも材料もバラバラですし、どうやって作ってるのかと…」


「どうって…製造権だけど」


「蜂須賀、こいつはちょっと世間知らずな所があるからな、ちょっと生産の仕方を見せてやってくれ」


「あぁ、別に良いけど」


蜂須賀に案内されて俺達は駄菓子の生産ラインへと赴く。


大きめの機械が置かれているが今のところ動いている様子はなかった。


「あの…、私、製造権ってのがよくわからないんですが…」


「ん~、製造権ってのは簡単に言えば作って良い権利の事だよ、元の販売元にお金を支払ってこいつを貰うわけ」


そう言って蜂須賀が取り出したのはカードの束だった。


「たとえば…チョコ玉を作ろうと思ったら、チョコ玉のカードを機械に通す、そんで作りたい数を入れる」


ピピピッと蜂須賀が機械になにやら入力するとパッと画面が切り替わった。


「今画面に映ってるのが必要な材料、その下のがその材料の在庫の数、あとは決定を押せば機械が勝手にやってくれる」


「ほぇ~…」


琴音はポカーンと大口を広げて話しを聞いている。


正直言えば俺もこの機械の仕組みはよくわからんが、これ一つでカードさえあればいろんな駄菓子が作れるのだ、便利な世の中である。


「じゃあ…このカードと材料さえあれば駄菓子が作り放題って事ですか?」


「まぁ作り放題といえばそうだけど、毎月生産数の数パーセントを販売元に支払う事になるから、無計画に作ろうもんならすぐに赤字だけどね」


つまり、作れば作った分だけその月の支払う金額も増える。


今の世の中、基本的に注文を受けてからの生産が基本という訳だ。


「はぁ~、なるほど、製造権で各メーカーさんはもうお金を貰ってるから一つの工場でいろんな駄菓子が作れるんですね」


「そういう事だ、勉強になったか?」


「なんとなくですけど…」


よし、琴音の社会勉強が終わった所で次は俺の番だ。


「さて蜂須賀、さっきも言ったが今日はお前に文句を言いに来た」


俺は蜂須賀に事の事情を説明してやる。


オモチャの宝箱のキャンペーン終了の話しとこの工場が未だに女神様の出るチョコ玉を作ってる事についてだ。


「てな訳だ、お前の工場で作ってるチョコ玉のパッケージは相当古いやつみたいだが?」


「あぁ、みたいだな」


「みたいだなって…、えっ?知ってたの?」


あっさりと頷いた蜂須賀に拍子抜けした。


「おいおい、これでもこの工場の運営者だぜ?自分とこで作ってるもんくらい、ある程度は把握してるさ」


「…店長?」


「あー、うん」


自分の店の商品について把握してない俺からするとちょっと耳の痛い話しです、はい。


「って…、おい待て、知ってんならなんでパッケージを古いままにしとくんだよ、普通新しく変えるだろ」


それさえしておけば今回のような事は起こらなかったはずだ。


「俺も疑問に思ってな、そんときじいさんに聞いてみた話しなんだが…」


蜂須賀の話しはこうだ。


オモチャの宝箱のキャンペーンが終了したのはどうやら蜂須賀のじいさんの世代の頃で、それは同時に俺のじいさんばあさんが駄菓子屋を経営していた時期でもある。


キャンペーンの終了を受けた蜂須賀のじいさんがウチの店に新しいパッケージの、オモチャの宝箱終了後のチョコ玉を持ってった所、ウチのじい様はつまらんと断ったらしい。


それで話し合ったら結果、ひっそりと自分たちだけでオモチャの宝箱キャンペーンを続けていたそうだ。


オモチャの宝箱は蜂須賀の工場が作っていたらしい。


「メーカー無視してまで、なんつー迷惑な…」


下手すりゃ訴えられないか?これ?


「でもまぁ…、結局お前の店でチョコ玉を買う人も減ったし、うちもオモチャの宝箱なんて作る機会が無くなったんだけどな」


当たり前だ、売上の芳しくないウチの店限定のキャンペーンなんてすぐに廃れるに決まってる。


それで結局、オモチャの宝箱が出ないまま、キャンペーンだけは続けられた訳か。


「ったく…、相当の変わり者だな、俺のじいさんとばあさんは」


「そうですか?私にはつまらないと言ったお二人の気持ちが良くわかりますけど…」


「琴音?」


「チョコ玉を開ける時に銀の女神様出ないかな~、もしかしたら金の女神様が出るかも、みたいなワクワク感が無くなっちゃいますし、そういったおまけの要素って駄菓子には大事だと思うんですよ」


「そういうもんかね…今の時代、ガキ共はそんなもんに興味無さそうだが」


チョコ玉のお菓子を開ける度に、ドキドキワクワクして、女神様の出現を期待するような奴…。


…に、残念ながら心当たりがあってしまった。


「店長、そもそも私たちがどうしてここに来たか、忘れちゃいました?」


「…覚えてるよ、ったく」


悪戯っぽく笑う琴音に答えて俺はポリポリと頬をかくとポケットから五枚の銀の女神様を取り出した。


「喜べ蜂須賀、今日はオモチャの宝箱の復活する記念すべき日だ」




















ーーー


ーー



「はぁ…、終わった」


駄菓子屋のカウンターで溜め息と同時に机にぐてーと突っ伏す。


先ほどまで西園寺のお嬢さんが来ていて例のオモチャの宝箱を渡した所だ。


そして今日がたぶん、この店の最後の命日となるだろう。


「どうしたんですか店長…、無事にオモチャの宝箱も翠ちゃんに渡せたのに」


「いや…、そのオモチャの宝箱が問題なんだろ」


幸いにもオモチャの宝箱のデータは蜂須賀の工場に残っていたので、すぐに作る事が出来た。


宝箱…と銘打ってた癖にそれはパッケージにも書かれている鳥っぽい妙な生物のイメージキャラクターの形をした入れ物で中に数点のオモチャが入れられているだけのものだった。


そのオモチャだってコロコロと転がせばそのイメージキャラクターが押されていくスタンプだったり、ゼンマイをまいてそのイメージキャラクターを走らせる玩具だったり…シールだったり、なんつーか…うん。


はっきり言ってあのお嬢さんが満足するとは思えないラインナップだったが…、これが真実、オモチャの宝箱だったのだ、他に何のやりようもない。


「家に帰ってあの宝箱を開けたお嬢さんが発狂しなければいいんだけどな…」


「あはは…、大丈夫ですよ、たぶん」


だといいんだけどな…。


「でも…、続ける事にしたんですね、オモチャの宝箱」


あのあと蜂須賀と話し、結局パッケージについては今まで通りにする事にした。


「まぁなんだかんだ言って今回はだいぶ儲けに繋がったしな、またあのお嬢さんみたいに女神様目当てに買う客も出てくるかもしれんし」


得に銀の女神のシステムはなかなか素晴らしい、一つ出てしまえば五枚集めないとなんとなく勿体無い気分にさせられてしまうので五枚集めようとしてくれるお客も出てくれるかもしれない。


「オモチャの宝箱自体も中身があれだからな、コストもそこまでかからんし」


そう言いながら適当なチョコ玉を物色して、手に取る。


この騒動の発端であるこのお菓子を食べる事でちょっとでも気持ちをなだめさせよう。


「そういえば…、向井君の謎が解けました」


「まっ、あんだけ自慢しといて中身があれじゃ学校に持ってけんわな」


ピリピリと袋を破いて中身を取り出そうとした、ふと…思う。


オモチャの宝箱のキャンペーンが終了したのは俺のじいさんばあさんの世代だと蜂須賀は言った。


んで…、なんで琴音はオモチャの宝箱のキャンペーンを知っていて、彼女のクラスメイトのチョコ玉向井はオモチャの宝箱を当てる事が出来たんだ?


「…どうしました?」


「…いや」


琴音自身は気付いているのか?この奇妙な矛盾に。


考えながらペリッと袋を取ってチョコ玉が出てくるくちばしを開く。


「…む?」


「あぁっ!!」


そこには金色に印刷された女神様が微笑みを浮かべてプリントされていた。


やれやれ、物欲センサーって恐ろしいもんだ…。


苦笑しつつ、後であのお嬢さんにでも見せて悔しがる顔でも見てやろうかと金色の女神様を切り取る。


なるほど、出れば少しは嬉しいもんだ。


【その夜、西園寺邸にて】


「ころころころ~♪」


西園寺 翠が自室にてチョコ玉のイメージキャラクターの形をしたスタンプをノートに滑らせていた。


翠がスタンプを滑らせるとノートにはそのイメージキャラクターが押されていく。


「はぁ~…、可愛いですね」


そしてそれをうっとりとした表情で翠は眺める。


「ふふんっ♪チョコ玉を食べるのは大変でしたけど、その価値はあったようですね、こんな可愛らしいキャラクターが居たなんて、さて…、次は何で遊びましょうか♪」


鼻歌混じりにオモチャの宝箱を物色してたりする。


「お嬢様、明日のご予定ですが…」


「ひゃうっ!?」


彼女は彼女で、オモチャの宝箱を満喫してたりしていた。

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